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季節を握り、人を育てる【鮨 むらやま】村山大作氏が考えるおいしさの本質
2026/06/20

季節を握り、人を育てる【鮨 むらやま】村山大作氏が考えるおいしさの本質

和食の料理人としてキャリアをスタートし、アメリカ・ワシントンD.C.で公邸料理人を務めた後、鮨職人の道へ。季節を映す献立づくり、あえて仕切りを設けない空間へのこだわり、お客様との距離感、そして若手育成への想い。料理だけではない「おいしさ」の本質を追求し続ける村山氏に、これまでの歩みと今後の展望について伺いました。

料理の手伝いがいつしか楽しみに変わった

ーーー料理人を志したきっかけは?

母の影響が大きいと思います。男兄弟で育ったのですが、小学3年生くらいの頃から母に台所へ呼ばれて、よく料理の手伝いをしていました。当時は「手伝わされている」という感覚でしたが(笑)、何かを作るたびに「おいしいね」「上手だね」とたくさん褒めてくれたんです。そのおかげで料理をすることがどんどん楽しくなり、気がつけば自然とキッチンに立つ時間が増えていました。

その後、中学2年生の頃に将来について真剣に考えました。「自分が本当にやりたいことは何だろう」と向き合った結果、料理の世界で生きていきたいという気持ちが固まり、調理科のある高校へ進学して、本格的に料理人への道を歩み始めました。

公邸料理人として、海外における鮨文化の強さを知る

ーーー修業時代のお話を聞かせてください。

最初に飛び込んだのは鮨ではなく和食の世界でした。32歳まで和食を学んでいたのですが、その中でご縁があって公邸料理人としてアメリカへ渡り、ワシントンD.C.で約4年間、さまざまなお客様をお迎えする経験をしました。

お食事をご用意する際には、召し上がれないものやご希望を事前に伺うのですが、鮨の圧倒的な人気に驚きました。体感では9割ほどの海外からのお客様が「鮨を食べたい」と希望されるんです。

和食には、おせち料理のように文化的な背景や意味合いを説明して初めて魅力が伝わる料理も少なくありません。田作りや栗きんとんなども、その由来をお話ししながら提供していました。ただ、海外の方にとってはどうしても馴染みが薄く、魅力を伝える難しさを感じることも少なくありませんでした。

その一方で、鮨は日本の食文化としても十分に浸透していて、当時すでに多くの方が鮨文化に親しみ、その価値を理解していたんです。その光景を目の当たりにするなかで、「日本に戻ったら本格的に鮨を学んでみたい」と思うようになりました。和食のなかで少し鮨に触れた経験はありましたが、鮨職人としての修業は未経験だったので、最初は2年ほど勉強してみようという軽い気持ちでした。

ーーー銀座の名店での鮨修業を通じ、技術や考え方など影響を受けた部分はありますか?

銀座の鮨店で修業を始めてまず驚いたのは、和食と鮨では魚の扱い方に対する考え方がまったく違うことでした。

和食では焼き物や揚げ物にする際、塩を当てて余分な水分を抜くことがありますが、鮨の世界では刺身に塩を当てたり、酢締めや昆布締めを施したりと、魚の状態を見極めながら味を引き出すためのさまざまな技術があります。

当時の僕の感覚では、刺身に塩を当てるという発想はほとんどなく、むしろ和食としてはタブーな認識でした。しかし実際には魚の旨味や個性が見事に引き出され、驚くほどおいしかったんです。大きなカルチャーショックを受けましたね。それまで当たり前だと思っていた知識や経験が覆され、自分のなかの常識が大きく変わった瞬間でした。

当初は2年ほど鮨を学んだら再び和食の世界へ戻ろうと考えていましたが、ありがたいことにお店の個室カウンターを任せていただけることになったんです。1日1組限定で4席だけの小さな個室。お客様との距離が非常に近く、料理だけでなく会話を通じて時間そのものを楽しんでいただける空間でした。自然とお客様との関係も深まりやすく、常連として通ってくださる方も増えていきました。

お客様と向き合い、その反応を間近で感じながら仕事をする。その楽しさは僕にとって非常に新鮮で、自分の性にも合っていたのだと思います。いつの間にか7年間、そのお店でお世話になっていました(笑)。

ーーー独立に至ったきっかけは何でしたか?

