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食材のプロと二人三脚で料理人としての信念を貫き、コース一本で勝負する【極彩 椿】
2024/12/27

食材のプロと二人三脚で料理人としての信念を貫き、コース一本で勝負する【極彩 椿】

都内の各主要駅まで電車で約15分の場所に位置し、老若男女の活気が溢れる街として知られる高円寺。カウンター6席の中華料理【極彩 椿】をオープンした店主の臼井 雅道氏は、開業当初より話題を集める。すでに3ヶ月先まで満席という状況だが、「食材や調味料を適切な形(料理)に仕上げるのが僕の仕事。やるべきことをやるだけです。」と気負いがない。開店から半年を経た手応えと今後の展望、そして料理人としての在り方について臼井氏にお話を伺った。 ※2025年4月に移転し、5月9日より【矜羯羅】として営業

試行錯誤の末に行き着いた臼井流麻婆豆腐の極意

ーーーお店の特徴から教えていただけますか?

基本は一日二組までの計6名様までにさせてもらっています。僕はお客様との距離感を大切にしていて、お客様と会話しながら料理を作り、ご提供までしたいので、僕の手の届く範囲でやりたいと思っているからです。独立する前はクラシカルな四川料理をベースとした京都の【齋華】で修行しましたが、僕は旬の食材と適切な調理を掛け合わせて広東料理をベースに、ジャンルにとらわれず様々な料理をお出ししています。

ーーースペシャリテに麻婆豆腐があるそうですね。

お客様からスペシャリテだと言っていただいてる感じですね。スペシャリテとは言わば名物ですよね。店独自のものを打ち出すパターンと、世間一般に浸透しているメニューをさらにクオリティを高めて昇華させて提供するパターンの二タイプがあると思っています。僕は独創性よりも、一般的に皆さんが食べているものをさらにクオリティ高く作りたいという想いがあるので、麻婆豆腐に限らず料理に対しては常にその考えで向き合っています。

ーーー麻婆豆腐のこだわりや特徴はありますか?

僕の麻婆豆腐は和牛を使用します。なぜ和牛を使うかというと、麻婆豆腐を勉強したり練習する中で羊や豚肉など様々な肉を使ってきたのですが、和牛には「和牛香」という特有の香りがあり、麻婆豆腐と合わせると一番美味しいんです。「和牛香」はその名の通り和牛にしかない成分で、外国産の牛肉では代替えが効きません。また、旨味のレベルを数値化しても和牛は段違いなんですよ。通常、麻婆豆腐に豚肉等を使う場合は先に肉に火を入れて調理しますが、和牛を使う僕は火を入れすぎないように配慮しています。和牛は融点が低く溶けやすい特徴があるので、事前に炒めず、生のものをスライスして直前にさっと火入れすることで、牛肉の味や香りを損なうことなく麻婆豆腐を作ることができるんです。また、僕は「三角バラ」という部位を専門業者から塊で仕入れていますが、牛脂は香味油として麻婆豆腐専用で作って使用しています。

麻婆豆腐に限らず、中国料理は「香り」がすごく重視されます。まずは「香り」、二番目の「色」はパッと映えるような鮮やかさ、そして三番目に「味」です。つまり、香り高く色味が美しければ味も美味しいよね、という考え方なんです。麻婆豆腐も最初に来るのは香りで、二番目に色艶、そして三番目に味です。調味料に関しては、僕はオーソドックスなものを使っていると思います。ですが、その中で一番品質の高いものや癖のないものにこだわっています。麻婆豆腐はとにかく和牛の甘味や旨味を立たせたいので、豆板醤など癖のあるものは使わずに後味はすっと抜けていくイメージで作っています。

食材のプロへのリスペクトが正しい料理へと導く

ーーー食材へのこだわりはありますか?

