ーーー料理人を志したきっかけを教えてください。
小学生の頃にはすでに料理人になりたいと思っていました。特に何か大きなきっかけがあったわけではなく、実家が定食屋だったことが大きいですね。店の手伝いをすることが日常で、いつの間にか料理をすることが当たり前になっていました。小学生の頃は皿洗いや簡単な盛り付けなどの雑用をしていましたが、手伝いをするとお小遣いが貰えたのが嬉しくて、それがモチベーションだったのかもしれません(笑)。ですが、そのうちに料理そのものが面白くなってきて、自然と僕の夢は料理人に定まっていきました。
ーーー料理の道に進むことに迷いはなかったのでしょうか?
全くなかったですね。他の職業を考えたこともなかったですし、勉強よりも料理のほうが好きだったので。高校卒業後は迷わず専門学校に進みました。基本的な技術や理論を学びましたが、料理の奥深さを知って、専門学校を卒業する頃には「もっと飲食店の現場で学びたい」という気持ちが強くなり、卒業後は実際に現場で経験を積もうと考えていました。最初は地元の割烹料理店に入りましたが、さらに幅広いジャンルの料理を学ぶためにいくつかの職場を渡り歩くことになります。
ーーー料理人としての道を歩みだし、どのような経験を積まれましたか?
地元の割烹料理店の後は、魚屋・居酒屋・日本料理店・焼肉店・中華料理店など、様々なジャンルで経験を積みました。僕は最初から鰻を専門にしようと決めていたわけではなく、とにかく多くの技術を学び、「自分の料理の幅を広げたい」という想いが強かったんです。
横浜の日本料理店では4年半ほど勤め、日本料理の基礎を徹底的に学びました。調理技術はもちろんのこと、宴会料理を少人数で効率良く提供するための段取りや、短時間でいかに仕込みを進めるかといった実践的なスキルも身に付きました。特に宴会シーズンには一日に100人以上ものお客様を迎えることもあり、適切な人員配置を考えながら限られた時間で最適な準備をするという経験が鍛えられました。 また、こちらの親方の指導は的確で、冷静に指摘して導いてくださいました。失敗をすれば叱られることもありましたが、常に理論的に理由まで言葉でしっかりと伝えてくださる方でした。技術を磨くことはもちろん、料理人としての姿勢や在り方を学ぶことができましたね。
その後、【よろにく】では、「肉の育成期間が味にどう影響するか」という視点を学びました。28ヶ月育てた牛と、それよりも短期間で育った牛とでは、味の濃さや脂の入り方がまるで違うんです。育成環境や期間が味に与える影響を知ることで、食材の選び方や火入れの重要性を意識するようになりました。この経験が鰻の育成期間による味や食感の違いを見極める基礎となり、産地や個体差に応じた調理法を考えるきっかけにもなっています。
さらに、中華料理店【わさ】で、一年間の研修でお世話になっていた際は、中華鍋の使い方や調味料の扱い方を学びました。特に火の扱い方には繊細な技術が求められ、短時間で香りを引き出す炒め方や、調味料のバランスによって料理の印象が大きく変わることを実感しました。当店では鰻に甜麵醬を加えた味噌を添えたり、中華鍋を使って「うな玉」を出したりしているのですが、【わさ】での経験も今の料理に繋がっていますね。
こうした多様な修行経験からこれまで学んできた全てを活かして、お客様が楽しんでくださる料理を提供しようと思っています。
ーーー鰻に特化しようと決めたのはいつ頃なのですか?
