ーーーお店の特徴やお料理について教えてください。
当店の特徴は【鮨さいとう】の姉妹店として、齋藤親方が花が咲く前の蕾の状態を若手と捉えて、僕たちにチャンスや機会を与えてくださる「若手が活躍できる場」です。年齢は僕が32歳で、他のスタッフは21〜27歳なのでまだまだこれからという感じです。昼夜共におつまみと握りの「おまかせコース」のご提供と、ランチでは一時間程度で終わるような握りをメインとした「ショートコース」もご用意しています。
ーーーコースの内容は【鮨さいとう】と重なるのでしょうか?
握りは齋藤親方の流れを守っています。季節に応じてネタは変わりますが、最初に白身魚を出し、その後は小肌・鮪・烏賊・海老…という流れを変えないところがグループの良さでもあるので、齋藤親方と一緒にさせていただいています。一方でおつまみに関しては全く違いますね。毎月メニューを変えることを自分に課しています。
寒くなってきたら一品目は温かいもの、夏は冷たいものでコースを始めて季節感を出しています。例えば、温かい雲丹のお椀を作ったことがあるのですが、今年も出していて「この季節が来たな」と常連のお客様にも感じていただけたり、子持ち昆布を出して年の瀬を演出したり、コース全体の流れが味・温度・食感など単調にならないようバランス良く出すことを必ず意識しています。
ーーーおつまみを毎月変えることに、何かきっかけや想いはありますか?
当店は開業から6年目を迎えましたが、先代の丸山大将は「若手が活躍出来る場」ということを大切にされていて、「若手のつまみ」の枠を設けて、齋藤親方とは違う料理を出そうという取り組みを始められたんです。この取り組みを通じて、当時の自分たちの引き出しが広がる貴重な経験となり、今も続けています。当初は、【鮨さいとう】の二号店という認識のお客様も多かったのですが、今では【鮨つぼみ】として毎月リピートされるお客様もいらっしゃいます。常にお客様に喜んでいただけるよう、おつまみで季節感や新しいアイディアをご提供したいという想いです。原則は毎月変えるようにしていますが、最近では2〜3週間で変えることが増えてきましたね。
ーーー食材の仕入れについて、【鮨つぼみ】ならではのこだわりはありますか?
仕入れ先に関しては豊洲が主で、齋藤親方が今まで培ってくださった業者の方々との付き合いがベースとなっています。仕入れは僕に任されているので、最近では「この業者ではいつも海老を買うけど、他のものを買ってみよう!」というように、自分の個性を少しずつ出すようになってきました。僕は愛媛県出身なのですが、愛媛の雲丹漁師さんから直接雲丹を買ったり、五島列島のクエも齋藤親方からの後押しがあり仕入れてみました。ここ数年は、他の産地にも目を向けながらやっています。
ーーー素材の良さを最大限に引き立たせるための仕込みの工夫はどのように?
素材の良さを引き出すには仕込みが重要なので、日々試行錯誤しながらやっています。魚はとにかく豊洲にいる状態から腐敗が始まると思っています。僕たちができることは、店に着いてから室温や魚の温度を高くしないこと。とはいえ、白身魚など温度が低すぎると水っぽくなる(のびる)魚もあるので、ただ冷やしたら良いというわけではなく、魚に合った適温での管理と、とにかく早く仕込むことですね。時間をかけて仕込みをすると腐敗が進んでしまうので、お客様のお口に届くまでの時間を最短にすることを心掛けています。
また「魚を寝かす」という表現がありますが、何日寝かせようと決めて魚の仕入れをしているわけではありません。味見を繰り返しながら、一番美味しいと思う状態が二日後なら、それは二日寝かせているという状態です。これは教えられるものではなく感じ取ることなので、魚のおいしさを最大限に引き立たせるだけでなく「魚を知ること」にも繋がります。決まったアプローチではなく、個々の魚のポテンシャルを見極める目と感性が重要な部分です。
ーーーシャリについて何かこだわりや工夫はありますか?