僕は生産者や仲買業者の方々を絶対的に信頼していて、自分で食材を選ぶよりもプロの選んだものが一番クオリティが高いと思っているので、「どこ産のこれじゃないとイヤ」と自分のわがままを絶対に言わないことがこだわりですね。魚市場で働く方々は魚だけを扱い、家を建てて家庭を築いて魚だけで生きているわけです。そう考えたら僕たち料理人は絶対に一つ一つの目利きでは勝てないんです。魚に限らず野菜や肉にも言えることですが、食材に関しては全てプロの方々にお任せしています。自分に対して決して過信しないこと、なんでも知っていると思わないということですね。

ーーー料理人になられた当初からそのようなお考えがあったのですか?

そうですね、食材に関しては毎日同じことを突き詰めてこられた方々に僕は絶対に勝てないので。僕はプロである彼らの話をよく聞くようにしていて、魚なら「この魚はお刺身が美味しいですか?」とか「蒸したら美味しいですか?」とか全部聞きますよ。逆に僕が魚で蒸し物を作りたいと伝えると、「この魚は蒸しすぎると水分とか全部抜けちゃうから、何分くらい蒸した方がいいよ」といった細かな調理テクニックも全て教えてくださるんです。僕は言われた通りに調理しています。

僕は【齋華】で修行していた頃、朝は魚市場でアルバイトとして二年間働かせていただいていたんです。中華料理でも魚や海鮮は使用しますが、和食に比べると扱う種類や食材に触れる機会は少ないので、色々な魚をもっと触ってみたいという想いがあったんです。勉強というより自分の好奇心の方が強かったので、大変ではありましたが苦ではなかったですし、本当に多くのことを学べた良い経験でした。当店を始めるにあたって、本当は豊洲市場でも働きたかったんです。結果的にありがたくも営業が忙しくなり、その時間が取れなくなってしまったのですが、今も働きたい気持ちはありますよ。

ーーー料理を作る上で一番大切にされている部分は?

料理人はあくまで食材を使わせていただく立場であると僕は思っていて、食材を適切な処理と調理でいかに美味しい状態にしてお客様にお出しするかということを突き詰める職業だと思っています。食材や調味料など全てにおいて「正しい使い方」があり、「正しい料理をする」ことを心掛けています。苦味のある野菜は苦味をしっかり抜き、綺麗な状態にしてお出しする方が美味しいですし、良質な脂の乗った魚は脂を閉じ込める調理法で仕上げたり、癖のある魚はカラッと揚げて癖を抜くなど、食材毎に正しい調理法や使い方が絶対にあるわけです。僕は「料理は決して自由ではない」と思っていて、料理人としてクリエイティブな部分よりも正しい部分を大切にしていて、食材に対して適切な処理と調理を施し、料理を作ることは自分にとっての正しいことなんです。

例えば肉と野菜を合わせた料理を作る時におのずと旬の野菜を選ぶと思うのですが、これは僕の感性やクリエイティブというよりも当然の正しい選択だからです。意識して独自の料理を作ることはしないですが、正しい選択をしていくことで結果として麻婆豆腐などをはじめ、僕の料理になっているのだとは思います。

ーーー食材の組み合わせなど何かこだわりや心掛けている点はありますか?

淡白な野菜を使う時は旨味の強い肉を合わせるなど、閃きというよりロジックはありますね。その枠組み(ロジック)の中で何を選ぶかというのは、自分の個性が反映される部分なので試行錯誤している感じです。中華に限らず他店に勉強に行った際に刺激を受けることもすごくありますよ。同じ食材でも中華ならば思いっきり高温でバーっと揚げる食材も和食では全く異なる調理をされていたり、全然アプローチが違うんだな、と気付かされますし面白いなと思います。

初心を忘れずお客様との距離感を大切にする

ーーーオープンから半年ほど経ち、手応えはいかがですか?お客様からのご期待も大きいのでは?

