ーーー料理人を志したきっかけは?
実家が鹿児島県で養豚場をやっておりまして、私が小学二年生の頃に父が亡くなって以来、二人の兄が学校終わりに家業の手伝いをしていて、私は祖母と夜ご飯を用意して待っているというシチュエーションがよくありました。料理人を志したきっかけを遡れば、祖母と料理をするうちに楽しいと感じたことが大きいのかもしれません。小さい頃から料理人を目指したいという想いがあり、調理科のある高校へ通いました。
卒業後18歳で上京し、初めは【つばめグリル】という洋食屋で4〜5年働き、副料理長のポストまで経験させていただきました。将来的に自分の店を持ちたいという想いと、まだ学びたい気持ちがあったので退職し、知り合いの紹介で三鷹にある【鉄板焼きLOJI】で働き始めました。元々料理は好きでしたが、お客様とお話したりするのは苦手意識があり、将来的に自分の店を持つうえで接客スキルを高めておきたかったんです。鉄板焼きだと、調理もお客様の目の前なので必然的に鍛えられるかなと(笑)、そういう考えがあり鉄板焼きのお店を選びました。
ーーー独立をお考えになったきっかけは?
西荻窪の物件で、【鉄板焼きLOJI】の支店の店長として約3年ほど務めた後に独立に至ったのですが、務めていた期間にお客様としていらした方(後に【とんかつ けい太】オーナー)との出逢いがきっかけなんです。そこで意気投合し、私の実家の豚を使った店をやりたい想いと、やるからには日本一、その後は世界進出を目指せるものを創りたい想いを伝えると、「豚ならば、とんかつで勝負しよう」となり、西荻窪で【とんかつ けい太】を開業する運びとなりました。
ーーー開業されるまでの道のりはいかがでしたか。
私はとんかつの修業経験が無かったので、実際にとんかつを作ってみると、なかなか思うようにできず、当時はかなり苦労しました。パン粉だけでも色々な種類を試したり、有名なとんかつ屋さんに食べに行き、揚げ方や何を使っているのか伺って、と手探りの日々でした。当初はイメージしているとんかつに程遠く、油もラードや米油で試してみたり、揚げ方も試行錯誤しました。開業以降も、お客様のご意見を伺いながら変えていった部分もあります。開業当初と今のとんかつは、揚げ方も使う物も随分変わりましたね。
ーーー調理の特徴や料理をするうえで大切にされていることは?
一番の特徴は「揚げ方」だと思います。特に「香り」と「食感」には強くこだわっています。私の納得できるとんかつの香りはラードでないと出せません。また、一口目を食べた時の柔らかくジューシーで、サクッ!じゅわっ!とした食感というのはかなり意識して揚げるようにしています。断面はほんのりとピンクがかったローストポークのような仕上がりにしていますが、レアではなくちゃんと火が通るように、低温からじっくり時間を掛けて揚げているところが一番のポイントだと思っています。お肉が硬くならないように優しく揚げるのですが、同じ銘柄の豚肉でも個体差の見極めを意識しています。それぞれ豚肉の水分量やスジの入り方が違うので、差を見極めて低温からゆっくり丁寧に揚げるというのが全てと言っても良いかもしれません。
豚肉の状態の見極めは「触って目で見る」というのが一番で、水分量と筋繊維の硬い/柔らかいの違いで判断します。数をこなさないと分かってこない部分ではあるのですが(笑)。この状態なら低温を一分伸ばそうとか、高温で最後揚げるのは少し短くしようとか、数十秒単位でコントロールしながら調整して提供しています。
ーーー豚肉はご実家の豚を使用されているそうですね。
そうですね!ただ、獲れる量には限りがあるので、全てが実家の養豚場からの豚肉ではないんです。実家で飼育しているのは「かごしま黒豚」の「六角黒豚」が主ですが、実家オリジナルのブランドというわけではなく、他にも鹿児島で「六角黒豚」を扱う生産者さんはいます。様々な豚肉を試した中でも、六角黒豚の脂の甘味と肉質が特においしいので、当店ではこだわって使用しています。
実は、養豚場を継いだ兄と、将来的な理想としてオリジナルの豚を作りたいと話しているんです。もちろん簡単なことではないんですけど、実家で豚を育てているので不可能ではないなと思っています。その豚が当店でしか食べられないとなると大きな付加価値になりますし、簡単には真似できないので唯一無二の強みにもなると考えています。
ーーーその他に食材のこだわりはありますか?
