ーーーご出身は群馬県だそうですが、なぜ関西の京都にお店を?
東京での修業時代に、お客様から「料理人は祇園の八坂神社にお参りに行くもんだ」と教わり、初めて京都を訪れたのですが、一瞬にして風情溢れる町の雰囲気が好きになりました。その後何度も足を運ぶうちに、京都で店をやりたいと思うようになったんです。
ーーー子どもの頃から料理人になると決めていたのですか?
実家が魚屋をやっていたので、あまり迷うことなく「食」の世界に進んだ感じです。と言っても店に顔を出すのは近所のおばちゃんからお年玉をもらう時ぐらいで、魚屋の手伝いはほとんどしていませんでしたね(笑)。高校の調理科で調理師免許を取り、卒業後はすぐに鮨屋で働き始めました。
ーーー修業時代のお話をうかがえますか?
自分で店を持つまでは東京の鮨屋で2軒修行をしました。やんちゃな性格が災いして、ずっと叱られっぱなしでしたが(笑)。それでも2軒目の修行先では親方のすぐ下の2番手を任されるまでになり、一日中鮨を握らせてもらいました。おかげで鮨職人としての腕はこの頃にかなり磨かれたと思います。当時はまだ「何もかも見て覚えろ!」という時代だったので、常に親方の仕事を隣でチラチラとのぞき見しながら「自分だったらこうするな」などと頭も働かせながら仕事を覚えていきました。
ーーー修行は何年ぐらい続けられたのですか?
リーマンショックや東日本大震災の影響でなかなか独立のタイミングが掴めず、16年間の修行を経てようやく新宿に自分の店を開くことができました。その頃も京都への憧れは消えておらず、休みの日などに日帰りで足を伸ばしては美しい街並みを散策し、歴史ある京文化に浸っていました。新宿の店は6席の小さな造りだったので、3〜4年するともっと広い場所で鮨を握りたくなり「いっそのこと京都で店をやるか!」と関西への移住を決めるに至ったのです。
鮨職人として関東を目指す関西人はいても、私のように江戸で学んだ鮨職人が京都で店を構えるのはかなり希なケースだったと思います。物件探しに約1年をかけて、八坂神社のそばという縁のある場所に【祇園 鮨 忠保】を開くことができました。とはいえ、関西には誰ひとり知り合いがいなかったので、開店当初はお客様が来てくださるのをただ待つばかりの状態でした。祇園町は「一見さんお断り」の店も少なくないので、皆さん恐る恐る暖簾をくぐられていましたよ。次第にSNSなどの口コミのおかげで当店を広く知られるようになり、今日も昼の時間だけで200貫程の鮨を握りました。
ーーー東京と京都の鮨に違いはありますか?
関西は日本料理の文化が根付いていることもあり、料亭などで修行をしてから鮨屋を始める職人さんもいるようです。そのせいか、私のように鮨の世界しか知らない人間とは使う鮨種に少し違いがあるように感じます。私は京都で店をやるにしてもそれまでに培ってきた「自分の味」を変えるつもりはなかったので、魚介類は全て東京の豊洲から取り寄せています。
ーーー「自分の味」について、もう少し詳しく教えていただけますか?
一つ一つの技術は人を真似するところから入ったとしても、ずっとそのまま同じことを続けていてはお客様に喜ばれる鮨は絶対に握れません。例えば、シャリひとつとっても、親方の指示通りに仕込みをしながらも「こんな味を試してみたいな」と思いついたことは忘れずメモにとっていました。私自身も食べることが好きなので、他店の味も参考にしながら自分の味を追求していきました。
自分の味を追い求めていると、例え同じネタ/シャリでも職人によって握る鮨に違いが生まれます。これが鮨の面白いところですね。修業先でも「親方が握る鮨と二番手が握る鮨では味が違う」と言われる常連のお客様がいらっしゃいましたが、おっしゃる通りなんです。シャリの柔らかさやネタの締め具合・握り方も自分なりに研究しながら修行を重ねていきました。
ーーー【祇園 鮨 忠保】の鮨の特徴は?
魚は赤身/白身に関係なく仕入れをして2日以上寝かせてから使います。捌いてすぐにお客様に提供するのは貝類と一部の光りものだけです。魚は寝かせることで旨味が増すことはもちろん、ツルンとハリのあった身が徐々に柔らかくなります。この柔らかいネタがシャリに合うんです。ネタが口の中でとろけてシャリと一体化する、これこそが握り鮨の醍醐味ですし職人の腕の見せ所でもあります。
ーーーネタで鮨の味が決まる、ということでしょうか?
