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食が繋ぐ先に「愉しみ」がある。イタリアンに新たな付加価値をつける恵比寿【H1】
2024/11/6

食が繋ぐ先に「愉しみ」がある。イタリアンに新たな付加価値をつける恵比寿【H1】

イタリアの三ツ星レストラン【レ・カランドレ】、二ツ星【アッリ・アミーチ】をはじめ、欧州各国のレストランで研鑽を積んだ後、帰国。イタリア料理の手法と日本の食材を融合させ、既存のジャンルや調理法に囚われない独創性のある料理へと昇華させたことで、恵比寿【H(アッカ)】の名を世に知らしめた堀江 徹哉氏。【H(アッカ)】のオーナーチェンジに伴い、自ら店を買い上げ、2024年10月より【H1(エイチワン)】のオーナーシェフとして新たな門出を迎えた。独立までの経緯、食材や生産者への想い、店作りに対する考えなど堀江氏の世界観に迫った。

自由と独創性を学んだ原点は欧州にあり

―――これまでの経歴を教えてください。

父親がフレンチのシェフだったこともあり、迷うことなく自分も同じ道に進みました。最初はパティシエの勉強から入ったのですが、父の知り合いの店を手伝ううちに料理をもっと勉強したいという想いが強くなり、24歳の時に単身イタリア修行を決めました。とにかく現地で学びたい一心でイタリアに行きまして、最初はレストランの雑用をしながら言葉を覚えました。

イタリアには4年半居ましたが、街場のレストランから一ツ星・二ツ星・三ツ星レストランまで色々な店で働きました。大変なこともありましたが、最終的には星付きレストランの重要なポジションを任せていただくなど、貴重な経験をさせていただきましたね。その後はイタリアで知り合ったシェフに紹介してもらい、約1年かけてクロアチア・オーストリア・スウェーデン・デンマークなどに足を伸ばして各国の店で働いたことも良い体験になりました。

ーーー修行中、印象に残っていることは何ですか?

日本で働いている時は、イタリア人シェフは自国を愛してイタリア料理だけを作っているというイメージしかなかったんですよね。「イタリアに行ってそれを学ぶんだ!」と意気込んで現地に行きましたし。ところが、現地で出逢うシェフの多くは、色々な地域や国の文化をうまく取り入れながら、それぞれのスタイルでイタリア風の料理に昇華させていることに驚きました。例えば、フランスで修行したシェフがイタリアに帰ってきて、フレンチの技法を使いながらイタリア料理に仕上げていくのです。他にも、日本の食材を使うイタリア人シェフも珍しくなく、彼らの姿を見て「料理は自由でいいんだな」とハッとさせられましたね。一つの概念に囚われていないけれど、最終的にそのシェフのイタリア料理になっているところがとても素敵だなと思いました。

ーーー出逢ったシェフたちの仕事への向き合い方についてはどのように感じましたか?

とにかく仕事に対する熱量が半端なかったですね。イタリアでは14歳頃に進路の専攻を決めるので、多くの料理人は日本でいうところの中学卒業よりも早い段階で料理の勉強を始めて、現場で経験を積んでいました。日本に比べると貧富の差が激しいので、みんな野心家というか「料理の腕を磨いて有名になりたい!」という気迫が物すごいんですよ。自分も料理に対して熱い想いを持ってイタリアに渡りましたが、ちょっとでも熱量が薄いと置いていかれてしまうので負けていられませんよね、気が引き締まりました。彼らとは今でも交流が続いてます。昨年はイタリアでコラボイベントを行うなど、良い関係で多くの刺激をもらっています。

ーーー帰国後はどのようなキャリアを積まれたのですか?

日本に戻ってからは知人の店の手伝いを経て、2020年から神楽坂【H acca(アッカ)】のシェフを任せていただきました。ジャンルでいうとイノベーティブフュージョンとも評される、いわゆる創作系イタリアンです。神楽坂で一年営業した後、ここ恵比寿への移転に伴い店名を【H(アッカ)】に変えて2023年まで営業しましたが、この度オーナーさんから店を買い取らせていただく形で独立が決まり、2024年10月【H1(エイチワン)】を開業しました。

―――開業にあたりどんなお気持ちですか?

一般的に独立して開業する場合、これまでの店と違う場所でやることがほとんどですよね。僕の場合、店の場所もシェフである僕自身も変わらないんです。一部、店内は改装しましたが、これまで培った料理の味や経験を活かしながらも、独立したことをどのような形でお客様に伝えていくか。【H1】でしかできない食事やサービスを、これから追求しながらやっていくことになると思います。

ーーーお店はどのようなお客様が来店されますか?