先程もお伝えした通り、当店のとんかつはラードなくしては成立しません。油はラード100%です。ラードの特徴は特有の香りと揚げた後に余熱が効くところで、理想の仕上がりに一番近いラードを使っています。パン粉は専門メーカー「中屋パン粉」の生パン粉を使用しています。有名なとんかつ店はけっこう使っている所も多く、主に飲食店に卸している一般にはあまり普及していないパン粉です。水分量などの塩梅が私の理想とするイメージに近く、欠かすことのできない食材です。
キャベツは特定の農家さんに固定せず、時期毎で品質も変わるので、産地を変えながら仕入れています。とんかつに合わせるうえで、甘味があることや、千切りで提供するので食感とみずみずしさを大切にしています。お米もお米屋さんと相談しながら定期的に変えていて、「今回はこんなお米を使っていますよ」と、その変化もお客様に楽しんでいただきたいと思っています。前回ご来店いただいた時よりもお米がもっちりしていたり、さっぱりしているなど、全然テイストの違うお米を使うこともあります。お客様からは「前のお米の方が好きだ」という意見ももちろんありますが、それも一つのデータ収集という意味で捉えています(笑)。この形で食べて欲しい!というよりも、お客様ありきでご意見も伺いながら、「一緒に創り上げていく」という風に考えています。
ーーー2025年より【TONKATSU KEITA】として始動されていますが、お店づくりのこだわりを教えてください。
以前の店は地下だったので換気が良くなく、低温からじっくりと時間を掛けて揚げる都合上、どうしても油の臭いが籠もるという点があり、もう少し広々とした空間でやりたいという想いがずっとあったんです。
また、調理場とお客様の席との距離を近くして、視覚的にもお食事をもっと楽しんでもらえたり、お話がしやすい店を作りたいとも思っていたので、新店舗を立ち上げるにあたり、意識した部分です。どういう風に調理しているのか興味があるお客様も多いので、調理段階から楽しんでいただけると思いますし、私自身も調理しながらでもコミュニケーションが取りやすいんです。ただ、調理している立場からすると全てを見られるので、やはり緊張はしますけどね(笑)。「あんまり見ないでー」と思いながらやっています(笑)。
サービスや接客にも力を入れています。お客様には、お酒も楽しみながらゆったり食事を召し上がっていただきたいと思っています。これまではとんかつの「味」だけでご来店いただいていたと思っていて…以前の店はハイカウンターだったこともあり、ゆっくり食事をするのに向いていないと感じていました。ご年配の方からも「行きたいけれど難しい」という声もあったので、そこを変えたかったんです。
外観にこだわった部分は、完全予約制なので、ふらっと入りやすい「ザ・とんかつ屋!」みたいな感じより、お客様がワクワクできるんじゃないかなというイメージで作りました。格好つけてお洒落寄りにしすぎたかなとは思っていますが(笑)。料理だけでなく、店の雰囲気や接客なども含めて、肩ひじ張らずに楽しいと感じていただけるような店づくりを心掛けるようにしています。また、私が養豚場育ちなこともあり、日本の豚肉の素晴らしさをはじめ、お米やキャベツなど、日本の食材の価値をもっと多くの方に知ってもらいたいと思っているので、積極的に発信していこうと思っています。
ーーー生産に携わる方や食材への想いはありますか?
