ーーー料理人を志したきっかけを教えてください。
高校時代に居酒屋でアルバイトをしていた時の責任者が京都で板前をしていた方で、色々と刺激を受けて板前になりたいと思い、料理の道に進みました。料理の専門学校を卒業後、寿司割烹店で修業を始めましたが、理想と現実のギャップに悩み、3年経った頃に実は一度料理人の道を諦めかけました。
そんな時に、料理人の先輩から「君は料理人に向いているから続けなさい」と言われ、素晴らしい方が京都ホテル(現在のホテルオークラ京都)の料理長をやるからと職場を紹介してくださいました。尊敬する先輩がそんな風に言ってくれるのなら、もう一度頑張ろうと思い、紹介先でお逢いしたのが僕の師匠となる堀江 隆雄氏です。もう亡くなられていますが、師匠と出逢えたことで料理が楽しくなり、料理人になろうと心を決めました。
ーーー修行時代のお話を伺えますか?
師匠は滋賀県にある【招福楼】で昔ご活躍されていた方なのですが、天才とはこういう方のことかと思いましたね。お人柄も本当に尊敬できる方で、師匠のもとには志の高い人がたくさん集まっていました。僕は師匠の下で働く前に、名古屋の料亭で一年修業をしてから京都ホテルで一緒に仕事をさせていただいたのですが、「こんな人になりたい」と師匠を慕っていて随分と可愛がっていただき、僕にとって父のような存在でした。
料理のほかにもお華や設え、空間をはじめ、生き方に至るまで全てを教えていただきました。お華を学ぶことで「料理のこの場所にはこれが必要」というように、料理の盛り付けをお客様目線で考えられるようになりましたし、掃除・整理整頓をきちんとするなど、相手にどう見られているか意識することの大切さも教わりました。味だけではなく一緒に来る人や店の空間、さりげない接客などが合わさることで「おいしさ」が増すのであり、料理とはお客様に喜んでいただくための一つの武器であるということや、料理人として礎となる姿勢を師匠からたくさん学ばせていただきました。
また、ホテルは規模が大きいので分業制となるのですが、当時、大先輩であった現【祇園なん波】の難波 修氏から煮方に引き上げていただき、厳しくもお二人のお側で10年間学ばせていただけたことは今でも本当に感謝しています。
ーーー京都ホテルで10年ほど勤務された後、どのような経験を積みましたか?
祇園の料理店で8年ほど料理長を経験しました。初めて一番上の立場になり、日本料理にオリーブや洋物を使ってみたりと新しいことも試してみたのですが、大抵失敗してしまいました。頭に浮かんだイメージをただやってみる料理というのは全然納得ができなくて、やはり教えていただいたこと一つ一つをきちんと実践していく方が大事なのだと気付きました。自分で店を始めるのならそういったことを大切にしようとも思いましたし、まだ師匠のレベルまではとても近づけていないのですが、師匠から教わった料理を丁寧にやるということは今も心掛けています。
中でも「日本料理の華は椀物にある」という教えは特に大切にしています。出汁は料理の全てに入ってくるので、出汁が決まらないと料理全体に影響します。かといって、出汁は何か付け足して作っていくものではなく、素材ありきで真面目に下準備していくしかありません。日本料理を作るうえで大切なことを改めて確認できた時期でもありました。
ーーーいつ頃から独立を考えられていましたか?
18歳の頃から、「やるからには絶対に自分の店を将来持とう」と思っていました。修業を積んだ後、店を始めようとある物件を借りたんです。とても気に入った物件だったのですが、様々な事情により途中で断念せざるを得ない状況に追い込まれました。工事も途中で中止しなければならず、金銭的にも苦しくとても厳しい状況でした。
そんな時、日本料理の名店【祇園おかだ】で働くチャンスを得たのですが、スピードや技術が足りていなかったことを痛感し、一から修業をし直すことにしました。【祇園おかだ】で働いたことで、当時の自分には「店を持つ」ということへの覚悟が足りていなかったことに気付いたんです。失敗の原因は自分にあり、店をやるからには一から徹底して自分で作り込まなければ成功できないと思い、しっかり前を向いて歩いていこうと心を決めました。
ーーーその後【祇園もりわき】をオープンした経緯を教えてください。
施工いただいた工務店さんは和食店を担当したことがなかったものの、人柄に惚れてお願いすることになりました。お願いした後は自分で設計図を何回も書き直して、内装で必要な材料を直接仕入れるなど徹底的にこだわりました。店内は「土と壁」というイメージでやりたくて、お客様から見えるところは土壁にしています。僕の行きつけのバーの空間には花が一輪飾られていて、美しくとてもかっこいいのですが、自分の目指す空間づくりのヒントになりましたね。
そこから3年間、店のオープン準備を進める中で自分たちが必要とする人や出来事との出逢いに恵まれ、本当に不思議なことがたくさん起きました。例えば、当時住んでいた家の近所にある花屋のご主人がすごくよくしてくださり、店の入り口に飾っているお花は花屋のご主人の心意気から10年間毎月持って来てくださっています。店内のテーブルの木は、知り合いの奈良県の木工作家の方に仕入れ先へ連れて行っていただき、業者の方には僕の状況をご理解いただいて7m近い立派な桜の木を、信じられないような価格で譲っていただいたりもしました。
ーーー周囲にいるみなさんが味方をしてくれたんですね。
ほかにも、カウンター内の戸棚の扉は樹齢600年といわれる古い木材なのですが、奥から出してきて「これを是非使いなさい」と言っていただいたり、高価な画や器を「応援しているから頑張りなさい」とお譲りくださるお客様がいたりと、本当に様々な方に助けられながらここまでくることができました。もし最初の挫折がなければ、店はオープンしてもすぐに失敗していたと思うので経験して良かったと思いますし、苦しい経験から出逢えた様々な方に本当に感謝をしています。
ーーーお客様と接するうえで心がけていることはありますか?
