ーーー焼鳥の特徴についてお話しいただけますか?
当店の焼鳥は自家製のフレーバーオイルを使用していて、部位やネタ毎に香り付けをしています。炭は遠赤外線の効果により、外はパリッと中はジューシーな仕上がりになる点や、炭に落ちた脂の質によって纏う煙の質も変わるというのが焼鳥の良さだと思っています。なので使用するオイルの質を変えて、炭の特性を活かしながら香りを纏わせて焼鳥を焼いています。調味料は、フレーバーオイルの他にダシ醤油や果汁なども使い分けながら味付けをしています。フレーバーオイルは8種類、果汁は国産100%のレモンと国産カボスを同比率で割ったものを使用しているのですが、レモンだけだと酸味が強すぎるのでカボスのまろやかさを足しています。当店は焼鳥屋なので、ダシ醤油も鰹節ではなく鶏節を使用するなど、食材は全て鶏に関係するものを使用しています。鶏肉は牛肉に比べて肉自体の味わいはパンチが弱く、皮や皮下脂肪に旨味があるため、かんずりや柚子胡椒など味の強い調味料を乗せてしまうと鶏肉が負けてしまう気がするので、僕は塩や香りをプラスする調味料で鶏肉の味わいを邪魔しないように意識しています。
ーーー8種類のフレーバーオイルの特長や違いは?
鶏油(チーユ)や焦がしニンニクとフレッシュなニンニクを合わせたニンニクオイル・山椒オイル・バジルとレモングラスを合わせたオイル・葱油などで、全て自家製です。吸着率の良いオリーブオイルは舌に残ったり香りを邪魔するので、スッキリとした米油で全て作っています。内臓系は山椒やレモングラスのオイルで一日マリネすることで、余分な臭みやエグ味が出ないようにしたり、直前に少しだけ塗るものもあります。
焼きながらフレーバーオイルの油は落とし、香りだけを纏わせて、鶏自身の持つ水分や脂は残してお出しします。コースは串10本を中心に構成していますが、食べ疲れを感じさせないよう意識しています。部位やネタによりフレーバーオイルを塗る量や塗る場所にも違いがあり、脂が多いネタはあえて塗らない、もしくは片面だけ塗るなど見極めながら使い分けています。焼鳥屋によっては、油ではなく酒を使用するなど様々なアプローチがあり、店舗毎の個性が出るところが焼鳥の奥深さですね。当店ほどの種類やフレーバー系を使う店はあまりないと思います。
ーーーコースの中でも特に自慢の品は?
当店では必ず二品目に「つくね」をお出ししています。繋ぎは一切使用せずにもも肉のミンチだけでお作りするので鶏の旨みをダイレクトに感じていただける一串です。焼きに関しては中心温度を65度くらいのミディアムレアの状態に仕上げ、食べた時にふわ・とろ・じゅわ〜という食感を意識しながら丁寧に焼いています。他にも、通年変わらずお出ししている部位は「肝」と「ねぎま」です。
ーーー鶏肉の特徴をお聞かせください。
当店で扱うのは、日本三大地鶏の一つ「黒さつま鶏」です。「NSファーム」という養鶏場さんに「さつま黒王」というブランドがあるのですが、今は「さつま黒王」の餌と飼育のグレードを上げた「黒帝」を使用させていただいています。元々僕は名古屋にいたので、「名古屋コーチン」を主に使っていましたが、僕の個人的な感想は「名古屋コーチン」に似ているのですが、「黒帝」の方が肉質が少し柔らかいので焼鳥向きかなと思っています。
また、脂がとても良質なので胃に溜まったり重たくなりません。銘柄鶏やブロイラー系の鶏もありますが、僕は焼鳥をやるからには鶏のおいしさを最大限引き出せる地鶏を扱いたいと思っています。本当に色々な鶏を取り寄せましたが、「黒帝」が僕がやりたい焼鳥向きで一番好みですね。「黒帝」は生後◯ヶ月まではこの鶏舎でこういう育て方でこの餌、次は別の鶏舎でこの育て方でこの餌、というように三段階の鶏舎に分けているそうです。そして、鶏舎内は外の光を一切当てないことでストレスを与えないようにし、ちょうど生後150日で旨みがピークに来るように育てて出荷されています。月の生産数は限られているので、主に取引させていただいているのは当店だけだと養鶏場さんが言っていましたね。
ーーー焼鳥を焼くうえで松山様が一番大切にされていることは?