自分の中では強く独立を目指していたわけではありませんでした。ただ、最初に修業に入った和食店の親方から、「40歳くらいを目途に独立できるよう、しっかり経験を積みなさい」と言われていた言葉がずっと心の中にありました。

そして実際に40歳を迎える頃、自分はまだ学びたいことはあるだろうか、心残りはなんだろうと考えてみると、ここからさらに何かを学びたい気持ちよりも、それまで積み重ねてきた経験や技術を、自分なりの形で表現したいという気持ちの方が強くなっていたんです。

もちろん独立には資金や物件探しなど、さまざまな課題がありますが、多くの方に支えていただき、ご縁にも恵まれながら、一つひとつ環境が整っていくような感じがあったんです。自分の意思だけで進んだというよりも、周囲に背中を押していただきながら独立へ導かれたという感覚でした。

季節の移ろいを献立に映す

ーーー料理について大切にされていることはありますか?

やはり季節感は重視していますね。

献立を組み立てる際には、季節の訪れを感じる「走り」の食材、今が旬の「盛り」の食材、そして余韻を楽しむ「名残」の食材を、できるだけコースの中に織り交ぜるようにしています。同じ春や秋でも、その時期によって食材は少しずつ変化していきます。その移ろいを楽しんでいただけるのも、和食の魅力の一つだと思うんです。

【鮨 むらやま】では毎月1日にメニューを一新しています。毎月来てくださるお客様もいらっしゃいますし、年間を通してお越しいただく方も多いので、前回とは違うものを楽しんでいただきたいという思いがあります。

それに季節が変われば食材も変わるので、自然と献立も変わっていくんですよね。その時期に一番良いものを使いながら料理を組み立てていく。それが僕にとっても楽しみですし、お客様に季節を感じていただける時間になれば嬉しいです。

ーーー鮨以外に酒肴も魅力的ですが、こだわりがあれば教えてください。

つまみを考えるうえで意識しているのは、「やりすぎないこと」です。つまみに力を入れすぎてしまうと、「それなら和食店に行けばいい」という話になってしまいますから、あくまで鮨店という軸は常に意識しています。

もちろん季節感は大切にしていますし、和食で培った経験を活かしたつまみも取り入れています。実際、お客様から「つまみだけでも十分満足できそう」とお言葉をいただくこともあります。

独立前は、このバランスについてかなり悩みました。旬の食材をしっかり使いたいという思いはありましたが、「本格的なつまみも楽しめる鮨店」にするのか、それとも「和食を中心に据えながら鮨も提供する店」なのか、どちらに重きを置くか迷いがあったんです。

ただ、鮨店で7年間経験を積むうちに、多くのお客様に鮨職人として認識していただいていることを改めて実感しました。それならば、鮨店としてやろうと迷いなく決められたんです。

【鮨 むらやま】では鮨を主役に据えながら、和食と鮨の両方を経験してきた自分だからこそ表現できるつまみを添えていきたいと考えています。

ーーー鮨と酒肴を楽しんでいただくうえで、お客様に感じてほしいこと、伝えたいことはありますか?

やはり一番感じていただきたいのは、季節ですね。旬の食材を使うことはもちろん、その食材が持つ香りや見た目、そしてその時期ならではの味わいを大切にしています。

料理を通して、「もう春ですね」「夏が近づいてきましたね」と季節の移ろいを感じていただけると嬉しいですね。

食材そのものを味わうだけでなく、コースを通して季節の流れや空気感まで感じていただけたらと思っています。その時期にしか出会えない旬の魅力を存分に味わってほしいです。

プロとして安定したクオリティを保つため

ーーー食材選びで大切にされていることは?

やはり「旬」であることですね。その時期に状態の良いものを選ぶというのは外せない条件ですし、それと同時に、安定して仕入れられることもすごく大切だと考えています。

月ごとにテーマを決めて献立を組み立てていますので、できればその一か月を通して同じ食材を使い続けたいんです。もちろん入荷状況によって変更することもありますが、僕たち自身も日々料理を作るなかで調整を重ね、少しずつ完成度を高めていきます。だからこそ、あまり頻繁に食材を入れ替えたくないという思いがあります。

例えば、生産者の方から直接仕入れる食材は魅力的なものも多いのですが、「今日はあるけれど明日はない」「次はいつ入るかわからない」といったケースも少なくありません。そうした不安定さは、コース全体の構成を考えながら料理を作るうえでリスクが大きいです。

そのため、特定の産地や生産者の方だけに頼りすぎるのではなく、常に良い状態の食材を安定して確保できるような仕入れを意識しています。

ーーー予定していた献立も食材供給がなければ厳しいですよね。

そうなんです。開店当初は、産地から直接仕入れも行っていましたが、予定していた食材が突然入らなくなることもあり、そうすると日によって提供する料理の完成度に差が出てしまうんですよね。僕たちは毎日営業していますから、その日は365日のなかの1日に過ぎないかもしれません。でも、お客様にとっては半年前から楽しみにしていただいていた1日かもしれないんです。

実際に、数か月も前から予約をしてくださる方もいますし、大阪や北海道、沖縄など遠方から足を運んでくださる常連のお客様もいらっしゃいます。飛行機や新幹線を手配し、スケジュールを調整して、その日を楽しみに来てくださるわけです。

それに対して、「今日は魚の状態が良くなかったので」というこちら側の事情は関係ありません。どんな状況でも一定以上のクオリティを維持し、常に自信を持ってお出しできる状態を整えること。それがお客様への責任だと思っています。

おいしいものをおいしく食べていただくため

ーーー空間づくりや、お客様をお迎えするうえで意識されていることはありますか?

