ーーー料理人を志したきっかけは?
最初のきっかけは、家で母親がよく料理やお菓子作りをしていたことでしょうか。母が作ってくれるものがおいしくて、自然と料理に興味を持つようになったんだと思います。次第にお菓子作りを手伝ってみようかなと思ったんです。料理の道へ進みたいという気持ちは、中学、高校の頃からありました。
お菓子が好きだったので、お菓子を作るために調理師学校へ行こうと決めて、製菓や西洋料理、中華、和食まで一通り勉強できるところを選び、自分で願書を勝手に送っていました。
学校でいろいろと学ぶうちに、次第にイタリアンが好きになって、そこからが料理人としてのスタートでしたね。
ーーー修業時代のお話を聞かせてください。
卒業後、最初に働いたのはピザ屋でした。吉祥寺にあるピッツェリアで、料理人としてのベースとなる経験を積ませていただきました。タイミングにも恵まれ、本来なら数年かかることを、2〜3年くらいの間に一通り経験させていただいたと思います。
そのお店を辞めた後、次はどこで働こうかと探していた時に、【TACUBO】へ食事に行きました。「おいしい」という感覚がシンプルに伝わってきて、衝撃を受けたんです。すぐにその場で、「働ける場所を探して来ました」と田窪シェフ(【TACUBO】オーナー・田窪大祐氏)に伝えました。田窪さんに出会ったことが、一番大きく今の自分に影響を与えているように思います。
ーーー【TACUBO】時代のエピソードはありますか?
【TACUBO】の店舗は今では代官山にありますが、その頃は移転する前の恵比寿にあったんです。当時は同じビルの中にリストランテとトラットリアが2店舗あり、そのトラットリアで1年ほど経験を積ませていただきました。
最初はシンプルな形態のトラットリアだったのですが、途中で深夜営業を始めよう、名前を変えようなど、いろいろと次の展開を考えられていて、田窪さんは頭の回転が速い人だなと感じていました。
営業中も「これやって」と指示して、次はこれ、という感じで、判断や切り替えがとにかく速く、その頃は振り回されたなという感じもあります(笑)。
修業当時は大変だった部分もありましたが、今思えば、判断の速さだけでなく、それを実行に移す行動力もすごいなと思いますね。振り返ると、あの経験が今の自分の支えになっていると改めて感じます。
経営についてもそうです。自分の柔軟性というか、ハプニングや思いもよらない方向に物事が進んだ際の対応力は、そこで鍛えられましたし、物怖じもしなくなったと思います。最悪の状態を考えながらも、いつ何が起こっても大丈夫なように備え、最高のパフォーマンスができるようにしておく考え方が身に付きました。
料理も接客も、アクシデントはつきものですから。何かあった時にどう対処するか、柔軟に動けるか。そういう心構えはそこで鍛えられたのかなと思います。
ーーー他の修行先へはどういった経緯で?
恵比寿時代の【TACUBO】では勤めて2年弱くらいのタイミングで、トラットリアが一度閉まることになり、「リストランテに残るか」と言っていただいたんですが、私はいろんなことを経験したいタイプだったんです。
ちょうどその頃、同じ恵比寿にある豚を一頭、毎週仕込み、解体して、豚のすべてを余すことなく使い料理をするビストロが気になっていたんです。自分の興味に刺さるところって数は少ないと思いますし、ご縁やタイミングもありますから。私はもう、感覚的にビビッときたらすぐ動くタイプなので、新たな修行先へ移りました。
そこでも1年ほど勤め、「シェフになるか?」というお話もいただいていたのですが、トラットリア時代にお世話になった先輩シェフから「新しくお店をやるから手伝って」とお誘いがあったんです。オープニングからの立ち上げを一緒に経験できるなら、とビストロを退職し、代々木上原の新店オープンについていき、3年半ほどお世話になりました。
その後、最初に働いたピッツェリア時代の先輩から、「代官山でイタリアンや沖縄の食材を使うコンセプトの店をやるからそこでシェフをやって欲しい」とお誘いがあり、代々木上原から送り出していただいて、2年半ほど勤めました。
ーーーさまざまなお店を経て、再び田窪さんとのご縁が?
