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まったく新しい食の冒険へ!歩みを止めない【genso】馬見塚祐樹氏の想い
2025/3/17

まったく新しい食の冒険へ!歩みを止めない【genso】馬見塚祐樹氏の想い

大坂・難波に料理業界をザワつかせる店が、2023年11月に誕生した。食の都フランス・ボルドーで修行した馬見塚祐樹氏は、アート作品のような空間でどのジャンルにも属さないイノベーティブな料理を生み出し、早くも嗅覚鋭き人々の舌をしっかりととらえている。滾々と湧き出る豊かな創造性の源はどこにあるのか、料理に対する想いについて馬見塚氏にじっくりと話を伺った。

フレンチの世界に魅了され老舗店で修業をスタート 

ーーーフレンチのシェフになりたいと思ったきっかけを教えてください。 

フランス料理と真剣に向き合うようになったのは、大阪の調理師専門学校に入学してからです。親が共働きだったので、子どもの頃からよく自分で晩ご飯を作ったりはしていましたが、地元大分の高校を卒業した時点では将来の明確なビジョンは描けていませんでした。フワッとした心持ちのまま料理の世界に入ったのですが、改めてきちんと料理を学ぶうちにフレンチの魅力にどっぷりとはまっていきました。丁寧な仕事から生み出される洗練された料理が、私の琴線に触れたのだと思います。十代の頃の自分の言葉で表現すると「格好良い!」が理由ですね(笑)。 

学校に通いながら老舗のフランス料理店でアルバイトを始め、卒業後も3年程その店で働かせていただきました。店のマスターは仕事に厳しい方でしたが、右も左もわからない若造に愛情を持って接してくれました。包丁の使い方をはじめ、「料理のいろは」を私はマスターから学び、やがてシェフとして主な料理を任されるまでになりました。それも全てマスターに可愛がっていただいたおかげなのですが、当時の私は日々の仕事に手一杯で、周囲に支えられているという自覚があまりなかった気がします。今となっては感謝してもしきれないです。 

ーーーフランスで料理を学ぼうと思われたのはなぜですか? 

次に働いたのが、私を含めてスタッフ3人のこぢんまりとした造りのビストロでした。キッチンの仕事は私がほぼひとりで担当し、パテ・アン・クルート(パテのパイ包み焼き)やフォアグラのテリーヌといった王道のフレンチを、カジュアルな空間で提供していました。厨房が主戦場だった前店とは打って変わり、お客様と接する機会が格段に増え、「こんな料理が食べたい」とリクエストがあれば臨機応変にアレンジ…というか要望に応えざるを得なかったですね(笑)。対応力という面でとても鍛えられました。 

常連のお客様にとって、22〜23歳の料理人は弟分のような存在だったと思います。アットホームな雰囲気で働きやすかったのですが、私は次第に自分の料理に疑問を持つようになりました。何でも好きにやらせてもらえる環境だからこそ、作る料理の全てが「我流」になっていたんです。上から意見してくれる人がいないので、自分でも正解が分からなくなっていました。お客様はおいしいと言ってくださいますが、「まだ新米で料理の“り”の字も理解できていないのに…」と自分の料理に物足りなさを感じ始めたのです。 

一度、東京で働いてみようかとも考えましたが、大阪を飛び出すと決めた勢いそのままにフランス・ボルドーへ向かいました。昼間は語学学校でフランス語を学び、夜は地元のレストランでアルバイトという生活を2年間続け、さらに2年ほど同じ店でシェフを務めました。フランスでは技術的なことはもちろんですが、フランス人の国民性や食に対する考え方に触れられたのが、何より一番の収穫だったと思います。 

失敗を恐れず型破りなフランス人の発想力が刺激に

ーーーフランス人の「食に対する考え」とは? 

現地のレストランでは日本の食文化がかなり浸透していて、醤油や味噌といった食材が調理に多用されていました。とはいえフランス人のシェフは、その使い方が独創的というか怖いもの知らずというか(笑)、思いも寄らないシーンで和の食材が登場するわけです。さすがにそれは合わないだろうという組合せもありましたが、失敗しても気にせずに何度も挑戦して自分の味にしようとする。その発想力の豊かさに圧倒されました。日本人の私には衝撃的でも、それをお客様がおいしいと感じてくれさえすれば全てOKなのです。多民族からなるフランスでは、他国の色々な文化を取り入れながらバリエーションを増やしていくことが当たり前に行われています。様々な文化を受け入れながら進化してきた料理が今のフレンチなんです。私は「自分の中にある固定観念を外さないといけない」と強く思いましたね。 

店には私以外にも中国人やイタリア人などの外国人が働いていて、海外から研修に訪れる料理人もたくさんいました。そのため “まかない”としてスタッフが自国の料理を他のスタッフに振る舞うことが多く、その料理を囲んでは「この調理法を取り入れよう」とか「試しに食材を使ってみよう」など意見を交わし、店のメニューへと昇華させていました。 

おいしいものはおいしいし、型にはまらない。フランス人から学んだ食に対する考え方は当店の軸になっています。料理は私が修業したフレンチのロジックがベースになってはいますが、ジャンルには全くこだわっていません。お米も使うし味噌や昆布だって使います。固定観念にとらわれず、ただ「おいしい」を追究してお客様に喜んでいただければと考えています。  

鉄工所をレストランへ!お客様目線でリノベーション 

ーーー2023年の【genso】オープンまでのプロセスを教えてください。 

帰国後はインターコンチネンタルホテル大阪の一ツ星レストランで働き、その後は北新地にオープンしたカジュアルフレンチのレストランに最初のシェフとして招かれました。そして2023年、かつては鉄工所で、その後はアトリエとして使われていた場所をリノベーションし、レストランに生まれ変わらせるプロジェクトに参加しました。私は中心メンバーとして当店のコンセプト作りやキッチンの設計など、一から手掛けました。 

