ーーーお店の特徴を教えてください。
ランチ、ディナーともに「テリーヌコレクション」と称して常時7〜8種類あるテリーヌの中から、お好きなものを選んでいただくコース料理をご用意しています。テリーヌを看板メニューにする理由は二つ。一つ目は他店との差別化を図るため。二つ目は豊富なバリエーションを持つテリーヌの魅力にあります。東京・代官山という街だけ見ても多くの飲食店がある中で、【レザンファン ギャテ】らしさは何かと考えた時に、材料の組み合わせや火の入れ方によってバリエーションが豊富なテリーヌを主役にしたフレンチをやってみようと思ったのです。
ーーーテリーヌはフランス料理の中ではどのような位置付けの料理ですか?
「テリーヌ」とは本来、フランス料理で使う陶器の蓋付き容器のことを指していたとか。この容器に「ファルス」と呼ばれる肉などを詰めて焼いて、その上から油をかぶせて食材が酸化しないよう生活の知恵から生まれた保存食だったなど、諸説あるようです。伝統的なフランス料理としてのテリーヌは、主に前菜として生の食材を型に詰めて火を入れるタイプと、調理した食材を詰めてコンソメゼリーなどをつなぎにして冷やし固めるタイプがあります。僕はゼリー感のあるテリーヌはあまり好まないので、具をびっしりと詰めて作るようにしています。
ーーーわずか直径10cmほどの中にたくさんの具材が詰まっていますね!つなぎを使わずにどのように固めているのですか?
「20種類の季節野菜のテリーヌ」は、あらかじめ茹でたり蒸した野菜を一つずつ型に詰めて塩を振り、専用のプレス機で圧縮します。仕込みから全ての野菜を型に詰め終わるまで、一本あたり二時間近くかかりますね。その後、ゆっくりと約一日かけてプレスをしていくと、野菜から余分な水分が出て野菜の間に隙間が無くなり、詰める前の半分以下の大きさになるんですよ。肉のテリーヌは生肉にしっかり味を付けてマリネしてから、型に詰めて温度を変えながらじっくり火を入れます。それから冷蔵庫で少なくとも二週間は寝かせて完成します。
ーーーテリーヌを作るうえで大切にしているのはどんなことですか?
テリーヌの魅力は、食材の組み合わせや火の入れ方次第で、色々なバリエーションを持たせることができるところだと思います。野菜でも肉のテリーヌでも、「バラバラで食べた方がおいしいんじゃない?」と言われてしまうと意味がないので、テリーヌにしておいしい食材の組み合わせを常に考えて作るように心掛けています。その組み合わせ次第で、「味」「食感」「見た目のインパクト」に変化をもたせることができるのです。
一つ目の「味」については、野菜のテリーヌであれば、素材それぞれの味や香りが主張しすぎてしまうと完成した時にバランスが悪くなってしまうので、特徴のある野菜を揃えるというよりも、互いに馴染みやすい新鮮な食材を組み合わせます。型に詰める段階では塩だけで味を整えて、塩味や水分を調整します。もう少し味や香りが欲しい場合は、お皿の中にハーブやナッツ、付け合わせを添えたり、ソースを足して一皿にまとめるようにします。肉のテリーヌは主に仔牛や鴨、鶏はヨーロッパ産、豚や牛は国産の食材を使っています。仕込みの段階でしっかり味をつけて温度を変えて焼き上げて一晩プレスします。
二つ目の「食感」については、口に含んだ時に色々な食感を愉しんでいただけるように、異なる食感が隣にくるように型に詰めるのがポイントです。食感や舌触りに変化を持たせ、食べ飽きないような工夫ですね。これは調理するうえでもメリットがあって、固い食材と柔らかい食材を並べることでプレス機で圧をかけた時に食材それぞれがうまく動けるので隙間ができにくいんです。
三つ目の「見た目のインパクト」については、彩りや立体感、断面の美しさを特に大事にしています。とはいえ、野菜を詰める作業は材料を一つずつ上に積みあげていく地味な作業の繰り返しで、下の素材の層は埋もれて見えなくなるんです。切った時の断面をイメージしながら詰めるのですが、どこに何を詰めたのか勘と記憶だけが頼りなので、途中で話しかけられると忘れちゃうので大変です(笑)。
完成した一本に包丁を入れて、テリーヌの断面が現れる瞬間は今でも毎回ドキドキしますね。イメージ通りにできることもありますし、その逆も。思いがけずに想像を超えた仕上がりになった時は、本当に嬉しいですよ。
―――個性的なテリーヌを次々と生み出すためのインスピレーションはどこから湧くのでしょう?
