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自家栽培野菜が生む味の物語!【villa aida】小林寛司氏が考える本当のおいしさ
2025/03/05

自家栽培野菜が生む味の物語!【villa aida】小林寛司氏が考える本当のおいしさ

和歌山県岩出市、一日一組限定の完全予約制で営業する、自然に囲まれたイタリアンレストラン【villa aida (ヴィラ アイーダ)】。 農家の長男として生まれた店主の小林 寛司(こばやし かんじ)氏は、自家菜園の有機野菜と地場の食材を使用した独創的な料理で、はるばる訪れる世界中の食通や料理人など多くのゲストを魅了する。野菜本来の味とは何か、おいしさとは何かを小林氏の言葉と共に紐解いていく。

自分の店を持つ喜びと料理人としての覚悟 

ーーー料理人を志したきっかけを教えてください。
なにかを作ることが子供の頃から好きだったんですよ。料理に限らず日曜大工が好きで、お菓子も小さい頃に作っていました。自転車やラジオを壊したり、紙にハサミを入れて工作したりと、色々なことをして楽しんでいました。母が料理教室に通っていたので、私も真似してクッキーやパンを作るのですが、味は普通に美味しくても見た目が気に入らずに「好きじゃない、失敗した」とよく捨てていたそうです。思い通りにいかなかったから悔しかったのでしょうね。その頃から、芸術的な観点において自分は周りとは違う感性があることに気付き始めた気がします。

ーーー料理の道で生きていこうと思った瞬間はありましたか?

最初から料理の道で生きていこうと思っていたわけではなく、農家の長男でありながら農業が嫌だったんですよ。高校進学時には会社員か銀行員になりたかったくらいです。高校に入ってからは帰宅部でアルバイトばかりしていました。ファミレスでケーキやパンを作ることに明け暮れていましたね。

この店を建てた時に「これでやっていくんだな、やっていかなければならない」と感じました。25歳で一億円の借金を背負ったので借金を返さなければならなかったわけですが、普通に店を開けばやっていけるだろうと特に心配はありませんでした。この頃は自分の店を持てる嬉しさだけで、自由にやれることを楽しんでいましたね。

ティラミスから広がるイタリア料理の魅力的な世界 

ーーーお店を開店させる前には、どのような経験を積まれましたか? 

高校卒業後の進路を考えた際に、父からお菓子作りは女の子のやることだと反対されましたが、料理はずっと好きだったので調理師学校に進み、卒業後は2年間大阪で働きました。当時、日本は第一次イタリアンブームでティラミスが流行っていたこともあり、イタリア料理に魅力を感じました。フレンチと中華は当時の私の嗜好には合わず、日本料理の世界は厳しい中で、イタリア料理が良いんじゃないかと思ったんです。結果的に私の判断は良かったと思います。

当店を開店させる前まではイタリアに渡り、イタリア料理の星付きレストランで働きました。はじめは無給として住み込みで部屋や食事も出してもらえたので、生活の最低限は整えてもらっていました。それから4年間は、様々なイタリアの地方を見てシェフの考え方や食材の違いを学びたくて、6店舗くらい修行経験を積みました。北の方で修行してから南に移った時は、北にある良い食材をあえて使うことはせずに、地元にある食材のみを活かして料理を作る風習が根差していることも知ることができました。

ーーー営業を一日一組限定にしようとした理由を教えてください。

開店から20年を迎えた頃には、あらゆる手を尽くしていました。料理の開発や価格設定、内装の変更など、さまざまな取り組みを行ったものの、営業はうまくいかず限界を感じていました。「もうやめよう」とも本気で考えましたが、周りの友人シェフたちに説得され、もう少し続けることに決めました。その結果、私は一日一組だけ予約を受ける貸切スタイルに切り替えることにしました。こうすることで、自分が本当にやりたいことに集中できる環境が整いました。徐々にお客様も戻ってきて、再び訪れてくれる方が増えていきました。さらに、私一人で運営することによって経費もほとんどかからなくなり、今は自給自足が可能な状況です。

「もう限界」と思ったその先にこそ、チャンスがあります。最後のひとあがきが成功を生むこともあるのです。この経験を通じて、自分の理想の方向性をしっかりと定めることができ、新たな可能性を感じています。

自家栽培の食材がもたらす料理のインスピレーション

ーーー料理をつくるうえでのアイディアやインスピレーションはどのように?

