ーーー料理人を志したきっかけを教えてください。
母親に料理を教えてもらったりしながら、幼少期から料理に慣れ親しんでいました。進路選びをする際、料理の道なら頑張れると思い、調理師免許を取得できる高校に進学しました。卒業後は、地元の鹿児島にある地産地消の割烹居酒屋で働きました。全く違うジャンルの料理をやりたいという想いが芽生えて、調べていたところ東京の野菜を使って地産地消を実践している当店を知りました。応募して中東シェフに採用いただき、当店で働き始めました。
東京は全国各地から食材が集まってくる場所ですが、想像していた以上に自然が豊かなことにも驚きました。「江戸東京野菜」と呼ばれる野菜を始め、野菜の種類も豊富です。鹿児島にいた時よりも自然と触れ合っていると思いますね。当店のシェフになるまでは、2〜3か月に一度くらいのペースで畑に行っていましたが、シェフになってからは週に1〜2回のペースで行っています。山や畑でキノコなどの食材を収穫したり、今年は畑の近くの秋川渓谷で鮎釣りを始めるなど、日々様々な食材と触れ合えることが楽しいです。
ーーー上京前にやっていた和食とイタリアンでどのような違いを感じますか?
食材本来の味を活かす料理という点では、和食とイタリアンは共通していると思います。ただ、和食は醤油・塩・砂糖などで味付けをするので、実はけっこうカロリーが高くなりがちです。一方、当店のイタリアンは、基本的にオリーブオイルと塩だけの味付けで、野菜をメインに提供していることもあり、とてもヘルシーだと思います。料理のシンプルさゆえに、味付けの難しさを感じることもありましたが、基本的な料理技術は和食とイタリアンで似ているところもあり、表現はしやすいですね。
ーーー中東シェフからはどのようなことを教わりましたか?
私が当店に来たのはコロナ禍真っ只中の2021年でした。20時までの時短営業でお客様も常連の方々が中心でしたが、むしろ時間をかけて中東シェフからじっくりと教わることができた期間でもありましたね。「料理は科学」といわれることがありますが、当店でも食材や調味料を組み合わせておいしさを最大限引き出すことを軸に据えているので、中東シェフからは「おいしさの引き出し方」を教わりましたね。例えば、油とアルコールには香りが移りやすいので、アルコールをベースにしたソースを作る際はにんにくやハーブなどを入れるタイミングを意識するなど、料理を作るうえでの重要なエッセンスを一から教えていただきました。
ーーー【草片cusavilla】のコンセプトを教えてください。
イタリアンは肉や魚を中心にした料理というイメージもあるかもしれませんが、当店は野菜を中心に地産地消で東京の食材を使うことを大切にしています。冬になると根菜類など様々な種類の野菜を使用していますし、野菜が少なくなりがちな春には雑草として抜かれてしまうような野菜も、当店では料理してサラダにして提供しています。自然のものすべてを召し上がっていただくようなイメージで料理を提供していますね。
中国の言葉でキノコや菌類を含めないと「野菜」という言葉になりますが、キノコや菌類を含めると「草片」という言葉になるのだそうです。店名の「草片」は、キノコや菌類を含める「草片」に由来しています。アルファベット表記の“cusavilla”は当て字ですが、“villa” には村や集う場所という意味も込められています。
当店では最初に、漆塗りのお箸の中からお客様に好きな色のものを選んでいただきます。東京の食材を使い、箸と日本の器で料理を召し上がっていただくので、お客様からはたまに「和食のお店ですか?」と聞かれることもありますが「イタリアンです」とお答えしています(笑)。当店を立ち上げた中東シェフは京都で生まれ育ち、日本料理の名店の料理人をお父様にもつことから、当店では随所に日本文化のエッセンスが散りばめられています。京都の作家さんにお願いをしてオリジナルの器も作っていただいており、和とイタリアンが融合した雰囲気を楽しんでいただけると思います。
ーーーどのような経緯でシェフに就任しましたか?
元々中東シェフは故郷の京都で店をつくりたいという想いを持っていらして、京都での店作りが開始した際、当店のシェフを任せたいとお話をいただきました。当初、自分がやっていけるか自信がありませんでしたが、中東シェフから「大丈夫!最初から自信がある方が怖いから(笑)」と背中を押していただき、せっかくの機会なので頑張りたいとお引き受けしたんです。シェフに就任後も、中東シェフの時代のお客様が変わらずにいらっしゃってくださり、応援してくださるので嬉しいですね。
ーーー料理を作るうえでどんなことに悩みますか?
