ーーーどのようなきっかけで料理の道に進みましたか?
実家が魚屋を営んでおり、幼い頃から自然と食に携わる道を考えるようになりました。料理人を目指そうと決めた時、憧れだったフランス料理を学ぶため、21歳でフランスに渡りました。
ーーー単身フランスに行くと決めた時、ご家族の反応はいかがでしたか?
両親は驚きはしましたが自分で稼いだお金で語学学校に通ってフランス語を学んでいたこともあり、察してくれていたようです。あの時は海外に行くのも飛行機に乗るのも初めてで、機内サービスで配られた水にお金を払おうとしたくらい(笑)。知らないことばかりで怖いもの知らずでしたね。
ーーー渡仏後、各地で経験を積まれていますね。
フランスやスイスの三ツ星店、二ツ星店などで修業を積み、憧れていたフランスのバスク地方のレストランでスーシェフを勤めました。バスク地方はフランス南西部からスペイン北部にかけて二つの国がまたがる地域で、気軽に国境を超えることができるのですが、スペインのバスク地方へ旅をした際に現地の料理に衝撃を受けました。
同じバスク地方でありながら、料理のクオリティをはじめ経済、文化に至るまで、スペインのバスク地方は様々なレベルが突出していました。レストランが提供する料理は、家庭料理から本格料理まで種類が豊富で、良質な素材と高い料理技術が揃っていました。
ーーースペインのバスク地方で一番刺激を受けたのはどんなことですか?
何よりもお客様が「おいしい」ということをよく知っている点が素晴らしいと思いました。文化、経済力の高さから「食」に求めるレベルも高く、クオリティの低い料理を出すとお客様から戻されてやり直しをさせられます。
レストランも良質な食材を使うことにこだわっていて、漁師や農家が持ってきた良い食材はどんどん売れるし、おいしい料理を出す店は常にお客様で賑わっている。シェフとして働いた店も、美食の街として知られるサンセバスチャンの中心地にあり、お客様の料理に対する目が厳しい環境で修業できたことはとても良い経験でした。
ーーースペイン料理の特徴とは?
スペイン料理と一口に言っても地方によって様々な料理があり、一括りにするのは難しいですが、にんにくとオリーブオイルで素材の良さを活かすのがスペイン料理です。良い素材のものをおいしく食べる、という点ではまさしく日本料理と共通しています。例えば、日本料理では「切る」という調理の仕方一つで素材をおいしくすることができますが、スペイン料理でも「いかに素材の味を活かすか」という考えに主眼を置いています。
ーーー帰国後は日本料理店でも働かれたそうですね。
友人を紹介したことがきっかけで【日本料理 龍吟】の山本シェフと出逢い、スペインやフランスなどで開催する山本シェフの海外講演に同行しました。チームの一員として働く中で、クオリティの高い料理をチームで追求するスタイルに感銘を受けましたね。
これまで自分がやってきた西洋料理は合理的で、ゴールに到達するためのプロセスはいくつかあり、それぞれのやり方で積み重ねていっても、ある程度はうまくいきます。一方、和食はプロセスが霧にかかっているようなところがあり、感覚に頼るところが多いと感じています。例えば昆布と鰹節から出汁を取るという工程の中にも、おいしくするためのポイントがいくつかあり、なかなか共有しづらい部分でもあります。
【日本料理 龍吟】では、そうした工程を論理的に解き明かしながらも、単に数値化するのではなく、それぞれの料理人の感性が活かされた料理を作っていて、革新的なやり方だと思いました。そうした理論を持ちながらチームで料理を作るスタイルは、僕が現在6名のキッチンスタッフと働く上でも実践し、理論と数字を活用しながらクオリティの高い料理を追求しています。
ーーー日頃、料理のインスピレーションはどのように沸いていますか?
これまでスペインとフランスの本場で料理を学んだほかにも、帰国後に旅行した国や国内各地のレストランに足を運んで日々多くのことを学び、発想の源泉となっています。単なる体験ではなく実際に自分で現場に飛び込み、口や目など、五感を使いながら自分の中に取り込むという経験を積み重ねてきました。
これまで自分が人生を通じて経験してきたこと、学んできたことをスペイン料理をベースに提供しているのが【ZURRIOLA】の料理です。お客様にはイタリアンでもなくフレンチでもなく「ZURRIOLAだからこそ食べられる料理」と評価していただいており、それが私の個性なのかなと思います。
ーーー料理を提供する上で大切にされていることはありますか?
