––––日本料理のお店をやるなら、私が所有している他の物件でやってみない?
そう声をかけられて紹介された一軒の古民家を見て、心が湧き立ったのを今でも覚えています。時代の積み重ねで生まれた風格を前にイマジネーションが湧き立ち、すばらしいお店ができるに違いないという手応えを感じました。そこに出合うまでの1年半、粘り強く物件を探してきましたが、こんなにすばらしいところでお店ができるとは思っていませんでした。まさに縁です。人と人との巡り合わせの先で、私の独立店舗である【東麻布いち川】は誕生したような気がします。
独立を決めたときから、お店をオープンするなら東麻布だと考えていました。
「損益分岐点がいくらだから何回転させないといけない」などと考えるよりも、お店での時間をゆっくりと楽しんでもらいたい。そう思って、コンセプトを実現できそうなエリアを練り歩き、辿り着いたのが東麻布です。東麻布は都心にあるにもかかわらず、街全体に落ち着きがあります。それにアクセスが非常によく、他のエリアからも足を運びやすいという特徴もあり、この街で自分のお店をやろうと決めました。
当店は全ての料理を手作りし、お客様の目の前で料理することにこだわっています。カウンター越しに私の一挙手一投足が全て見られるので、ごまかしはできません。ただ飲食店として、おいしい食事を提供することは最低限の仕事です。その前提を踏まえて、どんな提案ができて、お客様に価値を感じていただけるかを考えないといけません。だからこそ、ライブ感を味わってもらいながら視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚と五感で楽しんでもらえる店づくりをしています。
提案しているコースは2万5000円(税別)の「おまかせコース(10品)」のみです。
コースの中で国産のものはもちろん、高級食材も積極的に使っていきたいと思い、この値段設定にしています。実際、10月は松茸を使った料理を提案しました。特に10月初旬は、松茸が一際おいしい時期です。そうした時期を見逃さずに、コースに落とし込んでいけるように、1ヶ月に一回は内容を変更しています。
もともと私は、ミシュラン一つ星を獲得している恵比寿の日本料理店【紀風】で7年間修行していました。その他にも、築地の仲卸業者や寿司店などでも腕を磨いたキャリアを持っているので、寿司をはじめ、焼き物や揚げ物、蒸し物、刺身など、幅広い提案をすることが可能です。一方で、そうしたキャリアを経てきたからこそ、さまざまな市場関係者や生産者とつながりがあり、それが仕入れにメリットを及ぼしている面もあります。その意味で、当店の魅力を一番感じていただけるのが「八寸」です。
八寸は、旬の食材から逆算してコースを組み立てています。華やかな盛り付けを目で楽しむのはもちろん、旬の食材とともに季節感も味わっていただきたいです。
また、当店ではドリンクの提案にも力を入れています。私自身、お酒に合う料理の提案が非常に得意です。寿司店では、握りの間につまみになるような一品を提供することが珍しくありません。私も寿司店で修行しながら、そうしたノウハウを習得してきました。その上で、ソムリエの資格を取得するなどし、お酒の提案方法も磨き上げています。
特にこだわっているのはワインと日本酒です。ワインはボトルを開けた瞬間から、その表情が時間と共に変わっていきます。ですので、コースとのペアリングをすると、ワインのいい瞬間を逃してしまう可能性が高いです。加えて、一本一本しっかりと個性を持っているからこそ、一本通してその味わいを楽しんでもらいたいと思っています。それができるように、料理に柑橘の香りや和の香草を使うことで、ワインと合わせやすいコースの提案もしています。
一方で、日本酒で推しているのはペアリングです。最近、蔵元さんも世代交代が盛んで、さまざまな特徴を打ち出した日本酒が登場しています。私自身、全国の蔵元を巡って、酸味が強いタイプや、スッキリとした喉越しのタイプなど、提案したい料理との相性も考えながら常時15種類から20種類を用意しています。
当店はコースを提供していますが、心ゆくまで当店での時間を過ごしてほしいため、基本的に営業時間内でしたらいつ来店されて、何時に帰っていただいても構いません。
お店の都合ではなく、お客様のペースに合わせた店作りを行っています。ですので、お客様も必要以上に多く受け入れていません。そもそも当店は料理担当の私と、女将の二人で営業しているため、あまり多くのお客様を受け入れてしまうと会話ができなくなり、お店での時間も十分に楽しんでもらえなくなるでしょう。
料理の説明は私が、きめ細やかなサービスは女将が行い、お互いに役割分担をしています。私がするお話は、主に食材や調理法のことです。「今日は、〇〇産の食材が入っています」といった話をして、五感に加えて、頭でも料理を楽しんでもらえるようにしています。片や、女将が得意なのは、お客様との関係性作りです。プライベートな話はもちろん、お客様のニーズを先取りした声がけで、お客様満足度を高めています。
女将と私の二人で補完し合いながら営業を行い、2023年のオープンから口コミで話題が広がり、徐々にお客様が増えています。着実に今来てくださっているお客さまに楽しんでいただきながらも、さらに幅を広げたいですね。
たとえば、日本料理店はお祝いの席で使ってくださる方が多くいます。両家の顔合わせやお子様のお食い初めなど、一生の思い出になる日にご利用されるケースも少なくありません。
当店の場合、そうした機会に利用してくださるのは、近所の方が多いです。だからこそ、地域に根付きながら、たくさんの人の思い出に残る場所になっていきたいです。
そのためにも、スタッフの採用もかなり重要です。当店には2階があるのですが、まだ客席としては開放していません。今後、2階の改装を行って個室を造り、より幅広いニーズで利用いただけるように取り組んでいきます。それも仲間がいて初めて実現する夢です。今よりも幅広い提案をしながら、東麻布の街を飲食をきっかけに盛り上げていけたらうれしいですね。
取材・文/AutoReserve Magazine編集部
撮影/鈴木智哉
«Higashi Azabu Ichikawa» è un ristorante situato in una vecchia casa tradizionale di Higashi Azabu, dove si respira un'atmosfera tranquilla nonostante la vicinanza al centro città, e offre una cucina giapponese di alta qualità. Lo chef Tatsuya Ichikawa prepara piatti artigianali davanti ai clienti, permettendo di apprezzare il suo impegno attraverso i cinque sensi. Offriamo un servizio caloroso personalizzato per ogni ospite e abbinamenti unici di sake giapponese e vini, per un momento speciale.