今までの【草片】のスタイルも残しつつ、どのように自分らしさや自分の考えを取り入れながら、今まで以上にお客様に喜んでいただけるかという点は悩みますね。特に自分で新しい料理を生み出すことは大変ですが、やりがいと楽しさも感じます。
私は味のブレを出さずに決められたところに味を寄せるのが得意です。例えば、同じ料理を別の人が作ると味が変わってしまいがちですが、自分の持ち味を中東シェフも褒めて認めてくださったことがあり嬉しかったんです。だからこそ、これまでの味も守りながら料理を仕上げることができているのかもしれません。修業期間中はなかなか自信を持てずにいた時もありましたが、中東シェフは私のそんな性格をみて、できているところを評価してくださったおかげで、「これで大丈夫」と自信を持って取り組めるようになりましたね。
ーーー空間づくりで心がけていることはありますか?
オープンキッチンなので、お客様とお話もしながら楽しい空間づくりを意識しています。人見知りなので、実はあまりお話することが得意ではないのですが、料理を始めるとスイッチが入ってお話がスムーズにでき、様々な話題で盛り上がっています。常連のお客様の中に、お話するまで鹿児島に行かれたことがなかった方がいらっしゃるのですが、出身地の鹿児島の話をしていたら、今では年に2~3回訪れるほど鹿児島を好きになってくださった方もいらっしゃったり、先週には鹿児島出身のお客様がいらっしゃるなど故郷の話で盛り上がることもあります。
また、お客様に「女性のシェフなので気になって来ました」と仰っていただくこともあり、お話しできて楽しかったからとリピートしてくださる女性のお客様もいて、女性シェフになったことで女性のお客様はより親しみやすく話しやすくなったのかなと思う面はありますね。
ーーー食材へのこだわりを教えてください。
当店は自家農園を所有しており、私は週に1〜2回行って収穫しています。近隣の畑に詳しい方にも畑を見ていただいているのですが、「野菜を育てるうえで大切なのは、土を作ること」と教わりました。そこで、近くで山羊を飼育している農家さんから堆肥をいただき、最初に堆肥を土に混ぜて栄養を行き渡らせてから野菜を育て、芽が出てきた後も追肥しながら育てています。現場で野菜と触れ合い、詳しく知るようになってから、「よりおいしくしてあげよう」と心を込めて料理をするようになりましたね。
実際に畑で野菜と触れ合うことで生まれたメニューもありますし、インスピレーションも湧いてきます。自分たちで収穫する野菜以外にも近隣の農家さんや道の駅などで仕入れた野菜を使用していて、道の駅では納品されている農家さんの名前を見て、無農薬で栽培されている方のものを仕入れるようにしています。魚も旬のものにこだわっており、6〜9月は鮎を使いますが、実は東京の鮎は全国で準グランプリなど賞をもらえるほど評価されているんです。鮎の時期が終わったら、東京近郊の銚子の金目鯛と静岡の桜海老・太刀魚などを取り寄せて使っていますね。
ーーーお客様の反応はいかがですか?
スーパーなど身近な場所では、おいしい野菜がなかなか手に入りづらいようで、おいしい野菜を食べたくていらっしゃる方が多いですね。通年売られているような野菜が本来のおいしさを感じられなくなってきた背景には、育て方の違いがあると思います。通常、野菜を育てる際は一度育てた所から場所を変えなければいけませんが、通年育てるとなると同じ場所で育てることになり、必要な栄養が十分行き渡らなくなっているのだと思います。スーパーで売られているトマトは甘いだけのものもありますが、私たちの育てているトマトは酸味と甘みの両方が含まれているので、野菜本来のおいしさをしっかりと味わっていただけます。
郊外まで行くと地産地消のレストランはありますが、都心に住んでいる方で郊外まで足を運べないけどおいしい野菜を食べたい、というニーズに応えられているのかなと思います。農薬の味がするからスーパーの野菜は苦手という方も、当店の野菜は完全無農薬なので安全においしく召し上がっていただけます。以前、人参が苦手で食べられなかったというお客様もいらっしゃいましたが、「この人参なら食べられる」と召し上がってくださいましたね。
ーーー実践している野菜の地産地消について、詳しく教えてください。
全国各地からおいしい食材を仕入れて野菜に焦点を当てた東京のレストランは増えていると思いますが、野菜を育てるところから自分たちでやっていて、西麻布という都心で野菜の地産地消を実践して料理を提供しているレストランはあまりないと思うので、そこが当店の強みですね。
実はレストランというのは食の循環を実現しやすい場所だと思っています。家庭でコンポストを作っても、できた堆肥を持っていく畑が東京では少なく、循環型の生活はなかなか実行しづらいと思います。私たちは畑を持っていて野菜を育てるところから始められますし、収穫した食材を使った料理をお客様に提供し、どうしても出てしまった生ごみはオーブンで焼いて灰にして、堆肥と混ぜて畑に戻したりしています。ほかにも自分たちで育てたトマトを瓶に詰めてピクルスを作ったり、刈り取った唐辛子の種を次の年にも植えるなど、循環させて無駄を出さないということを徹底していますね。
ーーー料理のアイディアの源泉や、作るうえで工夫していることを教えてください。
