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目指すのはお客様にとってのパワースポット!【鮨 龍次郎】中村龍次郎氏のおもてなしの真髄
2025/03/07

目指すのはお客様にとってのパワースポット!【鮨 龍次郎】中村龍次郎氏のおもてなしの真髄

明治神宮外苑の銀杏並木から青山通りを抜けた小路に暖簾を掲げる【鮨 龍次郎】。大将である中村龍次郎氏が握る「おまかせコース」の一貫目は、名刺代わりの中トロ。中村氏は寿司屋の名店【海味】の長野 充靖氏に師事し、師の急逝後はその暖簾を守るべく【海味】二代目店主を引き継いだ。2019年【鮨 龍次郎】開業後は、極上の鮪をはじめ素材を引き立たせる旨味の利いたシャリが特徴の江戸前鮨を追求する。これまでの軌跡や【鮨 龍次郎】ならではのこだわり、そして若手の育成など、寿司職人としての心意気について中村氏にお話を伺っていく。

寿司職人としての決断と覚悟で、極上の鮪との出逢いを掴んだ

ーーーお店の特徴や握りの特徴について教えていただけますか?

当店の特徴を一言で表すと「鮪に合うシャリ」というのがありますが、鮪にだけ焦点を当ててしまうと他のネタとのバランスが合わなくなってしまうため、全てのネタに対してバランスの良いシャリを目指して、日々考えています。

当店のシャリは他のお寿司屋さんに比べて酢は強い方だと思います。主に白菊・先夜・山吹・琥珀・與兵衛の5種類をブレンドして作っていて、一番多く入れているのは琥珀です。先夜と与兵衛に関しては少しずつ、あとの酢は中間位の量ですね。塩はミネラルが豊富な静岡の「おくだ壮の塩」という天然塩を使用しています。化学調味料は絶対に使いたくないので、自然の恵みからシャリに旨みを持たせるようにしています。お客様からは、「シャリが美味しい」とのお褒めの言葉をよくいただきますね。

ーーーコースの構成やこだわりについては?

当店のコースでお出しする握りは11貫、そのうち4貫が鮪です。例えば、握りを1貫だけ食べて「美味しいな」と思っても、コースを食べ終わってみると感じ方や満足感が一致するとは限らないと思うんです。「今日は食べた!」と満足いく時もあれば、「今日は物足りないな」と感じる時もありますよね。その違いが何かというと、私の中ではシャリが一番肝心だと思っていて、季節やネタの変化に応じて、日々シャリを調整するようにしています。

また、お客様がコースを食べ終えた時に「食べ疲れ」のような苦しくなってしまう構成にはしたくないので、全体のバランスは常に意識するようにしています。脂の多いネタや味の濃いものが続くと、どうしてもお腹に負担を掛けてしまいますよね。コースの構成に緩急をつけて、最後まで美味しく召し上がっていただけるよう工夫しています。寒い時期ですと、最初にアサリのお出汁を提供するなど、お腹を温めていただきます。その後に、お名刺代わりとして「中トロ」を1貫握らせていただいてから、7品つまみ/10貫握りという流れでコースを構成しています。

私の最後の修行先である【海味】では、先代の亡くなられた長野親方が握りとつまみを交互で出すスタイルでした。その後、私が【海味】の大将を務めた4年間は提供スタイルを一切変えずに守らせていただいていましたが、独立するにあたりコースの構成を考えた際に、「長野親方のお考えをどこかに取り入れたい」という想いがあり、一番最初に握りを出すことを決めました。独立してから鮪屋さんを変えたこともあり、自分が自信を持ってお出しできる一貫をまず最初にお出しして、お客様にインパクトを与えたいという狙いもあったんです。

ーーー鮪屋さんを変えたのには何か想いがあったのでしょうか?

寿司屋にとって魚屋さんや卸業者さんを変えるというのは本来してはいけないことだと思いますし、タブーというわけではないですが非常に勇気がいることなんです。その中でご縁があって有名な鮪専門仲卸である「やま幸」の社長と出逢い、どうしても鮪を使わせていただきたいと社長にその旨を伝えたところ、「お前の面倒をみてやる」と言ってくださり、今に至ります。取引されているお店もすごく多いですし有名店ばかりで、なかなか買いたくても買えない状況にある中、今ではビジネス面だけでなくプライベートでも可愛がっていただき、社長とお付き合いさせていただけていることは本当に感謝しかありません。鮪の好みが変わったのも全ては社長のおかげですね。素晴らしい状態の鮪の存在・希少性や価値・手に入らない時の自分なりの落とし所など、あらゆる面から鮪の知識を深めることができて、鮪に合うシャリを追求するようになりました。

私が好きな鮪は噛まなくても口に入れた瞬間に「うまっ!」となるような鮪、握っている時でさえ香りが立ち、美味しいことが伝わるような。例えば京都・舞鶴の定置網や噴火湾の定置網、青森の一本釣りの鮪などは本当に美味しいですね。

ーーー定置網の鮪にはどんな特徴があるのですか?