料理は「香り・食感」で決まると僕は思っています。炭をどのように組み、どの温度にもっていくのか、鶏肉をどんな大きさに揃え、どのように串打ちするのか、など仕込みの段階で焼鳥の味は8割決まると思っているので、炭の組み方と仕込みを重視しています。当店は鶏肉を一週間程熟成させているので、一週間前から少しずつ調整していく感じです。当店では尾張の備長炭を使っているのですが、作業効率を考えて炭師の方に形と大きさを具体的に指定し、特注の炭をお願いしています。
ーーー尾張の炭はどのような特徴があるのでしょうか。
紀州備長炭に使用されるウバメガシは既にかなり枯渇してきましたが、ほぼ同じ質のものが、尾張備長炭の窯がある知多半島にはまだ手付かずの状態でかなり自生していているんです。窯元さんは元々、高知の土佐備長の製法で学んだ方なので、紀州と同じ質のウバメガシを使って土佐備長の製法で炭を作っています。紀州備長炭は一番有名なので良い物をなかなか卸してもらえないですし、生産数の減少や人手不足などから価格もかなり高騰しているので、僕は質とコストを比べて尾張備長炭を選びました。
ーーー焼き場の準備はどれくらい前からなさるのですか?
炭を準備して並べ、火をつけてからもう一度整置するまでに1時間半ほど、営業の1時間前・30分前・15分前に少しずつ調整をしているので、トータルで2〜2時間半ですね。ここまで細かくやっている店は他にないと思います。僕は元々会社員でしたから、準備段階の仕込みをいかに丁寧におこなうかが効率の良い仕事に繋がるということをよく理解しています。だからこそ、時間を掛けて営業中に修正しなくて済むようにしています。
ーーー串以外のお料理はどのような特徴がありますか?
焼鳥屋は特に季節を感じていただくことが難しいジャンルなので、串の一部や前菜、〆の炊き込みご飯など、主に契約農家さんから仕入れる旬の野菜を取り入れながら季節感を表すようにしています。また、当店は良質な鶏を使わせていただいているので、鶏肉の美味しさを引き立てるような調理法の一品料理をお出しするようにしています。
ーーー料理人を志したきっかけは?
僕は27歳まで会社員をしていました。当時の僕は別の夢があり、25歳頃まで独学で色々と勉強していたのですが、続けることに少し難しさを感じて、情熱を注ぎながらしっかりと稼げる仕事をしようと考えたんです。僕は若い頃から食べ歩きが好きで様々な店に行き、自分も料理人になろうと思ったのですが、27歳から和食やフレンチの道に進むのはなかなか難しいですし、「35歳で独立したい」という想いもありました。当時は名古屋で「高級なコースの焼鳥」というジャンルはまだ少なかったことや、僕自身が焼鳥が好きだったこともあり、焼鳥をやろうと決めました。
かなり思い切った決断でしたが、やる気と根拠のない自信はあったので(笑)。どんなジャンルの仕事でも三年本気で向き合えば、その仕事の80%くらいは理解できると聞いたことがあったので、僕にもできるはずだと思いました。人はゴールが見えていることでないと熱意を注げないと思うのですが、僕は「35歳で独立する」と決めて焼鳥の道に進む決意をしたので、やりたくないとか苦手というものがあっても、自分のマネージメントとして精神面を保つイメージはできていました。
ーーー料理人を志してからはどのような経験を?