空間づくりで大切にしているのは、お客様にリラックスして過ごしていただくことです。

銀座の鮨店というと、どうしても敷居が高いイメージを持たれる方も多いと思います。でも、せっかく楽しみに来てくださっているのですから、肩肘張らずに食事を楽しんでいただきたいんです。

僕自身も無理に格好をつけたり、堅い雰囲気にはせず、できるだけ自然体でお客様をお迎えすることを心掛けています。自分自身が楽しみながら、お客様にも楽しんでいただける空間でありたいですね。

設計部分のお話をすると、「出来立てをすぐにお出しすること」にもこだわりました。ガス台や炭場、シャリを炊く釜まで、料理に必要な設備はすべてカウンターの中に集約していて、調理から提供までをお客様の目の前で完結できるようにしています。次の一品の準備なども自然と見えるため、料理が出来上がる過程そのものも楽しんでいただけると思います。

また、店内には手元を隠すような仕切りをほとんど設けていません。お客様にどこを見られても恥ずかしくない仕事をしなければならない緊張感はありますが、それが自分のこだわりでもありました。

ーーー若いお弟子さんがたくさんいらっしゃいますが、将来的な独立支援などはされているんでしょうか。

独立を目指す若い料理人たちが集まる場所でありたいと思っています。修業に来るスタッフの多くは、いずれ自分の店を持ちたいという目標を持っています。なので、技術だけでなく、お店の運営に関することも含め、できる限り隠さず伝えたいと考えています。

実際に、同ビルの5階には若手が中心となって営業する【鮨 らい落】というお店を設けています。独立してから初めて経験することはたくさんありますが、その時になってすべてを一から学ぶのはリスクが大きいので、僕が責任を取れる環境の中で、できるだけ多くの経験を積んでほしい。そして、独立後もお付き合いの続くお客様と出会い、関係性を築いてくれたらいいなと思っています。

鮨を握る技術そのものは、練習を重ねれば身につきます。しかし、実際にお客様の前に立ち、鮨を握ることはまったく別の経験です。最終的に料理人を育ててくださるのはお客様だと思うんです。目の前で握った鮨を召し上がっていただき、その反応や言葉を受けて成長していく。その積み重ねが何より大切だと考えています。

最近では「鮨職人に長い修業は必要なのか」という議論もありますが、僕は目指す場所によると思っています。鮨を握る技術だけでお店は成り立ちません。食材の扱い方、お客様との向き合い方、空間づくりや店の運営まで含めて、身につけなければならないことは数多くあります。

知識として理解することはできても、それが自然に身につくまでには時間がかかるものです。その裏付けがあってこそ、お客様は足を運んでくださいます。だからこそ、若いうちにできるだけ多くの経験を積み、自信を持って独立できる状態になってほしいと思っています。

【鮨 らい落】相澤大将にお話を伺いました

ーーー相澤様にとって【鮨 むらやま】とはどんな場所ですか?

やる気さえあればいくらでも挑戦の機会を与えてもらえる場所です。

私はここが3軒目の修業先ですが、これまでの経験と比べても特に印象的なのが、村山大将と従業員との距離の近さです。もちろん弟子として守るべき一線はありますが、それ以外の部分では非常に風通しが良く、働く環境として恵まれていると感じています。

それぞれの段階に応じた課題や目標に向き合うなかで、どう努力すべきか、どのように取り組めば成長につながるのか、寄り添いながら向き合ってくださいます。営業後に残って話を聞いていただくこともあり、そうした時間を通じて、一人ひとりに真剣に向き合ってくださっていることを実感します。

積極的に学ぼうとする人には自然と多くのチャンスが巡ってきますから、与えられた仕事をこなすだけではなく、自ら手を挙げて挑戦したいという気持ちがあれば、その背中をしっかり押してくれる。そんな成長意欲に応えてくれる貴重な場所だと思いますね。

ーーー【鮨 むらやま】での修業のきっかけを伺えますか?