畑にある食材からインスピレーションを得ています。今取れる食材を頭の中にざっくり入れて、これとこれを組み合わせようと考えます。基本はイタリアンですが、独学で本を参考にしつつ、フレンチや和食・中華の技法も取り入れています。私は誰もやっていないような組み合わせや手法を目指していて、和歌山という土地や日本文化を反映させた料理を提供しています。その日の天候や季節に合わせて、冬にはしっかり味を付けたり春には少し苦味を加えたり、季節感を意識しながら調整しています。

また、来店頻度やお客様の好みによっても料理に変化を持たせています。お客様の中にはクラシックを好む方もいればアレンジを加えた料理がお好きな方もいますし、冒険心を持ったお客様には、その期待に応えたいと思っています。お客様は当店に期待を込めて来てくれますから、そのプレッシャーは感じますね。料理は突然閃く時もあれば、前日にすごく考えて諦めて寝たら翌朝に閃くこともあります。収穫できる野菜や仕入れる食材が極端に変わるわけではないので、状況を見ながら試作したりします。しばらくは今のパターンを基本にして日々修正を加えていく、そんな感じです。

自然な育ち方が生む味わい深い野菜の魅力

ーーー料理の主役を野菜にしたのはなぜですか?

この仕事を始めて、私は農家の長男であることを改めて誇りに思えましたし、「ここでしかできない料理」を作りたいと思ったからです。開業当初は輸入食材を使った料理を提供していましたが、それではどこでも食べられる料理になってしまいます。当店でしか食べられないものを提供しなければならないと気付き、徐々に野菜に特化していきました。

ーーー野菜作りへのこだわりや自家栽培の魅力を教えてください。

こだわりはあまりないですが、家庭菜園のように少量で多品種の野菜を育てています。種を見て「面白そう」と思ったものを色々挑戦して作っています。大根や白菜・キャベツ・人参など、その時に私が気になるものを色々作ってみるという感じです。無花果やみかん・八朔・ブルーベリー・ライム・酢橘などの果物も少しずつ育てています。

肥料は最低限であまり手をかけずに育てているので、小さいまま残っていることもあります。ですが、それが自然の形であり、「本来の味」がすると私は思っています。硬いものは硬く、苦いものは苦い方が料理にもしやすいですし、自分で作るからこそ、成長過程や季節の変化によって味が変わってくることを日々感じながら、この野菜に対してどう料理しようかと思えます。

ーーー自家栽培で苦労する点はありますか?

去年と今年ではもちろん違いもありますし、天候によるリスクが大きいので、収穫前にダメになってしまうこともあります。去年はうまくいっても、今年は雨が多くて種まきの時期が遅れたり、虫に食われたりして芽が出ないこともあります。苦労して育てた野菜だからこそ、「おいしいもの」を提供したいです。

噛むほどに広がる味わい、本当のおいしさを楽しむ料理 

ーーー料理を作るうえで大切にされていることを教えてください。

私が大切にしていることは、「おいしさ」です。料理人のフィロソフィーやサステナビリティが大切であることは理解しています。ただ、その前提を踏まえて、もし一番重要なおいしさが無視されているのであれば、それは違うと思うのです。おいしくない場合、無駄に発酵させたりシェフの好奇心で変わり種の料理を作っても、結局は食べられないものになってしまいます。私が作る料理には好みがあると思いますが、まず私自身がおいしいと感じることが重要だと思っています。

普通すぎてもダメですし、やりすぎもよくありません。私は特に「噛む料理」が好きです。味わいを感じるためにちゃんと噛むことが大切で、噛まない料理や喉越しを重視した料理は苦手です。また、料理の温度も重要で、盛り付けにこだわりすぎて冷たい料理になってしまうと、どんなに味はおいしくても「冷たいな」と感じることがあります。私は「自分の作る料理が一番おいしい」と思っています。作り手である私が自信を持って「おいしい」と思える料理を、お客様には召し上がっていただきたいです。