独立するとなると、技術以外の数字や経営に関することにも理解を深めていかなければならないと思いました。なので、最初は名古屋でこれから多店舗展開するという大衆焼鳥店があったので、勤めさせてもらいました。そこでは多分実力というわけではなく純粋に人手不足だったからなのですが、入社から三ヶ月後には焼場に立ち、三ヶ月後に店長になっていました(笑)。入社時には2〜3店舗だけでしたが、10店舗にまで増えた三年目のタイミングで僕は退職し、次に名古屋では数少ない高級焼鳥店で4年くらい勤めました。料理のことは誰かに何かを教わったということはなくて、ほぼ独学で習得しましたね。
ーーー最初のお店では半年ほどで店長さんというと大変だったのでは?
当時は引継ぎや指導もない状態で、店長に就任してからの半年間は特に大変でした。トラブルが発生する度にどんどん改善していく感じで、マニュアルとカリキュラムを全て作りました。特に飲食業界の小規模店舗はマニュアルなどは無いことが多く、後々円滑に仕事をしていくためには最初にしっかりやるしかないですからね。元々名古屋にいたこともあり、トヨタ式の仕事の仕方やOS算定の仕方などを学んでいたので、その知識が活きたのかなと思います。
当店もオペレーションのマニュアルは必ず作るようにしています。焼きに関しても炭の整置やつけ方など、感覚の部分も大きいですが理論で説明できる部分もあるので、しっかりマニュアル化して引き継ぎたいと思っていますし、「見て感じろ、見て覚えろ」と口で説明ができないというのは絶対に避けたいと思いますね。
また、売上げや飲食業界で言うFLコスト(食材費と人件費の合計額)をしっかりと考え、ES(従業員満足度)に直結しているかを見極めることが、お客様満足度の向上と利益にも繋がると思っています。利益をしっかりと出し、従業員に対しても「やり甲斐」に見合った給与を支払ってあげることが、より良いサービスにも繋がります。「良い料理を作れば良い」だけではないと思うんです。僕は利益を得るためにこの仕事を選び、利益を出すためにはどうすれば良いかを逆算して考えるタイプで、+αとして自己満足が得られたら良いと思っています。お客様にとって良いと思うことは絶対にやるようにしていて、それがマイナスにならないならやりたいなと。利益が出ないとやりたいことはできないですし、料理もサービスもお客様の想像されるイメージ以上のものをご提供することで生まれる利益を大事にしようと思っています。
ーーー成功をしっかりイメージされてから逆算されるタイプですか?
とりあえずやってみようというのは前提にありますが、問題が起きた時に問題点をすぐに発見し改善するまでのスピード感によって変わると思っています。お客様が入らない・売上げが伸びないなど問題が起きた時に、すぐに改善さえできれば失敗しないですし、何が起きても大丈夫だと思うんです。「解決策が分からない」では終わりだと思うので、問題解決の引き出しを増やすために会社員時代の経験も含めて大衆焼鳥店や高級焼鳥店を経て、何か問題が起きた時、あるいは問題が起きるであろう時を想定して準備しておくことが重要であることを学びました。
また独立するまでに、ある程度自分の知名度を上げるためにSNSをやってみるとか、SNSから繋がったグルメな方たちに宣伝ができるようなコネクションを持っておくようにするなど、それができて更に味がおいしければ大丈夫だと思っていました。
ーーー生き残ってやっていくうえで大事な部分はどんなところでしょうか?
料理人としてのセンスではないでしょうか。センスの定義は難しいのですが、「情報の蓄積」だと思っています。これまでにどんな物を食べて自分でどういう料理を作ってきたかですよね。もちろん、情報の蓄積をすれば良い!というわけではなく、良い物と悪い物の取捨選択は人によって変わりますが、そこで正解を選べることがセンスなのだと捉えています。例えば料理を作るうえで塩味のバランスはとても重要で、食材の旨みを引き出すための塩の使い方を熟知し、それでいてしっかりと味が決まっているとか。他にも食材の組み合わせ方や調理法にもセンスは出ると思います。ジャンルを問わず様々な店に伺い感銘を受けることがあり、中でも僕は特に和食が好きなので一品料理に関してはかなり勉強させていただいています。
ーーーご自身の成長や料理の研究のためにもかなりの時間を費やしているのですね!
