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創造力に溢れ、料理が大好きなシェフが表現する、お客様を笑顔にする本格イタリアン【Vena】
2024/12/14

創造力に溢れ、料理が大好きなシェフが表現する、お客様を笑顔にする本格イタリアン【Vena】

京都御苑のほど近く、静かな住宅街の中に佇む、一軒家イタリアン【Vena】。 旬の食材をふんだんに使いながら、素材のおいしさを存分に引き出した料理の数々を作り出すのは、早川 大樹氏。修業時代、師匠から学んだ「料理は人を喜ばせるもの」という考えは、料理人としての礎となり、一人でも多くのお客様においしい料理を届けるべく日々奔走している。豊かな感性で人々を魅了する料理を生み出す早川氏に、日頃どのように料理と向き合い、料理の道を歩んできたのか尋ねる。

師匠の教え「人を喜ばせるために料理を作る」が料理人としてのベース

ーーー料理人を志したきっかけを教えてください。

服が元々好きで服飾関係の仕事を考えていた時期もありましたが、お客様との距離が遠く感じたんですよね。一方、飲食店の"その場で作ってお客様に直接提供できる距離間の近さ"に魅力を感じ、飲食の仕事に興味を持ちました。10代の頃にカフェブームが起きていたこともあり、「自分のカフェを持ちたい」と思い、飲食店でアルバイトを始めたところ、料理にのめり込み、料理人としての道を進むことにしました。

高校生の頃までは自分にとって外食は店で食べたり買うものでしたが、自分でもそうした料理を作ることができるんだと気付き、楽しくて夢中になっていきましたね。そんな中、巨匠と言われる「LA BETTOLA da Ochiai」のシェフ落合 務氏の著書「ラ・ベットラのシークレットレシピ」を読んだことで、イタリア料理の楽しさを知るきっかけとなり、イタリア料理の道に進むことになります。

ーーーその後、どのように修業経験を積みましたか?

20歳の時に、知人からイタリアンの名店【イル・ギオットーネ】を紹介され、オープニングスタッフとして働き始めたのですがとても忙しかったですね。師匠の笹島 保弘氏からは料理のことだけではなく、礼儀や人としての在り方など大切なことをたくさん教わりました。当店を開業するまで、約13年間働きました。

笹島シェフは味付けに細かく口を出すタイプではないのですが、ある時、笹島シェフから「70歳のお年寄りが来ても20歳の若者が来ても、全く同じことをやっている。ちゃんと人を見て味付けや脂分を変えなければダメだ。」と言われた言葉が印象に残っています。当時の僕は作りたいものを好きなように作っていただけで、「人のために物を作ることが料理なんだ」と気付きましたね。笹島シェフは料理技術だけでなく料理を作るうえでのマインドをとても重視されていて、修行させていただけたことは本当にありがたかったです。笹島シェフから教えていただいたことは、僕の料理人としての土台になり、「人を喜ばせるために料理を作る」という精神が今でも僕の中でしっかりと根を張っています。

ーーーいつ頃から独立を考えられていましたか?

料理の道に進んだのは「自分のカフェを持ちたい」という想いから始まったので、修業を始めた頃から独立は考えていましたね。当初はトラットリアのような気軽な店も考えていましたが、本格的に料理にのめり込んでからは、「よりおいしい料理を提供するために、高品質な食材を揃えてやっていこう」と思い、サービスや設えも含めて自分の理想に合わせた価格帯の店を始めることにしました。

ソムリエの池本 洋司とは僕の師匠と池本の師匠が兄弟弟子だったことをきっかけに知り合い、互いの店を行き来するようになりました。店を始めるにあたって僕は料理に専念したいと思い、ワインに詳しくサービスもできる人を探していたので、池本とともに開業することにしました。

毎朝中央市場に行って魚を仕入れ、良質な食材にこだわる

ーーーお店の由来を教えてください。

僕の苗字と池本の名字にそれぞれ「水」が入っているため、水にまつわる名前が良いと思い調べたところ、「Vena」がラテン語で「水脈」という意味だと知り、京都は「水の都」であることから【Vena】と名付けました。屋号を僕たちに関連する名前にすることで、「お客様は僕たちの場所に来ていただいているのだ」ということを自覚し、自然と背筋が伸びます。実は後々調べたら「水脈」ではなくて、本当は「静脈」という意味だったのですが(笑)、調べた当時は水脈と出てきたので「水脈」だと思って使用しています。