齋藤親方と同じ、福島県の【相馬屋】より「笑みの絆」という、お寿司に向いているとされる品種を使用しています。温度に関しては、脂があるものは温度が高いシャリ/淡白なものは低いシャリが良いというセオリーはあります。また、青魚に温かいシャリを合わせると香りが立ちすぎて臭みが出てしまいますし、温かいシャリはほぐれやすくバラつくので、平目や鰈など食感のあるネタとは咀嚼した際にミスマッチです。ただ、固定概念に囚われると新たな発見がないので、時にはわざと別のアプローチに変えたり、魚の状態によって最適な温度を見極めるようにしています。
ーーー寿司を握るうえで大切にされていることは?
握る際の所作は美しいに越したことはないですが、あまり重要だとは思っていません。僕が大事にしているのは魚を知ること。自分の考えを一番表現できるのはやはりお寿司なので、握りにした時を想像しながら仕込みと切りつけに気を遣っています。
ーーースタッフの皆さんとコミュニケーションを取ることはありますか?
最近では、僕が仕込みをしている傍らで、若い子が「今日の小肌は固いですね」などと意見を率直に伝えてくれるんです。「固い」には皮・身・骨など色々な固いが考えられるわけですが、「それなら塩を強めてみる?」というようなコミュニケーションも取れてきたんです。僕はそれが嬉しいと言うか…例えば「今日のあん肝は昨日と違う?」など素材が何であれ、昨日とは違うという「気付き」が若い子たちに出てきたことが僕はすごく嬉しいです。
ーーー縦社会特有の発言しづらい空気感はないのでしょうか?
僕はそんなこと全然気にしないんですよ(笑)。「川口さん、この味付けで大丈夫ですか?」とか「少し塩味が強くないですか?」と率直な意見をぶつけてくれると、ただ「美味しいと思います」と言われるより信憑性がありますし、むしろ安心感があるんです。若い子たちが責任感を持って仕事をしてくれることで、僕は別の仕事に集中することができますし頼もしいです。二番手には彼自身のお客様もいて、責任感を持ってやってくれているというのも大きいかもしれませんね。やはり仕込みだけでは気付きたくても気付けないことがたくさんあって、お客様が召し上がる様子まで見ることで、お客様の反応にも気付けるようになるんです。僕は二番手が担っている個室カウンターのことは絶対に文句を言いません。お客様からお金をいただいて満足させるという行為は、経験の差はあれど立場は同じですからね。齋藤親方には、若手が率先して仕事に取り組める環境を作ってくださったことをとても感謝しています。
ーーー風通しの良さは、川口様ご自身の経験やお考えなどが影響しているのでしょうか?
僕が【鮨さいとう】に入った頃は、魚の知識が全然無いことにコンプレックスがあったんです。僕は大卒で寿司経験はやっと10年目ですが、もしも高卒なら14年目になります。この4年の差というのは当時の僕にとってすごく高い壁で、今では気になりませんが「教える」というのはまだまだおこがましいというか、魚について「こうやれ!」とはまだ言える状況ではないと思っていますし、僕の中で勘違いしたくないという想いもあります。でも、「一緒に考えることはできる」というのが僕のスタンスなんです。双方的なコミュニケーションを取ることで互いの引き出しも広がりますし、大将となり店を任されているから僕が全てを知っているわけではなく、僕も「学びの中にいる」という意識が強いのでそこが大きいかもしれないですね。
ーーー料理の道に進まれたきっかけはいつ頃?
