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調和から生まれる「美しい味」を創り出すのは、フレンチに対する敬意の表れ【gentil H】
2024/12/19

調和から生まれる「美しい味」を創り出すのは、フレンチに対する敬意の表れ【gentil H】

閑静な住宅街に隠れ家的なフランス料理店が点在する白金エリア。 伝統的な技法を用いて、多彩な食材を精巧で優美な一皿へと見事に調和させる【gentil H -ジョンティアッシュ-】料理長の平野 敬祐氏。ミシュラン三ツ星の恵比寿【ジョエルロブション】では、巨匠ジョエル・ロブション氏に師事した渡辺 雄一郎氏の元で研鑽を積み、渡仏後は揺るぎない技術と理論を修得してきた。【gentil H -ジョンティアッシュ-】料理長に就任してから早6年、名店での修行から得た学びやフランス料理における平野氏流のロジックについて語っていただこう。

平野氏の様々な想いが創り出した3種のスペシャリテ

ーーーお店の特徴について教えてください。

当店では「調和」を意識して料理を作っています。食材の組み合わせだけではなく、ダイニングの雰囲気やサービスマンの質・季節感・ワインなど、全てを含めた時の調和をとても大切にしています。調和した中で生まれる「一体感」を、お食事を通じてお客様に楽しんでいただくことで、心地良い時間が流れると思っています。

ーーーお店のスペシャリテは?

まず一皿目は「なめらかにしたフォアグラのフォンダン」と題した一皿。当店のテーマである「調和」を一番体現した料理で、この一皿には「初期衝動と調和」という僕の料理人としてのストーリーを込めたサブテーマを付けています。

元々、僕はフランス料理ではなく中国料理の料理人を志していたのですが、学生時代に渡辺 雄一郎氏(現:浅草【Nabeno-Ism】を2016年に開業)の外来授業があり、フランス料理の魅力に惹き込まれたんです。後に渡辺シェフは私の師匠となりますが、授業で作ってくださった料理が「フォアグラのフォンダン」でした。僕の「人生観を変えてくれた料理」として、僕なりのエッセンスを入れて当店で作らせていただいています。

フォアグラは「アニマルウェルネス」の観点から時代に逆風する食材ではありますが、フランス料理を代表する食材の一つですし、ローマ時代から2000年以上もの歴史ある食材です。最近の流行や風潮に流されて下火になってしまうのはもったいないなと思っています。ですので、僕は「あえて」フォアグラを使い続けさせていただいています。時代の流れを汲み入れながらも揺るがない部分を残していきたいという想いです。

二品目の「うなぎパイ」は、僕の地元である浜松の銘菓へのオマージュです。4〜5年くらい前からご提供していて、季節毎に全く異なる料理を作り続け、現在19代目になります。フランス料理のテクニックと僕なりのアイディアを織り交ぜてお客様の想像力を刺激する料理となっています。

三品目の「北京ダック」は、中国料理好きな僕の好みや源流が反映されていて、皮しか食さない従来のスタイルを改良したいと思ったんです。長い研究期間を経て、皮は美味しさを最大限に引き出す「北京ダック」のまま、中身はフランス料理としてセニャン(=ミディアムレア)に仕上げる方法を生み出しました。皮もベスト、身もベストという状態ですね。三品とも当店を代表するスペシャリテです。

ーーー食材をアレンジするインスピレーションはどんなところから?

「自分の体験」が挙げられますが、身体は一つしかないのでたくさんの経験を詰められるわけではありません。今はインターネットやSNSが主流になってきましたし、書籍も含め、色々なところから情報を得ようとアンテナを常に張っていますね。情報収集する際に意識していることは、フランス料理は時代の変遷によってスタイルも変わっていきますが、なるべく時代に傾倒しすぎないこと。常にアラモード(流行)を意識しつつも、芯の部分はフランス料理であることを大切にしています。

ーーー食材選びや仕入れに関してのこだわりは?

豊洲が主になりますが、「餅は餅屋」という言葉がありますから、修行時代から信頼している仲買の方にお願いしています。豊洲に入らない食材は産直で仕入れているのですが、最近は便利な世の中になりましたので、産直の食材を紹介してくださる仲介の方がいるんです。全国各地の素晴らしい生産者の方々をご紹介していただくことも多いですね。

フランス料理がもたらす「調和」への敬意を形にする

ーーー料理を作るうえで大切にされている部分や伝えたいことは?