ーーー本日の一品目の料理について教えてください。

「伝助穴子のズッパ・ディ・ペッシェ」です。「ズッパ・ディ・ペッシェ」はイタリア南部の郷土料理の一つで、様々な魚介類を一つの鍋で煮込む「ブイヤベース」のようなものなのですが、海老の皮や殻なども混ぜるため、レストランでは提供しづらい料理です。僕は魚介類を混ぜて煮込んでペースト状にして、ソースとして伝助穴子に添えようと考えて作った一品です。

穴子を焼くのに使用したのは紀州の備長炭です。炭で焼くことで余分な脂も落ちやすく、穴子の脂が落ちた時に煙が上がることで、炭の香りも穴子に付けることができます。炭は肉を焼く時にも使用しており、香り付けという意味合いが強いですね。また、通常穴子は骨切りをして下処理をしますが、当店では一度低温で火入れしてから骨を抜いて提供しており、お客様が召し上がっていただきやすいよう、ひと手間かけています。

ーーー食材の仕入れのこだわりは?

野菜は中央市場か契約農家、もしくは全国から良いものを仕入れている業者から買っています。お肉は全国各地の産地、またはヨーロッパから仕入れることが多いですね。

魚については、毎朝中央市場に僕自身が出向き、直接仕入れています。理由としては、魚を扱うプロが仕入れる市場には良質なものが揃っていること、また、市場の方たちが良い魚が入り誰に売ろうかと考えた時、僕の顔を思い浮かべていただきたいという想いから、毎日顔を出しています。先ほどの一皿目の伝助穴子は実は3キロもあり、規格外の珍しい大きさですが、業者の方が「僕になら」と売ってくださいました。

良質な食材を仕入れるため、日頃から信頼関係を構築することがとても大切だと思っています。料理人の知り合いには市場で知り合った和食や寿司屋の方も多く、市場で彼らの魚の買い方を見ていると、どれくらい食材に重きを置いているかがわかります。そのため、実際に彼らの店に食べに行き、どのように料理として形になっているのか勉強させてもらうこともありますね。

どんな方が来ても喜んでもらえるよう、常においしい料理について考える

ーーー料理のアイディアはどのように湧きますか?

市場で食材を見て湧くことが多いですね。ただ、僕は料理が本当に好きで、ずっと料理のことを考えているタイプなんです。正直なところ、何を見ても料理のアイディアに繋がります。例えばコンビニでも、お弁当コーナーを見て「おいしそうだな」と思ったことがヒントになります。定休日に予定がない時は店に来て料理したり、家族の料理は僕が作っていて、子どもの好きなものや妻の好みの味付けで作っています。

料理とは食べてもらってこそ成り立つものなので、独りよがりな料理にはならないようにと肝に銘じています。人のために料理を作るには、自分で何でもできるようにならなければなりません。引き出しが10個しかない人間は、100人の人を捌けないわけです。例えば100人の需要に応えようと思ったら、1000個ぐらいは引き出しがないとダメですね。実際にそれを僕ができているかどうかはお客様が判断されるところかもしれませんが、どんな方が来ても喜んでもらえるよう、常に料理のことを考えて試行錯誤しています。

ーーーイタリア料理をご自身の中でどのように捉えていますか?

イタリアンは基本的に素材ありきの料理です。例えば、フレンチのように様々な種類のソースを作り、食材にアレンジを加えるというよりは、食材本来の味を重視して、調理方法も焼くだけなどシンプルな料理が多いです。郷土料理から始まっているため、自分なりに解釈して具体的なレシピに落とし込みやすいですね。当店のおまかせコースは季節に合わせて変えており、年間で10コースほど作ります。目の前のコースを提供しながら、実際には1〜2つ先のコースまで考えていることが多いです。その食材を最もおいしい食べ方で提供したいと思っているので、「いかに旬の時期にその食材を使うか」ということが大切です。

僕は食材のおいしさを最大限引き出すメニューをいくつも考えて提供しており、様々な方が楽しめるような味に仕上げています。年配の方も多くいらっしゃるため、脂分を使う場合には料理のコクを出す程度にしか使わず、あまり脂分は多くならないよう意識しています。「イタリア料理は女性を喜ばせなければいけない」と言われたりしますが、華やかすぎずシンプルに、でも見た目でも食欲を刺激できるような料理を作ることを心掛けています。

ーーーレストランで料理を提供することについて、どのように考えていますか?

