ーーー【kimura】の一番のこだわりは何でしょう?
やはり「秋田県産の食材のみ」で料理をしていることです。県外産はもちろん、フォアグラやキャビア・トリュフといった輸入食材も一切使っていません。食材によっては季節毎に手に入るものと入らないものの波があり調達に苦労することもありますが、毎朝市場に出向いて旬の食材を吟味し、地元の生産者さんにも協力いただきながら、「お客様に秋田県の味を思う存分堪能していただく」という確固たる信念を持って、開業以来ブレることなく貫いています。
料理は月替わりのコースのみです。コースの中盤にパスタを提供しますが、他のメニューはフレンチの要素が強くなっているかもしれません。修業時代も含めて都内で経験を積んできた約20年間は、イタリアンとフレンチがほぼ半々でした。そのため、料理のジャンルはさほど意識することなく、何よりも秋田の素材の良さを引き出す調理法でおもてなししています。
ーーー子どもの頃から料理人になると決めていたのですか?
小学校の卒業アルバムには、「将来の夢は大工」と記しています。小さい頃から、将来は会社勤めではなく何かモノを作る仕事に就きたいと漠然と夢見ていました。料理の世界に惹かれたのは中学生になってからです。テレビ番組「料理の鉄人」に感化されたことがきっかけですが、実家近くにあった老舗料亭の板前さんたちがとても粋で格好良く、当時は彼らへの憧れも大きかったと思います。
料理人として一流を目指すなら東京で修行するしかないと、高校卒業と同時に家を出ました。強い覚悟の裏には、「いずれ秋田で自分の店を持つ」という確たる決意がありました。折しもイタリアンブームに火が付いた頃で、食べることが好きだった私は、今まで口にしたことのない味に熱中し、イタリアンへの興味が高まっていました。ですが、入学した当時の調理師学校にはまだイタリアンの専門コースがなく、料理の基礎を一通り学んだ後はフレンチを主とした「洋食」を専攻し、いざ就職となった際にイタリアンレストランを選びました。学校に求人票が貼り出されていたので、客として訪れたところ、すぐに洗練された本場の味の虜となり、自分の舌が惚れ込んだ店で料理人としての第一歩を歩み始めました。
ーーーフレンチの修行はいつ頃から始められたのですか?
当時はイタリアンの店で腕を磨きながら、時間があれば都内のレストランの食べ歩きをしていました。ある日、友人と何気なく訪れたフレンチレストランで、私は雷に打たれたような衝撃を受けたんです。言葉にすると稚拙な表現になりますが、「おいしすぎる/これはすごい!」と、驚きと感動で胸がいっぱいになったことを鮮明に覚えています。
私が学んできた当時のイタリアンは、素材の旨味を最大限に引き出す料理が主流でした。例えば、丁寧に焼き上げたお肉にレモンを添えて最後にオリーブオイルで味をまとめる、というように食材の色合いを活かしたシンプルな盛り付けです。しかし、フランス料理はソースに代表されるように目に見えない部分に膨大な時間をかける料理で、皿の上もまるでアート作品のように繊細に彩ります。「自分もこんな料理を作りたい」という衝動をどうにも抑えきれず、若気の至りというか後先考えずに、その日の夜にお店に電話をして「働かせてほしいです!」と頼み込みました(笑)。
―――フレンチレストランの現場ではいかがでしたか?
ベテランのシェフからすると、私のイタリアンでのキャリアなど取るに足らないものだったのでしょう。私はまったくの新人として扱われ、料理人として再びゼロからのスタートとなりました。イタリアンとフレンチは、料理もですが厨房で飛び交う専門用語も異なります。それまでに身に付けた技術も知識も手放したうえで、覚えなければならないことが山ほどありました。精神的にもハードな時期でしたが、フレンチの本質を見極めるまで辞めるわけにはいかないと歯を食いしばり、2年間勤め上げました。
私自身は海外で修行をしたり星付きの有名レストランで働いた経験はありません。ですが、代わりに人にはとても恵まれて、国内外の有名店で研鑽を積んだ先輩方と同じ厨房に立つ機会が数多くありました。本場の味と一流の技を身近で学ばせていただき、先輩方には本当に感謝してもしきれません。
東京で6年ほど籍を置いたイタリアンレストランのシェフがフレンチ出身だったことや、私がスーシェフを務めた六本木ヒルズ【THE MOON】がイタリアンからフレンチへリニューアルするなど、思いがけないきっかけによる出逢いや経験も糧となって、ボーダーレスで型にはまらない【kimura】の料理の個性に活かされていると思います。
ーーーワインソムリエの資格もお持ちですよね?