独立を考えた時ですね。地元である栃木か都内で独立を考えていたのですが、都内にはすでに多くの日本料理店があり、ただの日本料理店では埋もれてしまうと思ったんです。だからこそ、東京で店を持つのなら他の店がやっていないことをやろうと思いましたし、鰻は僕の実家の店でも扱っていましたので、鰻を軸にしたコース料理を出す店にしようと決めました。
鰻をメインにしながらも、固定観念には囚われずに様々な調理法を取り入れることで、新しい可能性を追求しています。ただ蒲焼を出すのではなく、産地や育成期間による個性を活かしながら、より深みのある料理を提供するよう意識していて、そうした積み重ねが【参宮橋あさや】の料理になっています。
ーーー荻原様は複数の産地の鰻を扱っているとか。
浜松・宮崎・鹿児島・青森など、いくつかの産地の鰻を仕入れています。産地や育て方が違うと、味や食感がまるで変わるんですよ。例えば、「新仔うなぎ(しんこうなぎ)」と呼ばれる育成期間が半年から一年程の若い鰻は、身がふんわり柔らかくて皮も薄いのですが、育成期間が短い分、味わいはあっさりとしているのが特徴的です。それに対して、二年かけて育てた「共水うなぎ」は、味も香りも濃くしっかりした旨味があるのですが、皮は厚くて筋肉質なため、焼くのが難しい。長く育てた鰻は脂も乗っているので、火の入れ方を間違えると重たくなってしまうんです。だから、産地や育ち方を見極めてどんな調理法が合うかを考えながら、日々仕上げています。
ーーーそれぞれの違いをどのように料理に活かしているのでしょうか?
鰻は、産地や生産者さんごとに仕上がりが全然違います。同じ地域の養殖場でも、餌や水の環境で味は変わりますし、特に天然の鰻は個体差がすごく大きいんです。例えば、「地焼き」ならば皮の柔らかい「新仔うなぎ」が向いていますし、逆に蒸す工程を入れる場合は、育成期間が長くて皮がしっかりした「共水うなぎ」の方が適しています。「新仔うなぎ」は蒸しすぎると味が抜けてしまうし、「共水うなぎ」をそのまま焼くと食感が固くなりすぎてしまうわけです。扱う鰻が一番おいしくなることを意識しながら、火入れの方法や調理法を変えています。
ーーー【参宮橋あさや】では一般的な鰻料理とは異なるアプローチをされていますね。
鰻といえば蒲焼や白焼きが定番ですが、もっと多彩な楽しみ方があると僕は考えています。当店のコースは、鰻の新しい魅力を引き出すために独自の調理法を取り入れていて、「印籠焼き」と「鰻の刺身」をコースに取り入れています。きっと他の鰻屋さんでは出していない料理かなと思いますね。
ーーー「印籠焼き」はどのようなお料理なのでしょうか?
印籠焼きは日本料理の技法のひとつで、通常は野菜や魚の身の中をくり抜き、詰め物をして仕上げる料理です。日本料理で学んだ料理を鰻に応用できないかと思い、試行錯誤を重ねました。
一般的な印籠焼きとは違い、当店では鰻の身を開かずに、骨を抜いた状態で焼いて味噌を合わせて提供しています。 元々、鰻は塩や醤油で食べることが多いのですが、僕はどこかで味噌の風味を活かしたいと考えていて、筒状に仕上げる印籠焼きに味噌を合わせることを思いつきました。焼くことで香ばしさが増し、鰻の旨味と味噌のコクが絶妙に合わさります。実際に提供してみるとお客様にも好評で、皆さん喜んで召し上がってくださるので嬉しいです。 鰻の身を崩さず骨を抜くのは難しいことで、今では5分ほどで処理できていますが、最初に取り組んだ時は仕込みに一匹40分ほどかかっていましたね。
ーーー鰻のお刺身も珍しいですよね。
鰻は一般的に生で食べることは少ないのですが、適切に処理をすれば刺身でもおいしく食べられるんです。鰻は筋肉質な魚なので、火を通すことで身がふんわりする一方で、生の状態ではしっかりとした歯応えがあります。コースでは特に状態の良い個体を厳選し、鮮度と処理にこだわっていて、鰻本来の旨味をダイレクトに味わっていただくことのできる一品として提供しています。
ーーー季節の食材との組み合わせもコースの特徴ですよね。
鰻の持つ旨味や脂の質感は、合わせる食材によって表情が大きく変わります。当店では、決まった料理を出すのではなく、仕入れた食材に合わせて、どんな鰻の使い方が合うかを考えています。例えば、「うざく仕立てのヒレ焼き」には旬の野菜を合わせて、季節感を楽しめるような一品に仕上げています。
野菜は、築地に仕入れに行き、「この野菜ならば、こういう調理法が合うな」と時期によって組み合わせを考えています。季節毎の組み合わせを変えているのも、当店のコースならではだと思いますね。
ーーーコース全体として、どのような体験を提供したいと考えられていますか?