飲食店である以上、おいしいものを提供するためにとことん味を追求していますが、レストランは料理だけではないですよね。空間や料理、サービス、ワインなど全てがセットになっていて、「お客様の総合満足度を上げる」ということが大切だと思っています。

当店の1階のカウンター席は記念日やデートでも使えますし、2階のテーブル席の個室は接待や会食、お子様連れでも利用可能なので、家族のお祝いの場としても活躍しています。料理を食べることを主な目的とされる方だけではなく、ご利用いただく様々な方のTPOにできる限り合わせて料理を提供していきたいと思っています。

また、当店の家具は北欧のヴィンテージ家具を中心にソムリエの池本が揃えており、椅子は巨匠と言われるデザイナーのものもありますが、全て同じ種類では揃えていません。僕はむしろ全て揃えない方がかっこいいと思いますし、お客様でも「私は今日はあの椅子に座りたい」とおっしゃってくださる方もいて、その時々のシーンや気分で楽しんでいただけることも、一軒家レストランである当店の魅力だと思います。

「目に入るものは何でも自分で作りたい」手を動かすことが発想の源

ーーー料理をするうえでのこだわりを教えてください。

僕は「目に入るものは何でも自分で作りたい」と思うタイプなんです。味付けだけではなく、できれば食材そのものを作るところからやりたいと思っていて、例えば同じカルボナーラを提供するにしても自分たちで極力作るからこそ自分たちが提供する意味があるのだと思っています。そのため、豚肉を塩漬けして熟成させて一から作った自家製ベーコンを合わせたり、パスタは基本全て手打ち麺で、それぞれの太さや固さ、長さを料理に合わせて調整しています。売られている様々な種類の乾麺の中から選ぶよりも、自分で作る方がカスタマイズできるので断然良いんです。

オリーブオイルやパンなどプロに任せた方が良いとは思いますが、プロでなくても自分で作れるものは極力自分で作っていきたいですね。パンチェッタを作ったことはあるのですが、豚もも肉を用いた生ハムも自分で作りたいですし、そろそろマスタードソースも作ってみたいです。あと春巻きの皮はあまりイタリアンでは使えないのですが、揚げパスタみたいにしたら使えるかなと思いつき、その春巻きの皮も自分で作りたいと思っています。

ーーーご自分で一から料理を作る中で、新しいアイディアも浮かびそうですね。

料理人は魚を魚屋に捌いてもらった状態で仕入れる方も多いですが、僕は必ず水洗いから自分でやり魚を捌いていて、作業をしているうちに料理のアイディアが閃くこともあるんです。一品目にお出しした「伝助穴子のズッパ・ディ・ペッシェ」も、穴子を捌いている最中に、火入れしたら骨をスムーズに抜くことができるのではないかと思いつきました。ほかにも食材の使い方を考えているうちに、新しい料理が生まれることもあります。メインディッシュの一皿の仔羊に添えた酢橘風味の胡椒は、農家の方から大量に採れたすだちを譲っていただき、柚子胡椒を作る要領で作ったら肉料理に合うのではないかと思いつき、生まれました。

また、スタッフの賄いを作る時に浮かぶこともありますよ。実は、賄いは松茸ご飯やおでん・煮込みうどんなど、イタリアン以外のものがほとんどです。お客様には提供していませんが、味噌やキムチ・漬物・梅干しも趣味で作っています。調理場で様々な食材の仕込みをしたりイタリアン以外の料理を作ることで、常に料理のアイディアを増やしていっています。趣味と仕事の境目がないので、やりたいことがどんどん増えていってますね(笑)。

ーーーオリジナリティを保つために意識していることはありますか?

SNSも発達して、今は色々な料理を目にできる機会も増えましたよね。ですが、おいしそうな料理を見ると発想が引っ張られて、どこかで見たことのあるような料理になってしまいそうなので、SNSで積極的に料理のネタを探すことはしないですし、料理本なども極力見ないようにしています。若い頃は勉強のために多くのレストランに食べに行きましたが、経験と年数を経た今は、自分で考えることの方が大事だと思います。自分がそれまで目にしたものが意外なタイミングで引き出しとして新しい料理に繋がることもあるので、やはり自分で経験をすることが大切ですね。

また、各地の生産者さんに会いに行くシェフも結構いると思うのですが、僕はお世話になっている方に挨拶に伺うことはあるものの、積極的に産地には行かないようにしています。もちろん産地に行って得られることもあると思いますが、もし視察に行ったら産地寄りの考え方で料理を作ってしまいそうで、僕は基本的に調理場にいたいと思っています。自分はあくまで料理人であり、目の前にお客様がいる調理場で、その食材をどう生かして調理するのか、考えながら作りたいと思っています。

創意工夫しながら「食べていて楽しい」と思える空間を作っていきたい

ーーースタッフを育てるうえで意識していることはありますか?