私は、お客様に満足していただくには「普通のおいしい料理」ではダメだと思っています。ちょっと考えている、つまり「これがシェフらしい料理だね」と感じてもらえるように、普通のサラダであっても温かいものにしたり、スパイスを効かせたりしています。そうすることで、私の個性が料理にあらわれると思っていますし、お客様にも「ここに来て良かった」と思っていただけたら嬉しいです。

ーーー「おいしい」と直接お客様から声が聞こえてくるとやはり嬉しいものですか?

それは料理を作るうえで大きな力になりますし、「これはおいしかったです」と伝えてもらえるとやはり嬉しいものです。フィードバックをいただけると、「これで良いんだ、好みに合っているんだ」と実感できて、料理人としての気持ちも上がります。一方、無言で食べられると不安になりますね。ダメな時はダメと伝えてもらっても構わないんです。

食を通じて人と人をつなぐ料理が紡ぐ心の交流 

ーーー今後の展望や挑戦したいことを教えてください。

食を通じて人を繋げることが得意であり大好きなので、これからも続けていきたいと思っています。当店は予約状況によって、東京の料理人2人/地元の農家さん2人/一般のお客様2人の計6人をお迎えする日を作る時もあり、お席の配置はそれぞれ2人ずつ全く違う人を組み合わせることもあります。皆さん「villa aidaに行きたい」という共通の想いで当店に来てくださっているので、そこから会話が生まれて繋がっていくんです。食後は私も一緒に座って飲むこともありますよ。シェフが料理を作りながら一緒に会話を楽しむというスタイルは、きっと日本では当店だけの特別な体験ですし、当店から新たな人と人の繋がりが生まれたら嬉しいです。

他県から呼ばれて地元の料理人や生産者・お客様を繋げるイベントも行っています。イベント終了後には打ち上げや反省会を開き、私が料理を作りながら今後の話をすることも多いですね。海外を訪れることも多いので、海外で得た情報をアイディアとして提案して、誰かの考えを実現することも可能だと思っています。地方では地元の食材を活用した料理を求められることが多いため、僕が共有した情報やアイディアをメディアを通して発信し、地域活性化にも貢献したいと考えています。

『おいしい』の真実。体が欲する食べ物がもたらす健康と快適さ 

ーーー最後に、小林様にとって「おいしい」とは?

「おいしい」というのは身体に良いということ。身体が欲しているものを感じることが大切で、例えば寒い時はトマトとナスの冷たいサラダではなく、温かい大根が食べたくなりますよね。季節や環境に合った食事というものがあります。快適に過ごすためには、身体が欲しているものを食べることが重要なんです。もっと突き詰めて考えると、体が欲する食べ物には、素直に身体も心も反応するんです。以前、医食同源の考えに基づいた料理を食べた時に、身体に沁み入るような感覚がありました。薬膳スープなどを食べると、身体に合っていると実感します。今食べたいものをちゃんと食べられていることが、本当のおいしさであり、食べたい時に食べられるものが「おいしい」だと思います。

これからもこの場所で、私が自信を持って「おいしい」と思える料理を作り、本当のおいしさをお客様に提供し続けられるよう頑張っていきたいです。

和歌山県の広大な自然に囲まれた畑の真ん中にある同店は、扉を開けると静寂さに包まれた落ち着いた空間が広がる。料理を楽しむだけでなく特別な雰囲気や体験も提供したいと一言一言、丁寧に言葉を紡ぎ出す小林氏の人柄から、これほどまでに多くの人の心を動かし魅了する理由が分かった気がする。人の繋がり、温かなおもてなしや自然との調和、そして美味しい料理が揃ってこそ【villa aida】なのだろう。心と身体が満ち足りる唯一無二のひとときを、是非【villa aida】で感じてほしい。

取材・文/フードアナリストあい(棚橋 麻衣子)
撮影/鈴木 雅人

店舗情報

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