「鰻って、こんなに多彩な食材だったんだ」と感じていただけたら嬉しいですね。当店では、常時5〜6種類の鰻を使い分けてコースを仕立てています。食べ進める中で違いを楽しみつつ、様々な調理法による新たなおいしさの発見をしてほしいと思っています。
一回のコースで提供する鰻の量は、一人当たりおよそ2.5匹分。聞くと多く感じるかもしれませんが、調理法を変えたり組み合わせる食材を工夫することで、飽きることなく最後まで楽しんでいただけるようにしています。鰻は、焼き方や味付け次第で無限の可能性がある食材です。その魅力を最大限に引き出すことができたらと思っています。
ーーー料理をつくるうえで大切にされていることは?
常に「前年の料理を超える」ことですね。料理というのは、「完成した」と思ってしまったら終わりなんです。だからこそ、日々同じものを出し続けるのではなく、毎年少しずつアップデートしていきたいと思っています。産地や育て方によって特徴が変わる鰻の個性を見極め、四季折々の旬の食材との組み合わせや調理法の工夫によって、その時々のベストな組み合わせを考えながら、一品一品作ることを意識しています。
ーーー新たな挑戦として、どんなことを考えていますか?
最近は、「ひつまぶし」の新しい形を模索しています。「ひつまぶし」は鰻料理の中でも特に人気が高いメニューで、食べ方に変化をつけられるところが魅力ですが、当店ならではの新たなアプローチができないかと考えています。定番料理ですが、もっと良い形があるのではと思うんです。 早く皆さんにお披露目できるよう頑張りたいですね。
ーーー最後に、荻原様にとって『おいしい』とは?
食材の個性や持ち味を見極めながら、最適な調理を施すことで、食材本来の良さを最大限に引き出し、魅力を引き立たせることだと思います。 また、食感も「おいしさ」を決める重要な要素です。ふわっとさせるのか、カリッと仕上げるのか、そのバランス次第で味の印象は全く変わると思っています。その料理に対して、どういう食感をあてるかにこだわっています。
そして何より、「お客様にどう楽しんでいただけるかを考え続けること」です。料理は、作り手の自己満足で終わってはいけません。自分が思う「おいしい」だけでなく、食べてくださる方がどんな風に楽しんでくださるのか、それを常に意識しています。お客様の表情や感想を見て、「こうしたらもっと良くなるかもしれない」と試行錯誤する。その繰り返しが料理を進化させるのだと思います。当店で提供する料理の全てを楽しんでいただくことで、お客様にとっての「おいしい」体験になれば、何より嬉しいですね。
お店の扉を開けば、シンプルながらも洗練された和の空間が広がる。席に着くと、伝統を大切にしながらも枠に囚われずに、新たな表現を追求し続ける荻原氏の手で、鰻が様々な料理に仕上げられていく様子を目前で楽しめる。香ばしく焼き上げられた香り、口の中でほどける食感、旨みを引き立てる繊細な味わいは、荻原氏の料理人としての情熱や想いが全て集約されているようだ。五感を満たす一皿に出会う特別な時間を、ぜひ【参宮橋あさや】で味わってほしい。
取材・文 / 荒川 ゆうこ
撮影 / 安井 智洋
Un affascinante ristorante specializzato in piatti a base di anguilla, situato a pochi passi dalla stazione di Sangubashi della linea Odakyu. I piatti, preparati con anguilla di altissima qualità e offerti con diverse tecniche di cottura, sono tutti squisiti. In particolare, il unajū, che permette di assaporare diverse varietà di anguilla, vale sicuramente la pena di essere provato. Goditi un momento di calore e convivialità in un'atmosfera raffinata.