ーーーこれまでの経歴を教えてください。
調理師学校を卒業後、都内のフレンチレストラン数店を経て、銀座【タテルヨシノ(閉店)】、渋谷【deco】で修行を重ね、2016年【LATURE】を開業しました。独立にあたり“ 渋谷 ”という場所を選んだ理由は二つ。
一つ目は、6年間シェフを務めた【deco】が渋谷にあり、馴染みのお客様も足を運びやすい場所だったこと。二つ目は、最新のファッションや音楽などのカルチャーを生み出し世界へと発信する渋谷の街から、食に関しても何かできたら面白いんじゃないかと思ったからです。
日本はこれだけ狭い国土にも関わらず様々なジャンルのレストランがあって、世界各国の料理が食べられる、世界に類をみない場所です。カジュアルな店から敷居の高いレストランまで数多くの飲食店がひしめく東京でレストランをやっていくには、料理に個性があること、料理人としてそこでしか食べられない料理を作っていかないと生き残っていくことは難しいだろうと感じていました。
日本には四季に富んだ食材や昔から伝承されてきた地域の特色を活かした郷土料理があり、素晴らしい生産者がいます。こうした日本の豊かな食文化とフランス料理における技術を組み合わせたら新しいものができるんじゃないかと、これまで学んできたクラシカルなフランス料理をベースに自分のフィルターを通した日本らしさをプラスするにはどうすべきかをずっと考えてきて、一つの答えが「ジビエ」でした。修行先で学んだフランス料理の中でもジビエは特別な食材だということを学んだので、それをコンセプトにできないかと考えたんです。
僕は自分をジビエ屋さんだとは思っていなくて。【LATURE】のコース料理は全てにジビエを使っているわけではありません。季節によって変わりますが夏は全体の3分の1くらい、冬になるとジビエの種類も増えるので割合はもっと増えます。ジビエを食材の中に取り入れつつ、おいしいものを作っていくというコンセプトです。
ーーー室田様にとって、ジビエはどのような存在ですか?
新鮮な食材を求めて猟師さんや生産者さんの元へ通ううちに、食の闇の部分というか、普段は見て見ぬふりをしている部分が次第に見えてきたんですよね。
近年、猪や鹿などが畑の作物を食い荒らしたり、街に熊が出て人を襲ったなんていう報道を目にしますが、元々は僕たち人間が里山を適切に管理しなかったり自然環境を壊してしまったために暮らす場所を奪われた野生動物たちです。また、ハンターの高齢化もあって野生動物が増えすぎてしまっているという背景もあります。
こうした食の根源に関わる問題を多くの人に知ってもらい、行き場を失った野生動物の存在を一方的な悪者にして「害獣」として殺して捨ててしまうのではなく、ジビエとしてちゃんとおいしく食べてあげたいという想いです。狩猟免許を取得したのは14年前。料理人である前にハンターとしてこうした現状に向き合いながら料理に還元していきたいですね。
ーーー自身がハンターとして山に入り、それ以前と変わったことはありますか?
今まで以上に命の大切さを実感します。世の中が便利になって、肉も魚もスマホからワンタッチで頼める時代になりましたが、ジビエは獲物を狩るところからスタートするわけです。僕もハンターとして猟をする時に自分の手で命をいただくという重要な工程を踏んで、さらに撃ち落とした獲物はちゃんと血抜きをして冷やしてあげないと生臭さや渋味が出てしまい食材としておいしくいただくことはできません。
そうした食材への感謝や真摯に向き合う行為というのは、きっと自分の料理に響いてくるんじゃないかと思うんです。日本人は必ず食事の前に「いただきます」と言うじゃないですか。命をいただくこと、作っている方への感謝や「いただきます」に込められた日本人の精神的な部分を自分も忘れずにいたいですし、多くの人に日本人が育んできた自然への畏怖の念や食文化を感じていただけたら嬉しいですね。
当時は「サステナブル」という言葉も社会的にはなかったですが、「ジビエというものを未来に繋がるような料理にしたい」という想いです。
ーーーサステナブルという点で、他に取り組んでいることはありますか?
2020年から千葉県流山市で自社農園を始めました。現在はナス、パプリカ、万願寺唐辛子、香草、カラフルな大根など8種類を育てています。きっかけは猟に行った時に見かけた畑の脇に山積みに捨てられた大量の野菜でした。ちょっと傷がある・サイズが小さい・曲がっているなど、市場に出せる規格から外れているという理由だけで廃棄されてしまうことは珍しくないそうです。もったいないですよね。
フランス料理は野菜で出汁をとったり、ピューレにしたり刻んだりすることが多いので、言ってしまえば野菜の形の良し悪しよりもおいしければ使う、もう捨てるところがないというくらい野菜でもジビエでも食材を余すことなく使うのがフランス料理なんです。ジビエも骨はソースに、端の肉はミンチ、血液はアミューズなどになります。自社農園の運営はおいしい野菜を作りたいという理由はもちろんありますが、それ以上に食材を無駄なく使いたいという想いが強いかもしれません。
ーーーレストランを営む上で大切にしていることは何ですか?