幅の狭い奥行きのある造りなので、リノベーション前の段階では「レストランが作れるのか?」と多少の不安もありましたが、結果的には個性的で【genso】らしい空間に仕上がったと思っています。オープンキッチンはお客様と向かい合うのではなく、客席とキッチンが横一列に並んでいます。椅子の高さやテーブルの広さなども話し合いを重ねながら最適解を見つけ出しました。お客様の目線でデザイナーさんに要望を伝え、ゼロから店づくりに携われたのはとても良い経験でしたし、すごく勉強にもなりましたね。 

スタッフ4人で創り上げる新しい料理と上質なおもてなし 

ーーー料理のコンセプトについて詳しく教えてください。 

店名の【genso】にも繋がるのですが、人が生きていくうえで一番大切な四元素「火風」を料理に昇華できないかと考えながらコンセプトを膨らませていきました。「火」は食材の火入れや熱伝導、「土」は生産者さんが栽培する野菜や土から生まれる器、「水」はお客様が口に運んだり料理に使う水へのこだわりです。私は大分県出身なので日田天領水を使っています。そして、「風」はハーブの香りや食材の持つ自然の香りです。 

店の内装には55年前の鉄工所の壁や滑車もそのまま残しているので、コースの最初と最後に「鉄」をイメージした料理をご用意しています。アミューズには作家さんに作っていただいた鉄のオブジェを器に、鉄分を多く含む鮪とフォアグラに食用花などを添えて色調を統一しています。コースの最後はお茶菓子です。鉄パイプをイメージしたチョコレートをハーブティと一緒に召し上がっていただきます。 

コースは全13品で、「鉄」をイメージした2種と季節の野菜を使ったスペシャリテ以外は、2ヶ月毎にメニューをがらりと変えています。スタッフ全員で何度も試食を重ねて、意見を出し合いながらメニューの構成を組み立てています。当店はエグゼクティブシェフの私をはじめ、シェフ・パティシエ・ソムリエが各1人の4人体制で、肩書きこそありますが、お客様へのサービスは4人全員で行います。服装も統一し、お客様から料理について尋ねられても皆が同じ対応をできるよう、常にコミュニケーションをとっています。 

ーーーペアリングは「アルコール」と「ノンアルコール」もあるのですね。 

一つ一つの料理にストーリーがあるように、お飲み物も物語を読み進めるように楽しんでいただければと思っています。例えばアルコールはワインだけが並ぶのではなく、紹興酒であったりマッコリであったりと、世界中のアルコールからセレクトして料理の味わいに広がりを持たせるようにしています。ノンアルコールも塩を加えてお茶の旨味を引き出したり、出汁でドリンクを作ったり。発酵段階から手作りしたコーラシロップの発酵ドリンクなど、お客様が普段口にしないような驚きのあるペアリングを楽しんでいただきます。 

ーーー使用している食材についても教えていただけますか? 

野菜の仕入れは市場に足を運び、目新しいものや面白いものがないか常にアンテナを張り巡らせています。肉類は北海道のマンガリッツァ豚・新潟の真鴨など、生産者さんから直接仕入れることが多いです。使ってみたい食材を見つけたら生産者さんと連絡を取り合い、すぐに取り寄せてメニューに取り入れられるかどうか試作します。食材はとにかく日本全国の良いものを選んで使っていこうというスタンスです。 

ーーー最後に、馬見塚様にとって「おいしい」とは? 

口に入れたときの五味のバランスはもちろんなのですが、その場のシチュエーションで「おいしい」かどうか大きく左右しますよね。喧嘩したときの料理はおいしくないだろうし、商談中なら緊張して味なんて分からないかもしれません。デートや家族で会食するにしても、楽しい雰囲気が料理をもっとおいしくするのではないでしょうか。 

料理人の立場からお話しさせていただくと、一口目に「うまっ!」となる料理は、シンプルに「おいしい」ですね。一口でインパクトを与えられる料理は、「何を主役に持っていきたいか」がはっきりしています。つまり味に迷いがありません。また、洗練された美しさのある料理は間違いなく「おいしい」です。目の情報だけで、食べる前から「おいしい」ことが分かります。これは【genso】の目指している料理でもあります。そしてもう一つ、今まで経験したことのないような出逢いや体験は、「おいしさ」として記憶に残ります。未知の食材だったり意外な組み合わせだったり。当店でも記憶に残る料理をテーマに、味覚の記憶もですが、例えば燻製の香りであったり、ナイフ・フォークを使わずに手で召し上がっていただくなど、味以外のところでも「おいしい」に繋がるおもてなしを盛り込んでいます。 

当店はオープンしてからまだ年が浅く、今は基礎作りの段階です。まずは目の前のお客様に再びご来店いただけるよう、料理もサービスもクオリティー高く、さらに昨日より今日、今日より明日と、スタッフ全員で前に向かって進んでいきたいと考えています。これからも「前回食べたコースより今回のほうがおいしかった」とお客様に評価していただける店を目指して励みたいと思います。 

目をキラキラと輝かせながら「格好良い!」と叫ぶ、馬見塚少年の弾ける笑顔を、失礼ながら勝手に想像してしまった。その後は真っ直ぐに王道フレンチ・ビストロ、そして本場フランスで腕を磨き、自身が手掛ける【genso】では唯一無二の料理をと、信頼のおける仲間とともに日々いきいきと新たな試みを続けている馬見塚氏。いつ訪れても刺激と感動に包まれる一時を約束してくれる関西の新たな名店。ぜひ一度足を運んでみてほしい。 

取材・文/青木 玲子

店舗情報

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