一人一人の個性に合わせて、少しずつステップアップできるような声掛けをすることを意識しています。自分の基準だけで伝えてもまだ意味が分からないと思いますし、5歳の子には5歳の子なりの、中学生には中学生なりの理解力があるように、年齢や理解度に合わせていくようにしています。ある程度経験を積んできたと思ったら踏み込んだ内容を伝えたりして、料理人として成長してもらえたらと思っています。

また、本で知った内容をそのまま鵜呑みにしてはいけないよう伝えています。本や他の人から聞いて知識をただ得るのではなく、自分の経験を通して技術や知識を身につけてほしいですね。もののけ姫のアシタカのセリフで、「私は自分でここへ来た。自分の足でここを出ていく。」というセリフがあるのですが、まさにその通りで、何事も自分の行動に責任を持って選択してほしいと思っています。

例えば、スタッフにどうしてこの作業をしたのかという説明を求めた時に、「本にこういう風に書いてあったから」とか「誰かが言っていたから」という返答が返ってきたら、「それではいけないよ」と伝えます。ここは僕の店なので僕が考える料理を作ってもらいますが、僕の指示通りにただ動くのではなく、「自分だったらどうするのか」ということを常に考えてほしいですね。自分で感じて自分の意思を持って作業をすることで身につきますし、本人の成長に繋がると思っています。

ーーー今後の展望を教えてください。

食材の高騰により店の価格帯も合わせざるを得ない状況ではありますが、もっと幅広い層の人に料理を届けたいと思っています。「Piacere-お家で楽しむ京都イタリアン-」というレシピ本を以前出していますし、3〜4か月に一度のペースで料理教室もしており、料理を伝える仕事も好きですね。当店で提供している高単価の料理だけではなく、より身近に感じやすい料理も作ることで、様々な方の日常に寄り添うことができたら嬉しいですね。

ーーー最後に、早川様にとって「おいしい」とは何でしょうか?

僕にとって「おいしい」とは「楽しい」ですね。料理人として長く経験を積み、お客様からお金を頂戴している以上、おいしい料理を提供することは当たり前にできなければなりません。ただ、お客様を喜ばせる要素として、店の中で料理が占める割合は3〜6割程度なのではないかと思います。店に来て「おいしい」と思っていただくためには、喜んでもらうこと、楽しんでもらうことが一番で、店としてはむしろ料理よりもサービスの方が大事なのかもしれません。

師匠である笹島シェフからの「料理はお客様に喜んでいただくためのもの」という教えから、僕は料理が芸術であってはいけないと思っています。芸術作品のような料理が評価されることもありますが、あくまで目の前のお客様に召し上がっていただくものなので、作品のような料理を僕は作らないと決めています。僕が目指しているのは、お客様一人一人に寄り添えるような料理です。

おいしい料理を求めていらっしゃったら、もちろんその期待に応えられるよう全力で頑張りますし、食にあまり関心がない方でも喜んでいただけるようなラインも持っています。また、接待などオフィシャルな場面で使われる場合には邪魔にならないよう調整もしますし、常に食べ手の求めていることをしたいと思っています。自分が飲食店に食べに行く時も、おいしいのはもちろんですが、「食べていて楽しいな」とか「一緒に来ている人との時間を楽しめるな」と思えるところが好きです。だから「おいしい」とは「楽しい」ということなのかなと思いますね。

2階の個室には障子や掛け軸が飾られ、京の風情と北欧のヴィンテージ家具が美しく調和し、上質な空間が広がる。1000本以上備蓄しているというワインは1960年代などヴィンテージワインも幅広く取り揃え、ソムリエ・池本氏のセンスが光る。店名の由来ともなった「水脈」という言葉からは人との繋がりも連想させ、早川氏と池川氏のお客様に対する想いも重なる。ぜひ【Vena】で大切な人とかけがえのない時間を過ごしてほしい。

取材・文 / 佐田 優佳
撮影 / 中岡 あずさ

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