そうなんです。代官山のお店で働いている時に、田窪さんから【FORNO】の話をいただいたんです。【TACUBO】を離れてからもずっと気にかけてくださって、何かと連絡をいただいていました。
ーーー薪焼きという技法やテーマ決めなど、立ち上げ当初のお話があれば伺えますか。
鳥取の食材を東京に、そしてゆくゆくは世界に広めたいというコンセプトで、鳥取のいろいろなものを扱いながら、それぞれの会社を持つ役員の方々が集まって、みんなでお店を作ろう、とできたのが【FORNO】なんです。
最初は、鉄板焼きというイメージがありました。その頃ちょうど【いきなりステーキ】が流行っていたこともあり、打ち合わせを重ねる中で、薪を使って焼くステーキはどうかとなったんです。
社長が肉の卸などをしている会社を経営されていたので、薪を使って、ステーキをがっつり食べてもらうテーマでやろうと決まりました。
ーーー薪焼きならではの魅力や難しさ、他の加熱方法と比べて感じることはありますか?
よくお客様から尋ねられるのは、「炭との違いはなんですか?」ということですね。
一番分かりやすいのは、「薪」はもう木そのものなので、「炭」とは加工方法も、使った時の火の性質も、密度も違います。
炭の場合は、一度燃えれば一定の温度と火力を保ちやすく、時間も長く持ちます。
一方で、薪は乾燥の度合いによっても火の性質が大きく変わるところが、魅力であり難しさですね。
うちは特に「熾火(おきび)」という、薪が燃え終わる時にできる真っ赤な部分を熱源として使っています。それを熱源にしてステーキを焼いているので、熾火を作らないと、うちではステーキが焼けません。
その熾火の準備過程も、季節や湿度、木の状態によって変わってきます。
ステーキ以外にもお野菜やキノコなどありますが、そういうものも焼く場所や熱源を使い分けています。やっぱり日々、全く同じということはないんです。そこは面白いところでもありますが、見極めるのは大変ですね。
ーーー薪や火の見極めについてポイントはあるのでしょうか?
基本は広葉樹という、密度が高くて重い木を使います。うちは今、「楢(なら)」を使っています。
他には椚(クヌギ)、桜、樫(かし)、そのあたりの木が広葉樹と言われて、よく薪料理では使われています。密度が高く燃焼時間が長いので、火力も強く安定するんです。
杉などの針葉樹は、ピザ屋などで使われている印象です。中の密度は低くて軽い木なので、一瞬の火力は強いです。
以前は、薪窯を使ったお店はまだ少なかったのですが、ここ5〜6年くらいで、一気に増えたような感覚がありますね。ただ、お店によって薪の使い方も本当に違うので、それぞれの違いを楽しめるところも薪料理の魅力だと思っています。
窯の形や大きさも違えば、お肉を焼く場所も違ったり、窯ではなくオーブンで焼いているお店もあります。肉や野菜の火加減など、熱の伝わり方が変わってくるので、使う人や店によってアプローチが違っていて、そこが魅力ですね。
ーーー開業時のお話を伺えますか?