カウンター8席のみ、貸切の場合は10名様まで予約も可能です。30代後半から40代後半のお客様が中心で、3~4名様で利用される方も多いです。9品のコース料理と21時以降はアラカルトもやっています。完全予約制で週末のみランチの営業も行っていますよ。

多彩な背景をもつ料理と独立への想い

ーーー【H1】の料理の特徴を教えてください。

ジャンルとしてはイタリアンを掲げていますが、創作を加えた「H1流のイタリアン」といった感じでしょうか。というのも、僕の料理はイタリアをはじめ北欧などのヨーロッパ各国での経験や、フレンチのシェフである父からの影響も少なからず受けていると思います。さらに、東京は日本各地の素晴らしい食材を手に入れることができる場所なので、積極的に日本のおいしい食材も使っていきたいですし、自分のフィルターを通した「日本でやるイタリアン」にこだわりたいなと。

―――日本の食材を使ったコース料理の一例を紹介していただけますか?

例えば、リゾットは石川県能美市「たけもと農場」の竹本さんが作るお米「カルナローリ」に新潟県南魚沼市「関農園」の関さんが作る「八色しいたけ」を合わせます。ヨーロッパにもおいしいカルナローリやキノコはたくさんありますが、輸送量と日数をかけて取り寄せなくても、日本にも負けないくらい旨味のある食材が沢山あるんですよね。関さんが作る八色しいたけは、菌床に富山県産の楢のチップを使っています。さらに魚沼産コシヒカリの米糠、牡蠣の粉末を肥料にブレンドして育てた椎茸は肉厚で風味豊かなので、従来のリゾットという枠には囚われずに、あえて椎茸をメインにした一品にしています。

―――食材の産地だけでなく、農場の名前や作り手のお名前などが次々に出てくるんですね! 作り手との出逢いや食材選びはどのようにしているのですか?

今でこそ生産者さんの顔を浮かべながらこうしてご紹介できますが、5年ぶりにヨーロッパから帰国した時は自分が食材のことをあまりにも知らな過ぎて愕然としたんですよ。それまでは先輩シェフが発注を担当していたので、何も考えずとも食材が届くのが当たり前でした。

ところが、神楽坂の店で仕入れを任せてもらうようになった時、日本各地にどんな食材があって、どのように育てられているか、生産者さんの名前はもちろん彼らの想いなどほとんど知らないことに気が付いて恥ずかしくなったんです。これまで自分が分かっていたのは調理の方法であって、食材のことはほとんど知らなかったんだな、とね。

そこから現地に足を運び食材を見て触って、生産者さんと話をすることで料理への見方や想いがより深まっていきました。日本には素晴らしい生産者さんが沢山います。その方たちの存在や想い、生産風景などを召し上がっていただくお客様にももっと鮮明に届けたいと思い、メニューには産地だけでなく生産者さんの農園や名前も載せるようにしたんです。そこからお客様とのお話が弾むこともあるので、料理の奥行を感じてもらえたら嬉しいです。

ーーー料理を考える時に、食材の組み合わせについて大切にしていることはありますか? 

イタリアンやフレンチは食材同士を合わせたり、食材を加工してソースを作る、調味料を加えるなど、複数の食材の組み合わせを考えながら作る料理なので、食材単体の存在感よりも「組み合わせ」によってどういう一皿に化けるかというところを重視します。

以前、スペシャリテの駝鳥のサンドウィッチに焼きたてのパンを取り寄せて作ったところ、パンの香りが強すぎて主役であるはずの駝鳥よりもパンの印象が強すぎてしまうことがありました。和食やお寿司屋さんは素材そのものが上質で存在感のあるものを使いますが、これは素材同士のバランスがうまくいかなかった例だと思いました。素材同士のバランス感覚は大事にして意識しています。

一皿を仕上げるまでに必要な手数やパーツについては、だいたい3~4つくらいで一皿を完成させるイメージです。星付きの著名なシェフともなると数十人のスタッフが肉や魚、ソースを担当してセクションごとに分かれて作りますが、ここは僕一人なので複雑な工程の料理よりもお客様が召し上がった時に美味しさがシンプルに伝わることを大切にしています。手を加えすぎず、これは何の食材なのか、五感で愉しんで満足していただけるような料理を目指しています。

皆んなの「愉しい」を創る場所にしたい

―――これからどんな店づくりをしていきたいですか?