やはり人ですね。人がいないとお店はやれません。次世代を担う若い子が育ち、飲食業界が魅力的なものでないと業界はもちろん食文化はどんどん衰退してしまうと思うんです。当店では若手を育成していくために食材探しに一緒に山へ行ったり、実体験を通して経験や知識を獲得できる場を設けています。
料理人は厨房で黙々と仕事をしていることが多いので、お客様においしいと思っていただけているか、どんな様子で召し上がっているかは感じ取りにくい。 それは料理人としてモチベーションが上がってこないと思いませんか? 「自分は誰のためにやってるんだろう」と。
僕はスタッフにもお客様のところに料理を持っていかせたり、なるべくオープンな感じにしています。料理に込めた自分の想いを伝えたり、お客様とのコミュニケーションは大切したいので、ある程度スタッフが自由にやれる場を提供します。
もちろん、与えるばかりでなく僕も彼らからたくさん吸収しますよ。教わるところもあるし、気付かされることもありますから。
とあるシェフがフランス料理はオーケストラだと言っていましたが、本当にその通りで。仕込みも多いですし基本的な料理の手数も多く、チームとして仕上げていく料理です。たとえ僕が若手よりも凄い技術や知識を持っていたとしても、僕が手掛けるのは料理全体のほんの一部ですから。個々の力を伸ばしながらもチーム力を上げていくことがポイントだろうと思います。
自分がそうであったように、料理人にとってお金以上に大事なことは、自分が持っているものを表現したり、働きやすさや勉強になる環境であるかというところだと思います。ここが働きたいと思ってもらえる場所でありたいですね。
―――人を育てるという点では、子どもたちを対象にした活動もなさっているそうですね。
2023年から地域の子どもたちを対象にした料理教室を始めました。僕たち料理人はおいしい料理を作るだけじゃなくて、時には厨房から飛び出していろいろなことを発信していくことも大事なことだと思います。
子どもたちと一緒に、料理を作る楽しさやサステナブルな食材としてジビエの紹介もしています。子どもたちが「料理って楽しい!」とか、ジビエを食べて「おいしい!」と思ってくれるだけでもいいんです。彼らがやがて大人になって昔食べたジビエを思い出してくれて、また食べてみようとなるかもしれませんよね。
これは僕の実体験ですが、子どもの頃に近所の公民館に中華の鉄人・陳健一さんが来てくれたんです。子ども向けの料理教室だったのですが、包丁捌きから鍋を扱う迫力、もう全てが衝撃でした。やっぱり憧れは大事じゃないですか。 今のプロジェクトが子どもたちの記憶と心に残せたら嬉しいですね。
次世代の子どもたちに今あるおいしいものを残せていけるかと考えると、残念ながら残せない食材や食文化があるかもしれません。ですが、先代がそれを僕たちの世代に繋いでくれたように、僕たちが次の世代にできる限り伝えていかなくてはいけないものがあると思います。
海外では影響力を持つ料理人たちが社会的な活動やメッセージを積極的に発信しています。それが料理人としての社会的地位の向上にも繋がっていきます。日本はそうした部分がまだまだ弱いと感じていますが、僕も日本の料理人の一人としてこれからも活動を続けていこうと思います。
ーーーこれから挑戦したいことはありますか?
今は海外のお客様にも発信していくことに興味があります。 近年、国内で「ジビエ」はある程度認知され、ジビエ好きな方も増えてきました。しかし、ジビエを取り巻く環境をみると、もっと消費を増やして循環型の社会を目指してもよいと思うんです。
日本の魚や和牛など良質な食材はどんどん海外に輸出され、海外の方も自国でそれらを食べることができますが、ジビエは検疫の問題などがあり、日本から出すことができません。ジビエは日本に来ないと食べられない食材なんです。これってすごく価値のあることだと思いませんか?
日本には狩猟文化があり、ジビエは伝統的な食材であること、日本でしか食べられない料理であることを国内外のお客様に知っていただけたら嬉しいですね。
ーーー最後に、室田様にとって「おいしい」とは?
その「おいしい」の先に何があるか、だと思います。僕が大事にしていることは「料理が持つストーリー」。ただ「おいしい」だけではダメだと思うんです。おいしいけれど何かが犠牲になっているとか何か問題が潜んでいるというのは、本当の「おいしい」ではないなと。
山や畑に足を運んで狩猟をしたり、生産者さんと話をすることで、その食材にはどんな背景やストーリーがあるのかを知ることができます。それが料理として表現していくためのアイディアにもなっています。
人それぞれ自分にとっての「おいしい」があって良いんです。こうしてフレンチをやっていますが、僕は卵かけご飯を「おいしい!」と思いますし、フォアグラを乗せたロッシーニ風牛フィレ肉もおいしい。「おいしい」は食べるシチュエーションによっても変わってきますし、決められたものがない。だからこそ、おいしいの先にその人が何を感じるか、料理人はどのようにストーリーをみせていけるか、が「おいしい」を創っていくのではないでしょうか。
「自然の雫」という意味が込められた【LATURE】。「料理は自分の人生」と語るチーム【LATURE】を率いる室田氏の言葉には揺るぎない意思と覚悟が宿っていた。一滴の雫が水面に創る波紋は、食の未来にどんな影響を与えていくのだろう。今後も目が離せない。
取材・文/柳屋 有里
撮影/中岡 あずさ
Wir bieten besondere Momente mit Gerichten, die die Gaben der Natur in allen vier Jahreszeiten nutzen, und mit herzlicher Gastfreundschaft. Die Zutaten, die von Produzenten aus dem ganzen Land angebaut werden, werden auf einem Teller vereint, um den Besuchern glückliche Stunden zu schenken. Es ist ein Ort, an dem man besondere Zeiten mit herzlichem Service verbringen kann.