元々は教員免許取得を目指していたのですが、受験前にアルバイトをしていたラーメン屋の店長から一緒に独立するお話をいただきました。僕は愛媛大学農学部を出ているので常に食材に触れる環境にはいましたが、卒業後すぐにラーメン屋へ就職する選択肢は僕になくて、最初に就職したのは青果市場でした。理由は素材や流通について知りたかったからなんです。
青果市場を退社後、当時のラーメン屋の店長と共同で中華そばの店をやり始めました。そこでは出汁に魚介を使っていましたが、当時は出汁に鮮魚を使う店が愛媛にはあまり無くて、「魚をもっと学びたい」という想いがありました。店の近くに【土屋水産】という会社があり、「給料はいらないので魚だけ教えてほしい」と軽い気持ちで行き、魚の勉強が始まったのですが、社長が魚屋は同じ鯛を安い居酒屋や旅館など色々な所に納品するけれど、同じ鯛が高額に化ける商売が高級寿司屋だと表現していました。また、その対価を得るためには、「人間」としての魅力を高める必要はあるが、高級寿司屋は面白い業界だと教えてくれたんです。
そこで松山で有名なお寿司屋さんに食べに行ったのですが、ビビッときちゃって!
中華そば屋を辞め、最初は松山で寿司屋に就職したのですが、大将が東京で修行された方で江戸前寿司の良さについて教えられたんです。それならば東京でやった方が良いと思い、自分で色々と調べたところ、グルメサイトで一番評価が高かった【鮨さいとう】を知り、「ここしかない!」と。ですが、身寄りもないし電話も繋がらず、求人会社に「どうしても取り次いで欲しい」とお願いして、当時二番手をされていた先輩に助けていただいたことで無事面接ができて入社が決まりました。それが23〜24歳の時で、気付いたら中目黒にいました(笑) 。 すごく端折ったのですがそんな感じです。
ーーー念願が叶ったわけですね!【鮨さいとう】での修行時代はいかがでしたか?
忙しくてあまり覚えていないのですが、なんせ僕は技術と取り組んできた日数が足りなくて、それは埋めようがなく努力してもしきれないのがコンプレックスでした。「時間が無いのならもうやるしかない」と、バカな考えですが営業後の深夜1〜4時に寝ずに市場へ行き、貝の剥き方や魚の捌き方などを教わり仮眠して出勤して、日数の差を埋めるためにひたすらやり続けていましたね。この生活を齋藤親方や先輩方にダメと言われたら困るので、バイクまで購入して(笑)。
当時は「皆んなと同じ出勤時間に店にいれば問題ないでしょ!」という考えで、先輩方には「もっと早く来て店の掃除をしろよ」と思われていたかもしれないですが。市場の人も「また、あいつ来てたぞ」と齋藤親方に話していたようで、でも齋藤親方は僕のそういうところを認めてくださいました。経験不足を埋めたつもりでもないし埋まったとも思ってないですが、僕なりにできることをしていましたね。僕はパワーでいっちゃうタイプ、それに耐えられる体力があったのと、当時は運動量とかお客様への熱意でしか勝負できなかったので、それが僕のやってきた人生の下積みです。誰に教わったわけでもなく自分で決めてやり出したことですが、僕はやって良かったと思いますし、そこを齋藤親方や先輩方も評価してくださり、今この立場としてお客様に接する機会をいただけているのだと思います。
ーーー【鮨つぼみ】の大将として三年目ですが、若い人たちに伝えたいことや向き合い方に変化は?