東京で過ごした時間の全てが、地元である秋田で自分の店を開くための準備期間でした。ワインソムリエの資格を取ったのも将来を見据えてのことで、秋田には自分の右腕となる人材がいないかもしれないと危惧したからです。当時は地元の友人からも人手不足は否めないと聞かされていたので、オーナーシェフとなる私がワインに精通していれば、一人で店を切り盛りできると考えました。働きながらソムリエ学校に通い、夜遅くまで勉強をしていたので体力的には最も苦しい時期でしたが、師匠ともいえる先生のおかげで世界中のワインに触れることができました。
当店では、ヨーロッパにアメリカ・日本など、国や産地に縛られることなく上質なワインを多数取り揃えています。ワイン好きのお客様のために料理とワインのペアリングコースをご用意したり、良いワインが手に入った時には豊潤な香りを楽しむための料理を創作するなど、必死に勉強したおかげで料理の幅も広がりました。ちなみに日本酒は秋田限定ですが(笑)。
ーーー秋田に戻られてすぐに【kimura】のオープンとなったのでしょうか?
2年ほどは地元のレストランで働きました。というのも、高校卒業後すぐに秋田を離れたこともあり、仕入れ先や生産者さんとの横の繋がりを築きたかったからです。満を持してJR秋田駅近くに【kimura】をオープンしたのが2018年です。当店を目指してお客様がわざわざ秋田まで足を運びたくなるような唯一無二の店を目標に掲げました。おかげさまで、今では常連のお客様の多くを県外の方が占め、海外からのご予約も増えています。
当店には、私の料理人としての人生初のカウンタースタイルを取り入れました。開業当初は接客に不慣れだったため、目の前のお客様の反応に一喜一憂することもありましたが、お客様には出来立てのとびきりおいしい瞬間に料理を召し上がっていただけるので、最良の選択をしたと思っています。料理は時間が経てば経つほどおいしさが逃げていくので、お客様の目の前に運ばれるまでのタイムラグをほぼなくすことができたと思います。
ーーー食材の調達方法のこだわりについて教えていただけますか?
毎朝市場に仕入れに出掛けるほか、手が空いている日には鹿肉や鴨・月輪熊などのジビエも生産者さんの元へ出向いて直で取引しています。秋田では馬肉を食べる文化も根付いているので、馬肉も生産者さんから買い付けます。道の駅などの産地直送市場にも顔を出しますよ。食材の全てを県産で揃えるには市場にあるものだけでは賄えないので、あちこちにアンテナを張って上手に手に入れるようにしています。最近では、若い農家さんがめずらしい西洋野菜作りに取り組んでいるので、「欲しい野菜があるんだけど」と私からお願いして栽培してもらうこともあります。地方の料理人にとって、横の繋がりは重要だなと改めて実感しています。
ーーー秋田ならではのお勧めの食材はありますか?
鮮度抜群の春の山菜、秋のキノコはぜひ一度食していただきたいです。収穫から調理されるまでの時間が短いので、東京の店では絶対に出せない逸品料理をお召し上がりいただけます。素晴らしい食材は秋田以外にもたくさんあり、全国から食材を取り寄せた方が飲食店としては効率が良いのかもしれません。例えば、鰯なら脂の乗った北海道産が注目されますが、私が目指すのは秋田で水揚げされた鰯のポテンシャルを最大限引き出して、県外のお客様が唸るような料理に昇華させることなんです。
食材を“ピンとキリ”で線引きするのではなく、目の前にあるものを大事にいただくことで地方の食文化は守られていくし、生産者さんのモチベーションやスキルも上がっていくのではないかと料理人同士でよく話をしています。地元の料理人とは毎朝市場で顔を合わせ、「みんなで秋田を盛り上げよう!」と盛んに意見交換をしています。東北では私のように東京から戻って店を出す料理人も増えていて、とても心強く感じていますよ。
ーーー最後に、木村様にとって「おいしい」とは?
飲食店にとって「おいしい」は当たり前のことで、大事なのは「おいしい」の先にあるのだと思います。お客様にいかに楽しんでいただくかで、店の真価が問われるからです。当店はカウンターキッチンで自家製のパスタを伸ばしたり、お客様の目の前でソースをかけて一皿を仕上げるなど、ライブ感も大切にしています。スタッフとの何気ない会話が店での一番の思い出になるかもしれませんし、接客の面では私はまだまだ未熟ですが、お腹も心も満ち足りた状態で店を後にしていただけたら嬉しいです。これからも秋田の魅力を存分に詰め込んだ料理で、お客様をおもてなししていきます。
料理の修業のために東北から東京へ。新たな味の探求のためにイタリアンからフレンチへ。エピソードだけを拾うと型破りな印象も、己の夢を叶えるために一つ一つ着実にキャリアを積み重ねてきた木村和則氏。「人前で料理するのはまだ少し緊張する」とはにかむも、ひとたび腕を振るい始めると、緩急自在に目にも舌にも美しい料理が次々と生み出されていく。木村氏の妙技もご馳走の一つと言えるだろう。ワイングラスを片手に心ゆくまで堪能したい。
取材・文 / 中島玲子
秋田市大町に位置する「Kimura」は、地域の食材を独創的に活かす新感覚の隠れ家レストランです。洗練されたカウンター席はのみで、シェフが一品一品、食材の持ち味を最大限に引き出した料理を提供します。特に五味をテーマにしたアミューズは、見た目も味わいも秀逸で、食欲をかき立てます。シェフの情熱と技巧が詰まった料理が、新たな食の楽しみを約束します。