100キロ以内の結構小ぶりなサイズが多いんですよ、中には30キロほどの鮪もあります。味わいとしては綺麗な味なのですが深み(奥行き)があるのが特徴です。1貫食べたら、もう1貫、更にもう1貫と食べたくなるような鮪ですね。見た目は時期にもよりますが綺麗なサシ(脂)が入っていて、美味しい鮪は指で押すと低反発クッションのようにゆっくりと元に戻ってくるんです!違いは歴然ですよ。

厳選素材とシャリが織りなす最適バランスを追求する

ーーー握りとお刺身とでは素材へのアプローチに違いはありますか?

例えば同じ平目をつまみと握りで使う場合がありますが、つまみに関しては私は寝かせません。食べた時の弾力を活かしたいので、酢橘やポン酢などと共に召し上がっていただくようにしています。

逆に握りは何日間か寝かせることが多いです。寝かせることによって旨味も増してシャリと合わせた時に一体感が生まれます。自分の気分による部分もありますが、ネタの変化を感じとりながら、その時やその日によって「これでいこう!」と決めるようにしています。

ーーービジュアルのインパクトといえば「かっぱ巻き」が名物にありますね!

私の修行時代に、親方がお客様からキュウリをたくさん頂いたことがあったんですよ。使い切るにも使いきれない量だったみたいで、その時に和食で修行されていたお弟子さんが桂向きをして千切りにしたのがきっかけだったそうです。私が【海味】で大将を勤めた頃も〆にリクエストをいただくことが多く、お出ししていましたが、独立するにあたり、兄弟子たちは皆さん作られていないというのと【海味】の頃からの常連のお客様からも「かっぱ巻きが食べたい」とのリクエストをいただくので、継続して〆として追加でお出しするようになりました。今の時代はSNSの影響もすごいので、初来店のお客様も必ずご注文されますね。一回転でキュウリを5本使用する時もあるので、多分当店は寿司屋の中で一番キュウリを消費している店でしょうね(笑)。

食事は楽しい方が絶対に良い!

ーーー他店との差別化やオリジナル要素で意識されていることは?

お客様からは、当店について「元気になれる」とのお言葉を頂戴することが多いのですが、私自身も当店はお客様にとっての「パワースポット」でありたいと思っています。肩肘張るような緊張感を無くし、お客様がリラックスしてお食事を楽しめるよう、喋っちゃいけないような雰囲気を作らないようにしています。どちらかというと当店はガヤガヤ系です、最近来られた方には「青山にあるけど下町っぽいよね」と言われたことがありましたね(笑)。

もちろん、全てのお客様に当店のスタイルが受け入れられるわけではありません。ですが私自身、食事は楽しい方が良いと思っていますし、店側がお客様を気遣うのは当たり前のこととして、お客様に気を遣わせるのは違うかなと思っています。ある程度のマナーは大前提としてありますが、お客様が食事することに対して過剰な気遣いは不要だという考え方です。

ーーーお客様が楽しくお食事ができる雰囲気づくりをしようと思われたきっかけは?

常連のお客様から「龍次郎ではコソコソ話さなくていいから良いよね」と言っていただいたことがあるんです。他のお寿司屋さんの中には緊張感のあるお店もありますし、私は決して嫌いではありません。ただ、自分が握る時にお客様にシーンとされてしまうと緊張してしまうんです、話してよ!みたいな(笑)。見られることは大好きなのですが、シーンとしていると調子が狂ってしまうんですよね。

向き合うべきは目の前にいるお客様

ーーー【海味】での修行時代のエピソードをお聞かせいただけますか?

面接で親方に「俺がカラスは白!と言ったら白だから」と言われたことは鮮明に覚えていて、「来る場所を間違えちゃった」と思いましたね(笑)。親方は絶対的な存在で、何か言われたら全て「はい!」としか言えない修行時代でした。兄弟子である天本さん【現:東麻布 天本大将】が独立された三ヶ月後に親方のガンが発覚し、当時の弟子は私一人になり、キツいことも多かったですが、どれも良い思い出ですし今振り返ると楽しかったです。笑って話せる思い出なので、自分にとっては良い経験だったと思います。

ーーーコース構成以外にも師匠である長野氏から継承されている部分はありますか?

良いネタにこだわりお寿司を握られていた点については共通している部分ですが、シャリの配合(酢や塩)・扱う調味料の品種については独立してから全て変えています。他のお寿司屋さんに食べに伺わせていただく中で勉強になったことや、「やま幸」の社長や周りの方々にアドバイスをいただいて、今の【鮨 龍次郎】があると思っています。

シャリも当初はこれでいこうと決めていたものから作り方を全て変えるなど、自分なりにもっと良くなるんじゃないかと試行錯誤を繰り返しています。ちょうど、またシャリを変えようと思っているところです。「お寿司は好み」と言われることがよくありますが、私がおいしいと思うものとお客様のおいしいが必ずしも一致するとは限りません。お客様が10人いる中で、おいしいと思っていただける方が少数なのか多数なのかでいくと、絶対に多い方が良いわけです。なので、私は多くのお客様においしいと思っていただけるお寿司を作りたいと思っています。私がどんなに自信を持ってお出ししても、お客様がダメと思うのならばお客様に合わせていかないといけないと思うので、お客様の反応も大切にしています。

ーーー皆さん率直なご意見をくださいますか?