お客様の好みや食べたいものと自分が作りたい料理、それぞれの間で納得できる落としどころを見つけ、それを表現することです。
オープンキッチンで目の前にカウンター席があるので、お客様のご様子も拝見しながら料理を提供しています。しかし、あえて食後に「いかがでしたか?」と感想を伺うことはしていません。なぜなら、料理を召し上がった時のお客様の表情などから評価していただけたかどうかは推察できるからです。味に対する人の反応は正直だと感じています。
ーーー今のスタイルを確立する上で、きっかけとなったことはありましたか?
コロナ禍は料理について深く考え直すきっかけとなりました。様々な情報が錯綜し、正しい情報を見分けながらどのような行動を取るべきか、判断が難しい状況だったと思います。ビル自体が休業となり、私たちも休業を余儀なくされた期間となりましたが、小手先の対策でしのぐのではなく、黙って自分のやるべき仕事をするというスタンスでいました。
ーーーお客様がいらっしゃらなくてもできること、とは?
大人になるとコロナ禍のように何もすることができない期間、というのはなかなかないですよね。経営という点ではたしかに逆境ではありましたが、私の料理人としての人生の中で料理のことだけを真剣に考え続け、毎日家でじっくり研究を重ねられる、非常に貴重な期間となりました。
自分の作る料理とお客様との間でどのようにバランスを取るか、についても深く考えることができました。その時期に作ったメニューが今もコース料理として活躍しています。そうした意味で、コロナ禍は千載一遇の機会だったと思います。
ーーーインバウンド向けに配慮されていることはありますか?
まずは笑顔でいること、そしてお客様に海外にいることを楽しんでいただくことですね。まず言語対応については英語を話せるスタッフが常にいますし、自分がスペイン語とフランス語も対応できます。また、インバウンドの方が予約しやすいように、ネット予約できる環境を整備して英語のメニューも作りました。
予約のハードルやお客様の不安を払拭する取り組みは行いながらも、外国の方が自国で過ごしているかのような便利さを提供するよりは、その場を楽しんいただくことが大切なのかなと思います。
海外で過ごす時は、例えば、つたない言葉でもコミュニケーションを取って現地の言葉で料理を知るという楽しさもありますよね。そんな風にある程度分からないことがあっても、この空間を楽しんでいただけたらと思っています。
ーーーこれからの展望を教えてください。
良い食材を見つけ、それぞれの食材の個性を見分けながら自分の個性に染めた料理を提供することに力を入れていきたいです。
最近、地方のレストランに行くことが多いのですが、その土地の食材の個性を見抜き、料理人の技術や感性を活かしておいしい料理を提供している店と出逢い、感銘を受けました。味付けはベストなバランスで塩味と酸味が利き、きちんと味が煮詰まっている。つまり、「味が決まるべきところで決まっている料理」と感じたんです。
料理人の役目は食材の良さを引き出し、それをうまく活かして料理を作ることです。自分と食材と、自分とお客様との間での落としどころを見つめ直し、より自分らしい料理を形作っていくことがこれからの10年間だと思っています。
ーーー最後に、本多様にとって「おいしい」とは?
「おいしい」というのは味覚だけではなく雰囲気や一緒に食事している人、目や耳から入ってくる情報、それらすべてのものが組み合わさって感じられるものだと思います。
その中でも特に「誰と食べるか」と「一口食べてはっきりとおいしいとわかること」が重要だと思っています。「おいしいもの」とは、一口目からきちんとおいしいんです。シンプルに分かりやすくおいしさを伝える、それがこれからも料理を作る上で大切にしていきたいことですね。
エントランスの黒い格子の扉を開けると、まず最初に目に入ってくるのは壁にかけられた「TALLER de SEIICHI HONDA」の文字。Tallerとは日本語でアトリエを意味し、まさに本多シェフ自身の感性と経験、そして情熱が表現された空間だと感じた。
店内には、本多シェフが修業時代を過ごした思い出が詰まったスペインのサンセバスチャンの海岸の水彩画が飾られ、初心を忘れずにあろうとする本多シェフの心が伺える。本多シェフはこれからもどんな料理を生み出していくのか、これからの【ZURRIOLA】に目が離せない。
取材・文 / 佐田 優佳
撮影 / 中岡 あずさ
スリオラでは、銀座の静かなビルに位置するミシュラン2つ星のスペイン料理を堪能できます。シェフ本多誠一は、各国の名店で培った経験を活かし、四季を感じる丁寧な料理を提供しています。オープンキッチンのカウンター席では、五感を通じて料理を楽しむことができ、優雅な時間を過ごせます。スペインワインとの多彩なペアリングも食事体験をさらに豊かにしてくれます。