我々日本人が日本の土地でフランス料理を作るからには、フランス料理の文化に対するリスペクトを失わないよう料理をしなければいけないと思っています。日本料理の文化も違った形で他国に伝わるのはもどかしさを感じますし、そうした感情をフランス人に抱かせたくないという想いがあります。また、僕の師匠は料理として「五味のチャートをきちんと整えてあげること」をとても大切にされていました。僕も頭の中でしっかりと五味のチャートを描きながら、突出させるものを突出させるべきか、五角形の綺麗なバランスを取るのかを常に考えながら料理を作っています。

また当店のテーマに掲げる「調和」に関してお伝えすると、僕は良い店に行くと食後に「死んでも良いな」と思うんです。今もし事故にあっても幸せな人生だったな、と。美味しいもので溢れる世の中ですから、味だけでなく味以外の部分も含めた調和から生まれる「感動の総合値が高い料理」を作りたいと日々目指しています。

もちろん料理を作るうえで独創性も大事な要素ではありますが、僕はそれ以上に料理の盛り付け・味付け・火入れに対する「精度」を重視しています。中でも盛り付けは、工程の中で料理が冷めたりソースが乾いてしまうので、「美味しさのために省く」という選択もありますが、それは僕の目指す「感動の総合値」とは異なるんです。味や食材だけに焦点を当ててしまうと、「料理」を通してお客様の人生の豊かさを向上させることはできません。常に、より精度の高い料理とサービスを心掛けています。

ーーーお客様との「調和」についてはいかがでしょうか?

僕も度々お客様のいらっしゃるダイニングに出ています。また、当店ならではのおもてなしとして、2〜3年前から僕がお客様の元に直接お伺いして、食後に即興でハーブティーを作っています。これには理由がありまして、コースを召し上がった後の食後感というのはお客様によって異なりますので、お客様と接し、足りないピースを補うことで調和に繋がり、コースがしっかりとまとまるからです。

ハーブは約25〜26種類、スパイスも16種類ほど取り揃えているので組み合わせは無限大で、僕はお客様にその日のテーマをお伺いしています。例えば味の好みだけでなく人生や恋愛の悩みなど、中には変わったテーマをお話しくださる方もいて、銀行の審査が下りないとか(笑)。そこから更に会話も広がり、また一つの調和に繋がります。

僕は料理人になるために生まれた

ーーー料理人を志したきっかけは?

気が付けばなんです。幼少期から包丁に触れていましたし、小学校3年生の誕生日プレゼントは中華鍋で、小学校5年生の作文にはもう料理人になりたいと書いていましたし。物心ついた頃には決まっていたんでしょうね。高校は食品科のある学校を選びましたし、揺るがなかったです。中国料理をやりたかったのは、田舎出身ですのでフランス料理の店がそもそも身近になくて、自分の中のご馳走といえば中国料理だったからです。

ーーー人生観を変えた渡辺シェフの第一印象や修行の中で学んだことは?

料理に対する思考量が段違いの方でした。料理一つ作るまでに、細かいポイントやクリアすべきチェックポイントがたくさんあって、必要な知識を深め、技術を高めるために一体どれだけの努力をされたのだろうと驚きと感動がありましたね。師匠には「覚悟してこいよ」と言われて、当時の僕はもうビビっていましたよ(笑)。

料理学校を卒業してからは、師匠がエグゼクティブシェフを務めていた恵比寿の【ジョエル・ロブション】で5年半ほど勤めさせていただきましたが、料理も非常に繊細なもので、配置やパーツ一つ一つの大きさであったり、分量や火入れに対してミリ単位のこだわりがあり、多くのことを学びました。フランス料理との出逢いや師匠への憧れが大きな原動力となり、今でも修行時代に学んだことは意識して料理に反映させています。当店では、修行時代に学んだ精密さに「感性を研ぎ澄ますこと」をプラスしていくことをテーマに、自分のスキルアップに励むことにも繋がっています。

ーーー修行時代の苦しかったエピソードや思い出はありますか?

規模が大きいレストランでしたので、僕は仕込みが間に合わなかったんですよ。時間の使い方に対する思考に戸惑いがありましたね。大きな転換期があったわけではないですが、時の経過と共に自然と店に馴染んでいったタイプで、何かしらのタイミングでぱっとできるようになったとかではなく、とにかく地道に向き合っていた毎日でしたね。

ーーーその後フランスに渡ったそうですが、本場で学ぶ中で新しい発見はありましたか?

Le Carmin(ル・カルマン)】というボーヌにある店で、一年間のワーキングホリデーを過ごしました。驚いたことは、日本での環境が非常にハイレベルだったことです。【ジョエル・ロブション】出身のフランス人シェフの店だったので技術的な共通点は非常に多く、現地では自分が身構えていたほどの苦労はせずに、日本での経験を元にスムーズな仕事ができました。

フランスで深く学んだことはフィーリング的な部分ですね。ボーヌは「ワインの街」ですから、人々の食卓とワインの近さに感銘を受けました。ビストロに入ると、どのテーブルでもボトルワインが空いている状況を目にして、素敵な光景でしたね。春は「コートドール」や「コートドボーヌ」というワインの生産地まで40kmほど自転車を漕いで、毎週末足を運んでいました。葡萄畑の変化を見せていただいたり、シェフと共に色々なワイナリーにお邪魔させていただけたことで、フランスを代表するブルゴーニュワインというものを地図だけでなく自分の体験を通じて身体で覚えることができた経験は大きかったです。

渡仏前からソムリエ資格を持っていたので、フランスでは料理の勉強はもちろんですが、ワインを飲みに行った感じでしたね(笑)。

料理への情熱が苦しい日々に変化をもたらす

ーーー帰国されてから【gentil H -ジョンティアッシュ-】との出逢いは?