お客様から「おいしい」と言っていただけることは本当にありがたいです。当店は東京といっても都市部でもないですし、味だけで勝負しているような店なので。少なからず立地面にハードルがある中でもリピートしてくださるお客様の率がすごく高くて、開業当初は全く予想していなかったので本当にありがたいです。僕の経歴だけを見ると「若手のホープ」のように言っていただくこともありますが、決して僕がすごいのではなくて。僕の性格的にも自分のできる範囲でやっていきたいタイプでもあるので、当店を開業する前はイタリアンの店舗を昼だけお借りしてランチ営業から始めたんです。そこから少しずつ手応えを感じながら当店の開業に至り、今は僕がやりたいこととできることが合致するようになってきました。

ーーーオープンキッチンならではのお客様との距離感についてはいかがですか?

とても楽しいですよ!会話も弾みますし、楽しく仕事をさせていただいている毎日です。お客様には僕の一挙手一投足を見ていただいていますし、料理も全てきちんと説明ができるようにしています。目の前で料理が豪快に仕上がっていく様子はやはり中華の醍醐味でもあるじゃないですか。視覚的にも美味しさをお伝えできていると思います。

ーーーお料理はどのような構成内容でしょうか?

コースは大体10品ほどで価格は1万円、上海蟹の時期は1万5,000円でやっています。この辺りだと当店は高級店ですが、都内の高級レストランに多く足を運ばれるお客様からすると信じられないくらい安い価格帯です。そのギャップも含めて、ある程度の範囲の中で自分のやりたいことができているのかなと思います。僕は高価格帯のコースは必ず高級食材で埋めていかないといけなくなり、高級食材縛りになってしまうのがつまらないなと思っていて。それは逆に料理の幅を狭めてしまうので、僕には苦しいんです。高級食材といってもキャビアなどではなく、魚や野菜も高いものはいくらでもありますが、僕が使わせてもらえるような価格帯で良質な食材を仕入れてこれからもやっていけたらいいなと思っています。

また、土日だけですがランチに麻婆豆腐定食をやっています。夜は完全予約制ですが、昼は気軽にご近所の方にも来ていただけたらという想いでずっと続けています。正直なところ、開業以降SNSなどで僕や当店のことを知っていただき、だいぶ前からご予約をして当日を楽しみにしてくださる方が多く、とてもありがたい一方で僕にとっては非日常というか、お褒めの言葉はいただくけれど叱ってくれる方はいないので。だから普通の日常を忘れないためにもランチをやらせていただいている、という面もあるんです。

常に自分が楽しく仕事ができる環境作りを考える

ーーー臼井様のご経歴について伺えますか?

僕は東京生まれで、高校卒業後に辻調理師専門学校(東京校)に入りました。年に数回ほどある中華の授業が楽しくて、中華の道に進みたいと思ったのですが、東京校には中華の専攻がなかったんです。先生にご相談したところ大阪校をご紹介いただき、一年間学んだ後に先生のアシスタントとして一年間アルバイト経験を積みました。ですが、僕は先生になる気は無かったので(笑)、先生にご紹介いただいて当時は御徒町にあった【桃の木】で3年間学ばせていただき、その後は【齋華】で3年間ほど修行を積みました。

ーーー名店での修行時代のエピソードや印象に残っていることはありますか?

最初に修行させていただいた【桃の木】では、はじめの一週間研修をさせていただいたのですが、料理を見た時に圧倒されましたね。ですが、萎縮よりも楽しそう!という気持ちの方が強かったです。もちろん厳しさもありますが、プレッシャーなどは感じませんでした。

僕が【桃の木】で一番学んだことは、食材に対して一つ一つの仕事のクオリティでしたね。例えば「青菜炒め」を作るなら、青菜を全て同じ大きさで切るよう指示されるんです。慣れていたらいいのですが、僕は最初の頃、定規で測りながら一枚ずつ約一キロ切っていました(笑)。しかも全てが一日で消費されるわけではないので、次の日には半分ほど残るんですよね。そうするとカットされている葉の両端が少し茶色く変色してしまうので、これを次の日にまた一枚ずつ全部取り除く作業をやるんです(笑)。もちろんこれはほんの一例ですが、食材に対する徹底したこだわりや仕事のクオリティを落とさないということを一番学べた時期でしたね。

ーーーその後【齋華】での3年間はいかがでしたか?