味の追求と同じくらい見た目の美しさは意識しています。だからといって生活の中で何かを探したり参考にするかというと、あまりしないようにしています。意識的に探したり参考にしようとすると、知らず知らずに刷り込まれてしまって誰かの真似になってしまうので。なるべく意識しすぎずに生活しながら、食材を見て触れた時に感じる感覚や閃きを大切に、どんな一皿に仕上げていくかを考えるようにしています。
ーーー松澤様が料理人を目指そうと思ったきっかけを教えてください。
料理に思い入れがあったわけでもなくて。高校を卒業する時に、サラリーマンより自分で何かを作る仕事がしたいと思い、「料理でいいかな」くらいの軽い気持ちで調理師学校に入りました。フランス料理を選んだ理由も、「手が込んでいそうだし、こんな料理が作れたらいいな」という感覚でしたね。卒業後は、都内のレストランでサービスから入って調理場で修行を積みました。当時は労働環境、コミュニケーションの取り方など今とは違って、学校も修行先も厳しい環境でした。
自分はセンスが良い方ではなかったので、早く仕事を覚えたい一心で長時間働いて、失敗して怒られながら体で覚える感じでしたね。大変で辞めようと思ったことも何度もありましたが、仕事ができる先輩の姿を見ると、どんなに怒られても「かっこいいな」「このまま辞めるのは悔しい」という気持ちの方が強くて、踏みとどまっていたように思います。
ーーー現在、ご自身が指導者的な立場となり、料理に対しての考え方は変化しましたか?
僕の若い頃とは価値観がずいぶん変わりましたよね。当時は、社会的に労働時間の規制が必要だろうという風潮は無かったですし、先輩からの指導で手が出てきたことも。料理業界に限らず、社会の成り立ちやコミュニケーションが今よりもストレートな時代だったと思います。どちらが良いとか悪いという話ではなく、今は世の中の在り方が変わって労働時間の規制もありますし、「ハラスメント」にならないようなコミュニケーションを考える時代になったと思います。これからの若い料理人たちの料理の突き詰め方は、昔とは変わってくるかもしれないですね。
若い頃は先輩に追いつきたい一心で勉強していましたが、シェフになってからの方が勉強の必要性をより実感します。経験を積んでいけばいくほど周りには頼る人がいなくなるので、自分から知識や技術をアップデートしていかないと成長は無いんですよね。僕は伝統的なフランス料理の上に現代のフランス料理が成り立っていると思うので、まだまだフランス料理の基本や伝統的な部分を学ばないと、自分なりのアレンジを加えた現代の料理には仕上げられないなと思います。
―――若手に伝えたいメッセージはありますか?