お客様の中には率直にご意見を言ってくださる方もいれば、「美味しかったよ」と帰ってくださる方もいるのですが、私の中でお客様から感じ取る手応えみたいなものを大事にしています。最近ではSNSもほとんど見なくなりましたね。やはり自分の考えもブレてしまうので、目の前にいらっしゃるお客様の反応を一番大切にしています。

お客様の心を動かす店を目指して…

ーーー大将としてお弟子さんを育てる立場になり、伝えていきたいことはありますか?

自分で物事を考える子が最近は少ないと思うんです。答えを自分で考えて出すよりも答えを先に聞いてそれをやる、そうなると自分で考える力が無いので独立は難しいかなと思いますね。間違ってもいいから失敗を恐れずにやる強さを身につけて欲しいと日々思っています。そうした想いもあり、今では新しく入ってきた未経験の子たちに教えることを、経験者である今いる弟子たちに任せるようにしています。少しでも自分で考える力を養っていってもらいたいですね。

もう一つは「人に可愛がっていただくこと」です。お客様・魚屋さん・卸業者さんなど全てに言えることですが、目上の方が多いので、例えば「魚屋さんから魚を買っている」ではなく「買わせていただいている」という姿勢や心構えで接することが大事です。また、「ありがとうございます」などしっかりとお礼を伝えることの大切さも理解して大事にして欲しいです。これは私も修行時代に親方から厳しく教えていただいたことでもありますし、若い子にも受け継いでいきたいですね。

ーーー自分で考えて行動するチャンスをお弟子さんにはどのように与えていますか?

昔の職人さんは「見て学べ」とよく言いましたが、今の時代は無くなったと思うんですよ。私は修行中に先輩に「お前は本当に人の仕事を見てないな」とよく怒られたんです。それがすごく悔しくて、指摘された時に悔しいと思うのか凹むのかによって、成長の仕方は大きく変わってくると思います。落ち込むのではなくてムカついても良いと思うんです。言われた自分にムカついたり、指摘されることにイライラしたりということをもっとして欲しいなと私は思っています。最近は怒るのではなく、「お前下がれ」と言って裏に下げるようにしています。下げられたら誰でも悔しいはずですし、そこで悔しいと思わなかったらダメなんです、そこで成長は止まってしまうと思うので。悔しい気持ちをもって自分は何がいけなかったのだろう/どうした方が良かったのだろうと考えるきっかけになると思いますし、もしも分からないのならどうすれば良いか確認することも大事だと思うんです。私にも何して良いか分からない/正解が分からないという時期がありましたよ、でも逆に自分の頭で絞り出した考えを認めてもらえた時の喜びもありましたから。

ーーー最後に、中村様にとって「おいしい」とは?

私にとって「おいしい」とは、食べ終わった時に「また来たいな」とすごく幸せな時間だったと思えることでしょうか。味だけでなく、空間・おもてなしなど全ての要素が揃うことで「おいしい」に繋がると思います。

料理人の立場としては、おいしい店(感動する店)に共通して言えることは料理人の人柄だと思っています。私も過去に伺わせていただいて感動したお店の料理人の方々は、素敵な方ばかりです。例えば、私が自分の握りの試食をしている時も「おいしい」とは思っていますが、客として他のお寿司屋さんに伺った時のおいしさや感動とは何かが違うと感じるんです。その「何か」というのは、料理人の人柄であったり魂・想いが料理に込められているからだと思うんです。

味としての「おいしい」というのは料理屋にとって当たり前のことで、これだけ色々なお店がある中で、その店の「何が本当にすごいのか」を考えると、きっと料理人の人柄や魂・想いが料理を通してお客様に伝わるからなんです。そして、それが「おいしい」と感動にも繋がり、お客様の中に刻まれるのだと思います。もしも時が経って具体的なことまで覚えていなくとも、その店のイメージはきっと色褪せないものになるはずです。これからもお客様の心までも満たせる【鮨 龍次郎】を目指し、真摯に料理と向き合いながら、魂を込めてお客様をお迎えしたいと思います。

厚さ10cm超の重厚な木曽檜のカウンターの設えで食す至極の江戸前鮨。「ある程度のマナーは必要ですが、お客様が店に気を遣う空間にはしたくない」と語る中村氏。そんな中村氏の温和で誠実な人柄と鍛錬した職人技が光る江戸前鮨に魅了されて同店に足を運ぶ常連客は数知れず。活気溢れるエネルギーが満ちた心地良い空間の中で極上の寿司を嗜む唯一無二のひとときは、きっと訪れる者の記憶にしっかりと刻まれるだろう。

取材/柳屋 有里
文/AutoReserve Magazine編集部
撮影/中岡あずさ

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