最初はもう、本当に首の皮一枚がギリギリつながっているような状態でした。オープン直後からドタバタで、まず人がいなかったんです。
オープン直前に1人いなくなってしまって。2人では無理だということで、急遽人を増やしてもらいました。認知ももちろんまったく無いなかでのスタートで、大変でしたね。
そして、すぐコロナ禍に入ったんですよ。その少し前に「東京カレンダー」の表紙をやらせていただいたんです。そこから認知度が上がり、ようやく波に乗ってきた矢先に休業要請になってしまい、一瞬で忘れられてしまいました。
もちろん飲食業界以外も大変だったと思うのですが、知り合いづてでつなぎながら、お店を何とか続けていました。本当にタイミングやご縁に恵まれていて、人に助けられているなと思います。
当初は深夜営業もしていましたが、なにしろ認知されていないので、1か月に1組、1週間に1組来るかな、来ないかなという状態でした。お店を始めたからにはすぐ辞めるわけにはいかないし、もちろんすぐに結果がついてこないことも分かっているのですが、やはり「何しようかな、どうしようかな」という悩みは尽きませんでしたね。
ーーー場所はどのように選ばれたのですか?
西麻布に開業したのは、店内で薪を使うための設備を整えられるかどうかが一番の理由でした。薪に対応できる物件として、この場所が出てきたんです。
ーーー食材へのこだわりがあれば教えてください。
会社として「鳥取のものを東京・世界へ向けて広げることに挑む」というテーマを掲げているので、お肉はもちろん、基本的に鳥取の和牛を使っています。
「鳥取和牛オレイン55」という牛をベースにしているのですが、オレイン55という名前の通り、オリーブオイルなどと同じように「オレイン酸含有率」の基準があり、主成分であるオレイン酸を55%以上含むという基準をクリアした牛肉です。
通常の油は、冷蔵庫に入れて冷えると固まりますよね。一方、オリーブオイルもそうですが、融点が低いので固まりにくく口どけがよくて、胃もたれや翌日に残りづらい。このさらっとした油を保有しているというのが、オレイン55のおいしさでありウリです。
松阪牛や神戸牛といった牛たちと元は同じルーツの牛なんです。また違ったアプローチの牛ではあるのですが。
その他の食材、野菜や魚介なども鳥取のものをベースにしていますが、必要なものは鳥取以外からも仕入れています。
ーーーメニューの設計など料理へのこだわりはありますか?
最初は、シンプルに肉をがっつり食べて、ワインなども一緒に楽しんで、1時間半くらいの滞在を見込んだイメージでした。
ところが、この辺りへ来る方は、時間に余裕を持って来られる方が多く、それなら前菜も増やしていこうかと。今では、前菜は冷菜・温菜それぞれ大体6品ずつ、〆の料理なども用意しています。メニューが多すぎても迷ってしまうので、今くらいがちょうど良いバランスなのかなと思っています。
昨今は予約が取れない店もすごく多いですし、他の方も言及されていることですが、半年後に予約が取れたとして、そのタイミングにその料理が食べたいのか、という状況はどうなんだろうと思うところはありますね。
それだけ予約が埋まっているというのは、お店としてはもちろん成功です。でも食べる側としては、「今から食べたい」という時に行ける店を作りたかったんです。
「今、肉が食べたい」と思った時に、うちを思い出してもらえるような、そんなお店にしたかった。ただ、肉だけだと寂しいので、肉を食べる前までに少し前菜をつまんだり飲みながらゆっくり楽しんで、「じゃあメインのお肉を食べようか」というイメージで来ていただけたら嬉しいです。
あとは、食べた瞬間に「おいしい」と思ってもらえる料理を作る。熱いものは熱いうちに、冷たいものはしっかり冷やして。ビールなどはキンキンに冷えているほうが絶対においしいと思うので、そういう最初のインパクトというのも大事だと思っています。
ーーーペアリングで意識されていることがあれば教えてください。
まず、季節や料理に合わせて考えています。
ペアリングは、「このワインを飲んだらおいしそうだな」と考えますが、他の人の意見もすごく重要だと思っています。なので「これ、どうですか?」と提案しながら、一緒に試食会をして、意見を出し合う工程は必ず行っています。
料理というのは、全部食べて初めて一皿だと思っていて。料理の中でも強弱をつけたり、味の変化をつけたりしているので、少量だけ試食して決めるのではなく、自分たちでもしっかり食べて飲んでから、「これはすごく合ったね」と、スタッフ同士で話しながら決めています。
ペアリングのご要望があればそれに合わせたものをご提案しますが、基本的にはお客様が飲みたいものを提供したいです。「これとこれはもう絶対合わない」というものがあれば、もしかしたらお伝えするかもしれないですけれど。お客様が飲みたいものを飲んで、食べたいものを食べる。それが一番だと考えています。
ーーーお店の空間作りやおもてなしについて、こだわりがあればお聞かせいただけますか?