4年ほど前から月に1〜2回、店の定休日に調理師学校で教えています。主に学生の前で料理のデモンストレーションをして学生の技術チェックをします。人前で話すのが苦手なので場慣れも必要かなと、依頼を引き受けたのですが、自分の学び直しの機会にもなっているんですよ。
例えば基本的なソースの作り方を教える場合、分かっているつもりだけれど教える以上は作り方の基礎をもう一度確認したり、ソースの名前の由来など料理の背景を調べることも必要かなと。それから、自分の話し方や実演がちゃんと伝わっているか、学生がイメージできているか反応を見ながらやっています。
料理人は料理を作ってお客様に食べてもらう仕事。学生には自分の料理が「おいしいか」以前に、まず衛生面をきちんとすること、食材を無駄にしないように向き合うことが一番大事だと伝えています。不衛生だったり食材を適当に扱う環境下では、おいしい料理もお客様に悦んでもらう料理も生まれないですよね。基本を大事にしてほしいと思います。
ーーーこれからの展望、目標がありましたらお聞かせください。
大きな目標ではないのですが、お客様に喜んでもらい飽きずに来てもらえるような料理をこれからも作り続けることでしょうか。例えば、長く通ってくださっている常連のお客様であれば、その方の好みを踏まえながら飽きないようなアレンジを加えて作ることもあります。その方に合わせて作るので、より気持ちが入るじゃないですか、すごく喜んでくださるんですよね。新規のお客様であれば、その方のお好きなものを選んでいただけるように、メニューの選択肢を増やしていきたいですね。レストランはサービス業ですから、相手への気遣いや「どうしたら喜んでいただけるだろう」という想いがないと務まらないものではないでしょうか。火の入れ方・味付け・温度管理など、料理に対して細かなところに気を配ることも全て気遣いだと思います。
【レザンファン ギャテ】では、レストランとは別にオンライン販売もしています。最初は店を知っていただくためにテイクアウトを始めて、それを全国に発送できるようにしたことが始まりです。次第にお歳暮などの贈答用として多くのご注文をいただくようになり、今ではお取り寄せ専門の工房を作りました。特にコロナ禍を機に【レザンファン ギャテ】を知っていただいたお客様もいらっしゃるので、こちらも大事にしていきたいですね。
ーーー最後に、松澤様にとって「おいしい」とは?
「おいしい」とは、そのお皿の上の緊張感ではないでしょうか。お皿の上にある食材の味付けや火入れ・香り・食感・温度・盛り付けなどに隙がない状態です。「この料理をお客様に食べてもらってよいのか」「こういうものを作ったら喜んでいただけるかな」と考えると、自然と緊張感が生まれます。
料理人が大切にすべき緊張感は、お客様が召し上がった時に料理から伝わってくると思うんですよ。逆にお客様や料理に対して、「こんなもんでいいでしょ」とか舐めた感覚や雑に作る料理はそれなりになってしまうと思いますし、それも伝わるのではないでしょうか。
食材も生き物ですから、同じものは一つとして無いですよね。例えば、同じ個体の肉でも部位によって水分量や肉質が違います。その時の状態に合わせておいしいと思う料理に仕上げる。「この食材に合わせるのはこれ」「この季節はこのテリーヌ」と同じことを繰り返すのではなく、お客様や食材、自分の感覚に向き合いながらこれからもやっていきたいと思います。
調理師学校の学生たちに自分の表現が伝わっているか、今も考えながら授業に向かうという松澤氏。「話すのが苦手」とはにかみながらも、的確な言葉を探すように間をとりながら丁寧に語ってくださった。「緊張感」をもってして生み出される精巧で優美なテリーヌは、松澤氏が客人や料理に向き合う時のある種の不器用さから生まれる繊細な気遣いと謙虚さの結晶なのだろう。
自身にも緊張感を課し、今もなお進化を止めない松澤氏の料理を愉しむ客人たちの笑顔が窓辺に映る。
取材・文/柳屋 有里
撮影/中岡 あずさ
Es un restaurante francés famoso por sus terrinas que aprovechan hábilmente los ingredientes de cada estación. En particular, las joyas de terrina elaboradas con la técnica excepcional del chef son una obra maestra que evoca el espíritu de la cocina francesa. La selección de vinos cuidadosamente elegidos también es exquisita, permitiendo disfrutar de la armonía con los platos.