村山大将とは、最初に修業に入った店で出会いました。当時、私は小僧として働いていたのですが、村山大将は二番手として店を切り盛りする中心的な存在でした。

修業時代から長くご一緒させていただいていたこともあり、その仕事ぶりやお客様との向き合い方を間近で見てきました。そうした積み重ねの中で自然と信頼関係が生まれ、現在こうして村山大将のもとで働かせていただいています。

ーーー【鮨 らい落】のアピールポイントはありますか?

本店の【鮨 むらやま】と比べると、【鮨 らい落】はもう少し気軽に楽しんでいただけるお店だと思っています。【鮨 むらやま】は長年通ってくださる常連のお客様が多く、来店されたその場で半年先まで予約を入れていかれることも珍しくありません。

【鮨 らい落】は、まだまだこれから多くのお客様に知っていただく段階です。私自身、本店とは違う魅力をつくり、差別化を図りたいという想いがあり、開始時間を固定せずに、初めてのお客様でも利用しやすい形を意識しています。

コース内容も、鮨を中心に楽しんでいただくものから、おつまみと鮨を組み合わせたものまでご用意していますので、その日の気分に合わせて選んでいただけます。

本店に憧れはあるけれど少し敷居が高いと感じる方にも、まずは気軽に足を運んでいただき、【鮨 らい落】ならではの空気感や色を感じていただけたら嬉しいです。

ーーーお客様に伝えたいことや大切にされていることはありますか?

鮨そのものをメインとして構成を考えているので、できるだけ多くの種類の鮨ネタを取り入れながら、お客様に新しい発見をお届けしたいと考えています。「こんなネタも握るんですね」「初めて食べました」といった驚きや喜びにつながれば、とても嬉しいですね。

また、お客様だけでなく、スタッフにとっても学びの機会になります。ネタごとに異なる仕込みや仕事があって、経験を積むことで成長につながっていくと思います。そうした環境づくりも大切にしています。

決まった形にとらわれずに、新しい食材や仕事にも積極的に挑戦しながら、お客様にもスタッフにも新鮮な発見がある店であり続けたいと思っています。

ーーー今後の展望はありますか?

まずは多くのお客様に知っていただき、足を運んでいただける店にしていきたいですね。

お客様が「おいしかった」と感じて、また来たいと思っていただき、それを積み重ねて少しずつ常連のお客様が増えていくことが今の一番の目標です。

店舗展開などについては村山大将のお考えもあると思いますが、私自身はまず、任せていただいている「鮨 らい落」をしっかりと繁盛店にすることに集中しています。

若手につなぐ、職人としての使命

ーーー村山様、今後の展望があれば聞かせてください。

若手の育成が自分にとっても大きな課題だと思っています。

今の自分があるのは、多くの先輩方に支えていただき、惜しみなく技術や経験を伝えていただいたからです。その恩を次の世代へつないでいくことが、自分の役目ではないかと感じています。

技術を教えるだけではなく、仕事への向き合い方や職人としての考え方も含めて伝えていきたいですね。文化の継承というと言葉が大きいかもしれませんが、若い世代がこの仕事に希望を持てる環境をつくることも大切だと思っています。

あとは、もうすぐ50歳になりますが、55歳くらいまでは精力的に現場に立ち続けていたいと考えています。

ーーー最後に、村山様にとって「おいしい」とは?

一言で表すのは難しいですが、トータルの「バランス」だと思います。

どんなにおいしいものも、空間の居心地が悪いと台無しになることもありますし、味の好みも十人十色ですから、すべての人に共通しておいしいと感じていただくのは難しい。そうしたなかでも、バランス感覚を持って場をつくることが大事なのかなと感じます。

どれだけ素晴らしい料理でも、お店の空気が張り詰めていたりすると、食事を心から楽しむことは難しいですよね。もちろん料理そのものがおいしいことは大前提ですが、お店の雰囲気や接客、その場で過ごす時間も含めて、初めて本当のおいしさにつながるのではないかと思います。

だからこそ、お客様に「おいしかった」と感じていただくだけでなく、「また来たい」と思っていただけるような店でありたいですね。

季節の移ろいを表現する料理と、お客様が心地よく過ごせる空間づくりを追求する村山氏。その根底にあるのは、「おいしさとは料理だけでなく、空間や人も含めた総合的な体験である」という考え。旬の食材が織りなす季節感、目の前で仕上げられる料理の臨場感、自然体でお客様を迎える空気感ーーそして、長年培われた技術と経験に裏打ちされた確かな仕事。そのバランスが調和した先にある“おいしさ”を、ぜひ【鮨 むらやま】で体感してみてはいかがだろう。


取材・文/AutoReserve Magazine編集部

撮影/馬場 昇一

店舗情報

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