食材をおいしく食べてもらうのも、台無しにするのも、料理人次第だと思うので、責任は重く感じているつもりです。そして、お客様の喜びや声を生産者さんへ伝える役目もあると思っています。生産者さんたちには、お客様の直接の反応はなかなか届かない部分なので、伝えることで生産者さんたちのモチベーションにも繋がると考えています。生産者の家に生まれ育ったこともあり、その気持ちは人一倍忘れないように意識しています。コロナ禍や戦争の影響もあって以降、生産者稼業もすごく大変で、飼料をはじめコストが上がり、鹿児島の養豚家さんたちもどんどん辞めてしまっていることを耳にするので、貢献できるように頑張りたいです。
ーーー今後の展望について教えてください。
元々【とんかつ けい太】を立ち上げた動機は、日本が元気を無くして若者が未来に不安を抱いているような状態が嫌で、日本のポテンシャルをもっと知ってほしい!という想いがあったからです。今も海外から来てくださるお客様も多いのですが、私自身も海外に行って日本の食材やとんかつも含め、日本食のすごさを今以上に広める役目を少しでも担えたらなと思っています。今後、アメリカに「ラウンドワンデリシャス」のとんかつ部門で出店する予定があり、現地で担当するアメリカ人シェフにとんかつを教えることになっています。オープンは2026年1月の予定で、そこから2店舗目、3店舗目と進出していけたらと考えています。日本の食材・料理・ホスピタリティは世界一だと信じているので、今以上に海外の方たちにも知ってもらいたいですね。
ーーー日本で店舗拡大するよりも海外進出を?
国内はあまり考えていません。なぜ海外進出を主に視野に入れているかというと、日本の豚肉を認知してもらうことはもちろんですが、「とんかつ」という料理の魅力も知ってもらいたいからです。例えば、アメリカにもとんかつ屋さんは少しあるようですが、まだまだ一般的には全然知られていないようなんです。豚肉を食べる習慣はあってもソーセージなど加工品系が多いようで、アメリカからいらしたお客様に聞いても、「とんかつは無い、そもそも豚肉が美味しくない」と聞きます。日本と比べて生産の過程で、屠殺の仕方や処理の仕方が雑な部分があるらしく、違いがあるのかなと思います。アメリカの法律では日本から豚肉を持っていけないそうなので、アメリカ進出は企業のお力を借りて進めていけたらと思っています。
一方で、私自身はアジア圏進出も考えています。シンガポールやタイならば豚肉を持っていけるかもしれないそうなので、同じクオリティでとんかつを作れる可能性が高く、将来的にはアジア圏での展開もできればと考えています。日本食として寿司・ラーメンなどはメジャーですが、「とんかつ」はまだまだ認知されていないので、「日本食と言えば」の代表格に入るように頑張りたいです。
ーーー最後に、青木様にとって「おいしい」とは?
日々、自信をもって料理を出していますが、素材をどう活かすか・空間・接客の在り方も全て含めて、「おいしい」を感じる要素になると思います。接客が悪いと、どんなに味がおいしいものを食べても満足感や感動には至らないですよね。料理だけが旨ければ良いとは全く思っていません。料理の味も体験も含めて、お客様を「おいしい」に導けたらと思っています。
日本の食材や「とんかつ」の魅力をもっと世界へ広げていきたいと語る青木氏の目は輝いている。肩ひじ張らずに、今まで以上に誰でも気軽に楽しんで欲しいと装いを新たにした新店舗を次のステップに、実家の養豚場と協力したオリジナルブランド豚の実現、海外進出…とまだまだ夢を叶えるべく邁進する日々が続く。青木氏が思い描く理想の未来は、きっとそう遠くないのかもしれない。まずは【TONKATSU KEITA】で、青木氏の極上の「とんかつ」を是非味わってみて欲しい。
取材・文/AutoReserve Magazine編集部
撮影/眞田 厚司
TONKATSU KEITA, das nach Nishiogikubo umgezogen ist, bietet in einem stilvollen Raum mit einer erwachsenen Atmosphäre neue kulinarische Versuche an. Besonders die Tonkatsu aus Filet, Lende und Ribeye harmonieren perfekt mit dem Geschmack des Fleisches und der Süße des Fettes und bieten ein saftiges und elegantes Geschmackserlebnis. Außerdem kann man auch den mit Trüffel-Dressing übergossenen Kohl und die reichhaltige Tonjiru genießen, wobei man die sorgfältige Arbeit mit jedem einzelnen Zutaten spüren kann.