26〜27歳の時ですね。お声掛けいただいたのは、【ジョエル・ロブション】時代にシェフソムリエをされていた信國 武洋氏です。当店の母体は「レコール・デュ・ヴァン」というワインスクールなのですが、スクール講師であった信國さんに当店のシェフを探してくれという話があったそうでお声掛けいただき、27歳で料理長として就任させていただきました。

僕が二代目料理長として就任した頃はスタッフがほぼ抜けてしまい、改めて一から作るような状態。サービスマンもおらず、僕が料理もサーブもする状態で余裕は一ミリもなく、非常に苦しい期間でした。

ーーー苦しい時期を乗り越え、現在の手応えはいかがですか?

長く当店に身を置くスタッフや副料理長も立つようになり、スタッフがしっかりと成長してついてきてくれるようになったことは本当に嬉しく思います。僕自身も余裕が持てるようになり、料理のクリエイトに充てる時間が増えましたし、レストランとしての体制はだいぶ整ってきたと思います。

「うまい」ではなく「美しい味」を創り続ける

ーーースタッフの皆様と日頃のコミュミケーションは?

ノミニケーションという名のスタッフとのコミュニケーションですね。当店のキッチンでは、各スタッフが日替わりで音楽をかけています。音楽を通じて彼らの人となりや好みが分かってきますし、営業中の連動性を高めるための一つとして取り入れています。当店は若いスタッフが多いのですが、コミュニケーションという面では意外と感性も似通った部分があって、流行りの服なども教えてもらっていますよ。僕がそれをチョイスするかは別として(笑)。サービススタッフとの共通話題は、やはりワインですね。僕はワインが好きで好きでしょうがないタイプで、休日に飲んだワインや店で出したワインの話を通じて、彼らと感性を共有しています。

ーーーご自身のアップデートはどのように?

白金台は100m圏内にフランス料理店が多く、シェフ同士の交流も非常に多いんです。営業後は皆んなで飲みに行ったり、一緒に旅行に行く中で自身のアップデートをしています。料理に対してだけでなく、店の経営方針やスタッフの教育方法であったり、様々なことを勉強させていただいています。僕よりも一回り以上離れた先輩方ですが、皆さん優しく接してくれます。新年会などでは、各店の若いスタッフが一人ずつ料理を持ち寄ったりもするんです。そうした機会にスタッフも料理人として、自分の現在の偏差値を知れるというのはとても良い機会だと思っています。

やはり店の中だけにいると、店の中だけのヒエラルキーや偏差値の中で仕事をしてしまうものです。料理界における自分が現在どのくらいのレベルにいるのかが分からなくなってきちゃうんですよ。同じ年代の他店のスタッフがすごく美味しい料理を作っていると知ると、多少なりとも彼らの中に焦りが出てくることで良い刺激にもなりますし、若いスタッフ同士でも交流が持てることはすごく良いと思いますね。仲良く交流させていただいている先輩方には、僕だけでなくスタッフにもすごく良い影響を与えてくださって、本当に感謝しています!

ーーー最後に、平野様にとって「おいしい」とは?

「おいしい」と「うまい」は別、というのが僕の持論です。文字の通り「美しい味」ですね。色々な食材を当店では使いますが、決して混沌とさせずに美しく調和させることを大切にしています。

また「おいしい」とは「理を料る」こと。「料理」という字を訓読みすると「理=ことわり」「料=はかる」になります。物事の仕組みや成り立ちである「理」を「料る=考える」ことで、僕の目指す調和と感動に行き着けると思っています。これからもこの言葉を胸に刻み、真摯に料理と向き合い、お客様をお迎えしようと思います。

恩師に書いていただいたという、厨房に掲げられていた「理を料る」と記された北大路魯山人の言葉。"道理に合わせて物事をととのえ、おさめていく"という意味を持つ。日本国内におけるフランス料理の合理的な解釈と表現を追及し続ける平野氏の料理に対する想いやおもてなしの姿勢そのもののようだ。「チームgentil H」としての総合力と客人が織りなす「調和」が新たなストーリーを創り、価値ある時間を生み出していく。

取材/柳屋 有里
文/AutoReserve Magazine編集部
撮影/中岡 あずさ

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