基本的に畑で野菜と触れ合いながら、こんな風に作ってみようと思い浮かぶことが多いかもしれません。また、新しいメニューを考える時には、他のレストランに食べに行って刺激を受けたり、どうしたらもっと食材の味を引き出せるかなど、考えているメニューを中東シェフに相談したりすることもあります。
野菜は二十四節気に合わせて育つので、昔の人は暦に合わせて種を蒔いたり野菜を収穫していましたが、現代でも季節に合わせて野菜を育てて収穫し、その時々に合った料理をすることが大切だと思います。例えば、今週収穫した間引きした人参は、柔らかく葉の上の部分まで食べることができて、シンプルな味付けでも十分おいしく召し上がっていただけます。さらに二週間経つともう少し大きくなって葉も硬くなるため、蒸し焼きなどで食べやすい状態にして提供しますし、その先はメインの付け合わせにするなど、その時々の野菜状態を見ながら料理方法やメニューを変えています。当店は二週間に一度メニューを変えています。もしかすると早いペースに聞こえるかもしれませんが、逆にそれくらいのペースでメニューを変えないと、野菜の発育のペースに間に合わないこともあるんです。
冬の時期は根菜が多く、野菜自体も糖度を十分に含んでいて野菜を食べただけでお腹いっぱいになるので、少し酸味や辛みを足すなど変化をつけてコース料理を召し上がっていただけるよう工夫しています。例えば、最初に酸があるものを口にするとお腹が空きますし、後の方にはアクセントとして唐辛子をパウダー状にしたものをふりかけるなどしています。
また、素材の味や香りを活かしながらどう料理するかも意識しています。例えば、香りが強くても味が薄いと思ったらチーズなどの乳製品で旨みを添加してあげたり、味が濃い場合はそのままスープにしたり、香りがきついものは生ですりおろして泡状にしてソースにするなど工夫しています。二週間に一回来ていただくお客様も多くいらっしゃるため、皆様が来るたびに飽きずに楽しんでいただけるような料理を提供したいと思っています。
ーーー今後の展望を教えてください。
中東シェフは「ここでしかできないことをやって、オンリーワンのレストランを目指したい」と言っていましたが、まさに野菜を循環させて使用する地産地消のレストランとして唯一無二のスタイルを確立している店だと自負しています。都心で自然の恵みを味わえる店として、当店の存在をより多くの方に知っていただきたいですし、当店の料理を通じて東京の野菜がこんなにもおいしいことをもっと多くの方に知っていただけたら嬉しいですね。
また、女性として今後迎える可能性のあるライフイベントに合わせて、料理をずっと続けていけるような働き方も模索していきたいと思っています。同じ女性ということで、女性の料理人ともつながりやすく、他の料理人の方から話を聞いて刺激を受けることもあります。いつかは鹿児島でも食に関わることができたら嬉しいですね。
ーーー最後に帖地様にとって「おいしい」とは?
100人いたら100人全員が「おいしい」と言うことはないと思うので、なかなか定義が難しいのですが、視覚や嗅覚など含めた五感で楽しむことがレストランの「おいしい」だと思います。当店はオープンキッチンなので、味わう以外にも料理が出来上がる過程を目で楽しめるほか、お客様ご自身でハーブをちぎったりオリーブオイルをかけていただくなど、お客様も参加しながら料理を仕上げることで、食事全体を楽しんでいただけるようなワクワク感も提供しています。家でもおいしいものは食べられますが、普段味わえないものや、家では体験できないような楽しさを提供することで、お客様に「おいしい」と感じていただけるレストランであり続けたいと思っています。
西麻布の交差点そば【草片cusavilla】の白い看板を目印に、地下へ続く階段を降り、黒い扉を開けるとオープンキッチンのカウンター席を配したモダンな空間が広がる。ダウンライトの柔らかな灯りの中で女性シェフならではの優しい気配りが行き届いたもてなしが心地良い。自然と対話し食材の特徴を熟知した帖地氏の料理は、繊細な味付けで季節の移ろいを色鮮やかに表現し、独創性に溢れ自然に対する敬意が感じられる。都内でも数少ない循環型レストランの名店として、今後の更なる活躍に目が離せない。
取材・文 / 佐田 優佳
撮影 / 中岡 あずさ
Erba da Nakahigashi is a creative Italian restaurant in Nishiazabu that practices local production for local consumption. The chef personally gathers ingredients from the mountains and fields, expressing the breath of nature in each season on the plate. The dishes, which maximize the appeal of vegetables, are visually stunning and allow you to enjoy a deep flavor while spending a pleasant time.