でしゃばりすぎないようにしながらも、箸やグラスを傾ける音などに気を配りながら、お客様に寄り添うような姿勢を意識しています。お客様は10代の方から80代くらいの方まで幅広い年代の方がいらっしゃるので、お食事の進み具合などを見ながら、お客様にとってちょうど良い量でご提供できるように調整もしています。
また、以前は2回転して営業する日もありましたが、自分たちが働きすぎてお客様お一人お一人にサービスが行き届かなくなることを懸念して、もう少しお客様と丁寧に向き合いたいという想いから、現在は昼・夜営業とそれぞれ時間を区切り、体力面からも無理なく営業をするようになりました。
ーーーお客様の層に変化はありましたか?
コロナ後は特に海外のお客様が増え、店の予約ページからネット予約してくださる方が多いですね。以前は、海外の方は一割にも満たないくらいでしたが、コロナ明けからお客様の半分くらいは海外からのお客様です。初めて懐石料理を召し上がる方も多く、お客様の反応もそれぞれで新鮮ですし、日本語を勉強して来てくださる方もいて、コミュニケーションもできて嬉しいです。
ーーー石川県の被災地へ支援をされているそうですね。
当店で使用している能登の塩業者さんが被災されて、少しでも力になりたいと思い、売上の一部とお客様からいただいたお心付けを寄付させていただいています。また、当店の器は輪島塗の職人の方に修理を依頼しているのですが、先日無事お仕事を再開されたと報告に来てくださいました。まだ従業員の方も大変な思いをされているとのことで、なかなか元に戻るのは難しいと思いますが、自分たちができることを続けていきたいと思っています。
ーーー今後も大切にしていきたいと思っていることを教えてください。
料理だけではなく、お客様へのおもてなしや生き方など、自分自身を磨いていきたいといつも思っています。最近では師匠の教えの通り、日本料理の華ともいわれる椀物の出汁にもっとこだわりたいという想いから、鰹節削り機を導入しました。お客様が目の前にいらっしゃるカウンター席なので、削りたての香りを嗅いでいただいたりしてライブ感もありますし楽しくて、料理の見せ場にもなっています。
おもてなしの面では、例えばお客様がお帰りの際に「田中さん、お会計です」というようにお名前を呼ばれると嬉しいかなと思い、当店ではカウンターの内側に名札を貼って会計時にお名前を呼ぶようにしています。料理でもサービスでも、創意工夫してより良くしていくことが今は何よりも楽しいと感じます。
ーーー最後に、森脇様にとって「おいしい」とは?
味覚をはじめ、五感から感じること以外にも、設えやどういう空間で過ごすかも「おいしい」と感じるうえで大切だと思います。お客様の会話の中で、例えばお祝い事があればサプライズをしたりするなど、そういったお客様への思いやりの心も「おいしい」のレベルを上げる重要な要素だと思います。オープンから「おいしい」をとことん突き詰めてきて10年。まだまだではありますが、これからも真面目においしい料理を追求していきたいです。
日本料理の道に進み、そのキャリアはすでに30年以上。決して驕ることなく、お客様に喜んでいただきたいという想いで誠心誠意、料理と向き合うその姿勢からは、多くの人の心を満たす逸品が生み出されることもうなずける。取材中、店の花を10年間届けてくださるという花屋のご主人の話題に触れた際には、森脇氏の目には涙が光り、様々な人とのご縁に感謝し大切にされている誠実な人柄にも胸を打たれた。古都の風情溢れる祇園で、純粋な日本料理の味わいと「一期一会の心」を体験しに、是非「祇園もりわき」へ訪れてほしい。
取材・文 / 佐田 優佳
撮影 / 中岡 あずさ
Situé au cœur de Kyoto, ce restaurant propose des plats riches en sensations saisonnières, préparés par un chef ayant acquis son expérience dans des établissements japonais renommés. C'est un chef étoilé Michelin, reconnu pour ses plats aux saveurs délicates. Chaque visite offre de nouvelles découvertes, faisant de cet endroit un lieu que l'on peut apprécier encore et encore.