鮨の味を決めるのは「シャリが8割/ネタが2割」。鮨の主役はあくまでもシャリです。職人によって考え方は色々でしょうが、鮨とはシャリを楽しむ料理だと私は思っています。鮨がおいしいと言っていただくよりも、シャリが好みとか、「ごはんがおいしいです」と褒めていただいたほうが断然嬉しいですね。
ネタは旬の素材を吟味して丁寧に仕込みをやりさえすれば、どなたにでも満足いただける味に仕上げる自信があります。しかし、シャリの場合は、塩が効いていたり、甘味が強かったり、酸味が強かったりと「職人の好み」によるところが大きいので「自分の味」がダイレクトにお客様に伝わります。鮨はシャリが命ですね。「シャリが好み」などと言っていただくと、自分の味がお客様の口に合ったことに胸をなで下ろします。
ーーーおいしい“シャリ”にネタを合わせて一体化させる、ということですね。
例えば、出前の寿司桶には全て同じ大きさの握り鮨がきれいに並んでいますよね。私が握る鮨は違います。一貫毎にネタの大きさとシャリの量を変えているんです。これはネタとシャリの一体感を生み出すための私なりのこだわりです。そして鮪に使うシャリだけは赤酢を2種類使ってコクを出しています。仮にこの鮪のシャリで鯛などの白身魚に握ると、シャリの個性ばかりが前に出てしまい、白身魚の味わいが薄れてしまいます。なので鮪以外のネタのシャリには赤酢を1種類しか使いません。握り方もネタに合わせてシャリの柔らかさを変えています。貝のような身の固いネタの場合はシャリも少し固めに握りバランスを取ります。
ーーー使用しているお米にもこだわりが?
修業先でも使っていた秋田県産の米を当店でもずっと使い続けています。農家さんの田んぼに見学に行ったことがあり、やはり思い入れがありますね。実は京都に来てすぐの頃、東京の頃と同じように羽釜で米を炊いたところ、ごはんがベチャついて使いものにならないという問題が発生しました。関西に移るまでは知らなかったのですが、京都の水は東京の水よりも柔らかい軟水なので、炊き上がりが全く違ってくるんです。水の量や火加減を何度も調整し、思い通りの炊き上がりに辿り着くまで、かなりの時間を要しました。車で往復1時間半かけて郊外に井戸水を汲みに通った時期もありましたよ。京都で店を始めて苦労らしい苦労はこれくらいでしょうか(笑)。今では良い思い出です。
ーーー最後に、森田様にとって「おいしい」とは
「おいしい」は人それぞれです。人によって味覚に違いがあるので、自分は「おいしい」と感じても、他の人は「?」となることがありますよね。そして先入観というのも大きいと思います。「これおいしいから食べて」と言って勧められたら、何となくおいしく感じるものです。「おいしい」という言葉はどんな料理にも用いられるので、鮨を食べても「おいしい」だし、ラーメンを食べても「おいしい」。日本にはまずい食べ物のほうが少なく「おいしい」があちこちに飛び交っています。私は「おいしい」というよりも「気持ち良い」という感覚を大切にしています。料理を口にして気持ち良くなる経験ってなかなかないと思いませんか?食べて気持ちが良くなると人間は笑顔になりますよ。そして作り手にも「気持ち良い」は伝わります。目をつぶって「なるほど…」などと呟いているお客様がいると「私の鮨をしっかりと味わっていただいているんだな」と胸が熱くなります。お客様の気持ちが高まると、料理人の気持ちも高まります。常にカウンターに立っている鮨職人だからこそ得られる感覚かもしれませんね。「おいしい」は当然のこととして、私はお客様の心が揺さぶられるような鮨をこれからも握り続けたいと思っています。
東京でものにした自身の味を曲げはしないが、京野菜・鱧・鯖寿司・漬物など…と、森田氏の口からは京都の「うまいもん」の名が次々と飛び出した。そして「京都は良いですよ」とぽつり。“一目惚れ”した京都への愛が会話の端々から伝わってくるインタビューだった。ちなみに「僕が握る鮨は江戸前ではなく“男前”」だそう。口いっぱいに旨味を醸すネタと嚙むほどに甘味を増すシャリが見事に調和した男前鮨。一度食せば間違いなく虜になるはずだ。
取材・文/青木 玲子
撮影/鈴木 雅人
Un restaurant populaire où vous pouvez déguster des sushis Edo-mae préparés avec des ingrédients locaux et naturels. Nous utilisons des ingrédients soigneusement sélectionnés achetés à Tsukiji, et nous faisons vieillir le poisson pour créer umami. Nous utilisons deux types de riz vinaigré de tailles différentes pour maximiser les caractéristiques de goût des ingrédients. Dans un espace raffiné et de qualité, vous pouvez profiter des sushis Edo-mae traditionnels tout en vous relaxant.