仕事をするうえで、時には厳しく教えなければならないことはあります。それはお客様に対してや寿司職人としての心構えなど、「人」としての部分。寿司屋はカウンター商売ですから、いかに「自分の色」を出せるかなので。これについては若い子よりも自分の方が少しだけ長く生きているのと、色々な方と【鮨つぼみ】の代表としてお話させていただく機会が皆んなより多いので、僕の知識や経験をもとに伝えるようにしています。
例えば、常連のお客様には毎回同じ質問をしないよう注意したり、お茶を差し替えるタイミングに配慮したり、出勤から退勤までという同じ時間の繰り返しの中で、仕込みだけでなく営業中に関してもお客様に対しての接客であれ何であれ、何かしらの「気付き」ができるようになってくれたら嬉しいですね。
また向き合い方については、僕にできることを考えた際、「背中で頑張っている姿を見せること」だと思いました。彼らと日々一緒に考えることも含まれるのですが、自分の取り組みの一つとしては、愛媛大学の大学院に現在通っていることでしょうか。水産経営を専攻して寿司屋の研究をしています。寿司屋の研究がどうこうであったり、若い子に学ぶ姿勢を見せたいからやっているわけではなく、一番は「お客様の満足のため」であり、常に歩みを止めずに自分自身が成長し続けることで、若い子にも良い影響を与えられたらという想いです。
最近、【鮨つぼみ】として門を叩いて入ってくれた子が一人いるのですが、すごく嬉しいです。
当店は若手として花が咲く前の蕾らしく、若手ならではの溌剌とした声や常に成長していく姿をいかにお客様にお見せできるか、が店のコンセプトへの理解にも繋がると思いますし、毎月メニューを変えることにも通じています。自分が齋藤親方の弟子だからといって、【鮨さいとう】のようにやっていたのでは絶対にダメなんですよ。まだまだ発展途上だからこそ出せる魅力があると思っています。僕自身が色々なことに挑戦し頑張ることで、若い子が何か一つでも感じとってくれたら嬉しいですし、彼らの意欲を駆りたたせられるような起爆剤になれたらいいなと思っています。
ーーー大学院での寿司屋の研究はどんな内容ですか?店との両立は大変ではないでしょうか?
今は論文に取り掛かっています。「魚が減り価格は上がっている」というのが今の社会の共通認識ですが、それは本当なの?というところに一石を投じているんです。ちょうど市場調査が終わったところで自分の考察に入るのですが、仮説をもとに養殖の魚に着目しています。愛媛県は元より愛媛大学は養殖の研究が盛んなんですよ!近大マグロなどですね。養殖の魚に目を向けていかないといけない現実問題を寿司職人はどう受け止めるかというところや今後の展望について、学生目線と寿司職人目線を持ち合わせた僕なりの視点で論文を書いています。魚の近未来的な流通量や値段を考えながら、養殖の魚や愛媛の漁業の発展にも繋げていけたらという想いで偉そうなテーマを勉強しています(笑)。
店の営業との両立はなかなか大変ですが、東京の店をやりながら愛媛にも貢献したいという想いで、大学院の先生方のお力も借りつつ、なんとか頑張っています。今はまだ修士号ですが博士号まで取りたいですね。
ーーー最後に川口様にとって「おいしい」とは?
家での食事との違いは、お客様に来ていただいて僕たちがおもてなしする点です。言い換えると、お客様には「僕たちの土俵に入っていただく」ことになるわけです。寿司職人としての更なる技術向上への努力は大前提のもと、自分の作った料理を自信を持ってお出しするだけでなく、+αの要素を加え「楽しくておいしい」など、よりお客様がおいしいと感じていただくための付加価値も僕はとても大事だと思います。これからも「おいしい」を追求するために、寿司職人としての技術だけでなく、「人」としての魅力を高め続けながら精進して参ります。
【鮨さいとう】の源流をきっちりと汲みながらも、【鮨つぼみ】店主として自身の置かれた場所で凛とした花を咲かせる川口氏。行動力と知的好奇心、郷土愛で道を切り開いてきたその姿は、図らずも環境への配慮や地域との共生といった社会的意義を飲食業界にどう取り入れていくか、という問いに対してのひとつの答えを体現されていると感じた。大義を掲げず、自身の実直な想いと努力で道を拓いていく清々しさの中にも、時代を掴む力を秘める。業界に新風を呼び込んでいく逸材として、今後の更なる活躍が楽しみでならない。
取材/柳屋 有里
文/AutoReserve Magazine編集部
撮影/中岡あずさ
Ouvert en 2018, ce restaurant de sushi à Meguro propose des plats mettant en valeur des techniques raffinées et des ingrédients frais. Chaque visite offre de nouvelles surprises et émotions, faisant de cet endroit un lieu spécial pour les amateurs de sushi. Profitez d'une expérience de sushi exceptionnelle dans ce restaurant très prisé.