まず基本的に弟子を取らない店でしたので、本当にチャンスに恵まれたと思っています。齋藤シェフは12名分の料理を全てお一人で作られていて、それだけでもすごいことなのですが、生産者さんたちともすごく繋がりのある方でした。技術の高さや料理のクオリティだけでなく、齋藤シェフと生産者さんとの距離感の近さにも感銘を受けましたね。食材に対するこだわりの面で、【桃の木】時代とは異なる視点で刺激をたくさん得られる期間でしたし、自分が楽しんで仕事ができる環境作りを時間をかけて作っていくことの大切さも学びました。修行も魚市場でのアルバイトも、僕は楽しいから続けてやってきたのであって、「厳しさに耐えて」という想いは一ミリもなかったです。自分がやりたいことをするためにはやらないといけないことは出てきますが、「やりたいことがあるからそのためのことをする」という考え方でした。食材の選別や人間関係など、様々な面において何かしらのストレス状態や実力が発揮できないような状況で仕事をするのではなく、「どういう状態なら自分が楽しく仕事ができるか」という視点は、僕の料理人としての軸になっていると思います。ですので、当店は僕が目指す仕事環境を100%自分で整えてきました。

幼い頃に芽生えた「食」への好奇心は尽きることがない

ーーー料理人になろうと思ったきっかけなどはありましたか?

外食も含め「食」に対する熱量が高い家庭で育ったので、僕も幼少期から「食」に対する興味は強くて、料理を作ることも好きでした。小学生の頃には手打ちの自家製うどんを作ったり、中学生の頃は豚骨や鶏ガラを買って自家製ラーメンも作っていました。当時から今も変わらず好きでずっと続いているのが料理です。料理は楽しいですね、楽しいですし自分はまだまだと思っているので。もしも自分が最強だと思ったらやる気がなくなってしまうはず(笑)、結論まだまだなんです。

ーーー今後の展望や夢はありますか?

いつか「子ども食堂」をやりたいとは考えています。今のスタイルですと、どうしても関われるお客様が限られてしまうので。だからこそ今やっているランチにも繋がりますし、世の中にもっと貢献していきたい想いもあるので、子供たちにも喜んでもらえることが今後できたらなと思っています。

ーーー最後に、臼井様にとって「おいしい」とは?

僕にとって「おいしい」は「楽しい」ですね。僕は「おいしかった」と同じくらい「楽しかった」と言っていただけることが嬉しいですし、好きなんです。一日の大切なお食事の時間を僕に委ねていただいているわけですから、「良い日だった」と思っていただけることが一番です。そのには、まず僕自身が楽しめないとお客様も楽しいとは思えないはずなので、僕が全力でお客様と料理に向き合うことでお客様にも伝わると思っています。

また、常に心に留めていることは余裕を持って仕事をすることです。お客様は何ヶ月も前から来店を楽しみにしてくださっていますが、僕にとっては日々の繰り返しなわけです。そのギャップをいかに埋めて、お客様の想いにお応えしていくか、ということを忘れないようにしています。余裕がなくなり追い詰められると、料理は作業になりクオリティも落ちてしまいます。決して惰性にならないよう余裕を持って一つ一つ丁寧に、日々の仕事の中で楽しい要素を取り入れながら、クオリティの高い料理と接客でこれからも僕らしくお客様をおもてなししていきたいです。

食への好奇心と楽しさは料理人となった今も変わることがないと話す臼井氏。一方で食材を熟知する生産者や仲買人の目利きがあってこそ成り立つ「料理」に、自身の独創性や哲学をはさむ余地を設けることはしない。食材のおいしさを最も知る彼らへのリスペクトと、食材を「正しく」使い、料理へと還元するロジックに基づくならば「料理は決して自由ではない」と語る姿が印象的であった。

臼井氏の料理人としての情熱と冷静さの絶妙なバランスが織りなす【極彩 椿】は、これからも多くの客人を魅了してやまないのだろう。

取材/柳屋 有里
文/AutoReserve Magazine編集部
撮影/中岡 あずさ

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