おいしい料理を作ることはもちろんですが、みんなが「愉しかった」と思える場所にしたいんです。レストランはみんなが集い、みんなで作るものだと思うんです。ホールを見守るマネージャー、厨房や洗い場でサポートをしてくれるアルバイトがいて、一つのチームなんですよね。スタッフが愉しい気持ちで働かないと間違いなくお客様に伝わります。お客様だけではなく、ここに集う人たちにとって愉しい空間を創る努力はこれからも必要ですし、僕の使命だと思っています。

ーーーL字型のカウンターは解放感がありますね。この距離感は接客にどんな影響を与えていますか?

見ていただけるとわかると思いますが、当店はキッチンを遮るものが何も無いんですよね。冷蔵庫やオーブンの扉を開けるところ、中央で食材に包丁を入れる瞬間、料理の盛り付けやお食事を提供する様子など、全ての風景がお客様それぞれの位置から確認できる空間なんです。香りや音、僕たちスタッフの動きや会話などのライブ感をお愉しみいただけるのが、カウンターならではの良さだと思います。

また、お客様との距離が近い分、こちらからもお客様の様子はよく見えるんです。「愉しい」空間といっても、お喋りを好む方とそうでない方もいらっしゃいますし、「愉しみ」方は人それぞれですよね。その場の雰囲気やお客様の様子を壊さないように、全体に目を配っています。

あとは小さなサインを見逃さないこと。例えば、薄着でいらっしゃった女性のお客様がちょっと腕に手を添える仕草をされた時には、「寒いのかな」と室温調整やひざ掛けなどの配慮が必要な場合があります。たとえレストランにミシュランの星が有ろうと無かろうと細かな気配りは欠かせないと思うので、スタッフとも意識を共有しています。

「Oishii」は世界を繫ぐ共通言語

ーーー今後の展望、計画があれば教えてください。

やりたいことは色々あります。まず【H1】の料理の幅をさらに広げていきたいですね。一つ目はアラカルトに力を入れていきます。独立してから新しい試みなのですが、21時以降は価格を抑えたアラカルトをご用意し、コース料理を召し上がったお客様だけでなく、二軒目として来店されるお客様にも愉しんでいただけるような形でやっています。

二つ目は来年5月からシェフが一名新たに合流する予定です。イタリアで一緒に働いていた仲間で、僕の料理だけではなく色々なニュアンスの料理が増えていくと思うのでとても楽しみです。

三つ目は来年、海外の店に僕が出向く形でコラボレーションディナーをするかもしれません。コラボレーションは、それぞれのシェフの料理やサービスについての考えや方法を知ることのできる貴重なチャンスです。自分たちの日頃の料理や接客を客観的に捉える良い機会にもなるので、スタッフと共有して店の経営に活かしていこうと思います。

【H1】以外のところでは、ここよりももう少しカジュアルなレストランの展開の構想を練っています。まだ場所などは決まっていませんが、良い場所と人材との出逢いがあれば挑戦したいですね。いつの日か「こんな料理をやりたい」という夢を抱いた若い子が入って来た時に、一緒に挑戦したり若い子が輝ける場所を用意して、みんなが「愉しい」と思える会社としていけるよう、これからも成長を止めないでいきたいです。

ーーー最後に、堀江様にとって「おいしい」とは?

「おいしい」は人を笑顔にするものだと思います。ヨーロッパでは特にアニメの影響が大きいと思うのですが、日本語の「Oishii!」はどこの国でも割と通じるんですよ。世界に目を向けると肌の色や文化、宗教の違いなどの複雑な問題もありますが、人が生きていく上で欠かせない「衣食住」の中でも「食」を豊かにする「おいしい」は、一瞬にして人と人とを繫いで幸せにできる素晴らしいものだと思います。僕自身は「おいしい」を追求する料理人の一人として、生産者さんやスタッフ、そしてお客様と日々繋がっています。これからも皆さんと一緒に「おいしい」という想いを紡ぐことを愉しんでいきたいですね。

カウンターの各席には「SPECIAL THANKS TO ARTISAN」の書き出しととも、20種類近くの食材の産地と仕入れ先、生産者名が並んだリストが置かれる。味を想像する愉しみと共に、目の前に運ばれる一皿から物語が生まれる。料理の提供時にはそれらの説明を添える堀江氏、その全てを記憶していることに驚いた。ゲストへのホスピタリティや食材や生産者への敬意、料理を創ることへの情熱が滲み出る。

多くの常連客に愛され、新たな門出を迎えた今、堀江氏はこれから【H1】の歴史にどんな彩りを添えていくのか、目が離せない。

取材・文/柳屋 有里
撮影/中岡 あずさ

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