自分だけでは成長に限界がありますし、自分だけで時間を掛けてやるよりも昔から受け継がれてきたものや他の料理人の方々の料理を見て・感じて・食べた方が早いので、時間は絶対に作るようにしていますね。ですが、どんなにおいしい料理に出逢っても、真似事にはならないようにしています。当店の鶏料理として変換したらどこまでいけるのかを考え、僕が経験した以上のものを生み出せるまではお客様にお出しするという選択は決してしません。「これでいいか」は絶対せずに、「これでいこう!」と納得ができる段階までやりきります。
ーーー今後の展望や計画などがあればお聞かせください。
「いつか焼鳥屋としてやっていきたい」という想いで当店を選んで勤めてくれている子たちがいるのですが、個人で独立するとなるとなかなか難しいので、その子たちのために店舗を増やしたいと思っています。技術や理論をしっかり引き継ぎ、自分の色も出しながら店ができるように育てていきたいと思います。僕自身が高みを目指すというのは大前提として、店として会社として人を育てるなど、社会に貢献していくことをイメージしていきたいです。
とはいえ僕はまだ30代ですので、第一線に立ち続けて外部からの評価も含めて当店をちゃんと評価されるところまで成長させることがまずは大事だと考えています。常にこの場所でおいしいと認めていただけるように頑張りたいです。今は楽しんでできていますし、それで良いかなと思います。
ーーー最後に、松山様にとって「おいしい」とは?
人の好みである「おいしい」とは十人十色です。特に焼鳥は店によって使用する鶏も焼き方も全く違うので、「これがおいしいよ」と提案できる店の「おいしい」がその店としての正解だと思うんです。とある店のシェフから「お客様の声には様々な意見があるけれど当店は絶対こうです!と正解を出せる店が一流だよ」とのお言葉を頂いたことがあり、正にその通りだなと。僕はお客様の想像を掻き立てたりイメージを覆す串や料理を作っていきたいと思っていて、僕のスタイルを評価してくださるお客様がいるので、その方々にベクトルを向けて一生懸命にやれば良いと思うんです。様々な声に惑わされることなく、自分が歩んできた過程や経験に自信を持つことが大事だと思いますね。
僕は美味しさを追求するために常に最適な方法は何か、を毎日考えているので、一週間前・一ヶ月前・三ヶ月前では絶対に同じことをやりません。また、生産者さんと色々なコミュニケーションをしっかりと取るようにしています。こういう料理や串をやりたいからこういう鶏を作って欲しいとか、すごく良質な鶏なのでクオリティをずっと維持できませんか?など、食材の質そのものを高めてもらうこともとても大事だと思っています。常に考えて行動に移すことを癖付けて、日々PDCAのサイクルを意識することで、問題があるのなら軌道修正をしていくことで「おいしい」の正解を導き出せると思います。これからも僕らしくスタッフ一丸となって、お客様に評価していただけるよう、最高の料理とサービスをご提供していこうと思います。
27歳まで営業や事務職として会社勤めをしていた松山氏は、転職に際し自身の年齢ごとに具体的な目標を定めてきた。料理人として店を任された現在、「業種は変わってもPDCAサイクルを意識して」料理や店舗経営と向き合っているという。客人の「おいしい」を最大化するための試行と熟考を重ね、生み出した焼鳥におけるロジックは、計画(Plan)・実行(Do)・評価(Check)・改善(Action)を実直に重ねてきた結果であり、松山氏の揺るぎない歩みなのだ。日々アップデートしながら、松山氏の焼鳥はこれから更に深化を極めていくことだろう。
取材/柳屋 有里
文/AutoReserve Magazine編集部
撮影/中岡 あずさ
当店では、幻の地鶏と称される薩摩「黒帝」を使用しています。