ここも自分目線だけでなく、他の人の目線を大切にしています。いろいろな角度から見てこそ気付くことも多いので、改めてお客様目線で席に座ってみて、お店を見るようにしています。
基本は、温かみを感じる場所にしたくて、接客だけでなくスタッフ間でも楽しそうにしているのが一番ですね。食べる側からしても、しかめっ面の料理人を見るより、笑顔で楽しそうに作っているほうがいいですよね。そういう姿勢もすごく料理に影響すると思っているので、なるべく大切にしています。
「作っていて楽しそうだな」とか、「テキパキ動いて、連携ができていて、なんだか面白そう」と思ってもらえるようなお店作りをしたいです。「料理もおいしいし、なんだか居心地が良くて時間を忘れるくらいだったよ」とお客様に言われるのが、一番嬉しいことですね。
これだけ世の中にはおいしいお店がたくさんあるので、料理がおいしいことは大前提です。
空間づくりとしては、「居心地が良かった」「ここに来ると安心する」と感じられるお店にできるように心がけています。
ーーー今後の展望はありますか?
海外にも挑戦したいですね。海外からお越しのお客様も増えていて、食べた時の反応を見ていてすごく気持ちのいい方が多いんです。それを見ていると、海外展開もしたいなと思います。
もともと「鳥取の食材を世界へ」というコンセプトもありますし、会社も海外にお店を出しているので、無理なことではないのかなと感じています。
ただ、このお店も守っていきたいので、人材が育ってくる環境を作り、経営を安定させて、ゆっくり全体を見ながら、プロデュースする立場というか「ここは任せられるな」という状況になればいいなと思います。
今はまず、「肉が食べたい」「ステーキと言ったら【FORNO】」みたいに、名前が挙がるようにしたいですね。
ーーー最後に、峰尾様にとって「おいしい」とは?
料理人にしても、食べる人にしても、「テンション」が影響するのではないかと思っています。
出来立てで熱々の料理を食べた時に、「あっちい」と言いながら食べる。その口に入れた瞬間の、五感に訴えるような感覚。
食べながら「これはおいしいな」と考えるより前の、口に運んでいる途中から「おいしい」というか、視覚からすでにおいしさを感じている。それが一番だと考えています。
舌で味わう前から本能的に伝わってくるものだったり、予想外のところからアプローチがあったり。ふとした時に余韻に浸るような、記憶に残る食体験こそ「おいしい」だと思います。
目指すのは「今、肉が食べたい」と思った時に、自然と名前を思い出してもらえる店だという。その先には、鳥取の食材を世界へ届けるという思いと、海外への挑戦もある。
薪は、季節や湿度、木の状態によって火の表情を変える。その変化を日々見極めながら、火にも人にも真摯に向き合う峰尾氏がつくる一皿と時間は、これからも少しずつ進化を続けていくだろう。
取材・文/AutoReserve Magazine編集部
撮影/馬場 昇一
Ein Restaurant, in dem man Fleischgerichte genießen kann, die auf Zutaten aus Tottori basieren und über Glut von Feuerholz gegrillt werden. Neben Rindfleisch werden vor allem Gemüse und Meeresfrüchte aus Tottori verwendet. Die kraftvolle Hitze des Feuerholzes wird mit dem natürlichen Geschmack der Zutaten kombiniert, um Gerichte zu servieren, die den Reiz der Zutaten hervorheben.