ーーーどのようなきっかけで料理の道に進みましたか?
実家では、母親だけでなく父親も台所に立って料理をしていたこともあり、元々自分にとって料理をすることは身近な存在でした。例えば「リンゴが食べたい」と言うと、「自分で剥いて食べなさい」と包丁とリンゴを渡されるような環境だったので、小さい頃から包丁を持つことには慣れていましたね。将来の進路を選ぶ時、魚が大好きだったこともあり魚屋と料理人で迷いましたが、和食が好きで日本人としてのルーツを学びたいという想いがあり、調理師専門学校を卒業後は日本料理店で修業を始めました。
途中、自分の今後について考えることがあり、アメリカに渡って3か月ほど寿司屋の厨房で働いていたことがあります。その際に自分の技術が足りていないことを痛感し、海外に行っている場合ではないと気付き、帰国後は銀座にあった【一乗寺】という懐石料理屋で7年ほど修業を積みました。そこでは早い段階で料理長の次くらいのポジションまでいき、料理長の近くで様々なことを学ぶことができました。
ーーー修業先ではどのような経験をされましたか?
料亭や旅館など規模が大きい日本料理店だと分業制の場合も多いですが、修行先の懐石料理屋は少数精鋭制で、自分がやる気になればどんどん仕事を任せてもらえる環境でした。例えば、自分の持ち場の仕込みが終わったら、隣の持ち場の仕込みもさせてもらったり。
業者が捌いた状態の魚をあまり使いたくないと料理長に相談したら、自分でおろした魚を使わせてもらったこともあり、7年という期間でたくさんのことを学び経験することができましたね。
ーーーその後、日本料理とは異なるジャンルを経験されたそうですね。
一通り日本料理を学んだ後、これからもっと自分の力を試していきたいと独立も視野に入れていた頃、友人のダイビング関連の会社がカフェをやろうとしているという話を聞きました。和カフェのようなスタイルなら自分の経験も生かせるのではないかと思い働くことになりましたが、いざ蓋を開けてみるとオーナーがやりたかったのはイタリアンで、イタリアンカフェの料理長をやることになったんです(笑)。
自分にとって全く新しいジャンルでしたが、学ぶことも多く、様々な発見がありましたね。今もコースメニューのアイディアの源泉になっていて、例えばそら豆のペーストと炭火焼きしたニョッキにペペロンチーノをかけた一品はイタリアンの経験がベースになっています。
そして、実はそのカフェが入っていた建物の上の階に、現在所属している【株式会社LDH kitchen】の事務所が入っていて、そのご縁から一緒にやらないかと声をかけてもらいました。入社後は鍋屋や居酒屋の料理長、カレー屋や蕎麦屋の立ち上げなど、様々な経験を積んできました。コロナ禍には一時閉店を余儀なくされた時期もありましたが、LDH代表のHIROさんと【鳥しき】代表の池川 義輝親方が意気投合して「鳥しきICHIMON」が結成され、ここ【鳥焼き 小花】が生まれ、僕が店主として任されることになりました。
ーーー【鳥焼き 小花】の店主として、どのようにお店をスタートさせましたか?
居酒屋の料理長をしていた時も焼鳥は提供していましたが、【鳥焼き 小花】では鳥焼きを中心に据えることが決まってから、改めて【鳥しき】の技術を学びに行きました。それまでは遠火の強火で焼いていましたが、池川親方のセオリーでもある「近火の強火」で焼くことで、熱を逃がさず外はカリっと、中はジューシーに素材の旨味を閉じ込めることができます。
池川親方は、焼鳥という業態ではできないけれど、串に刺さないスタイルをずっとやりたいと思っていたそうです。そこに日本料理をはじめ様々なジャンルの料理を経験してきた僕の知識とが合致して、串に刺さない「鳥焼き」という形で実現し、鳥料理を主軸に様々な料理を提供することになりました。
ーーー鳥焼きは通常の焼鳥と比べて何が異なりますか?
当店の鳥焼きは一枚網をかまして焼くため、通常の焼鳥と比べて、まず熱さの表現が異なります。また、焼きあがったら串を抜いて切って薬味を添えて提供するなど、居酒屋などで提供される一般的な焼鳥のイメージとは異なります。串を抜いた状態で提供するので、ひと工夫しないとお皿に盛った時に「料理」としてなかなか決まりません。そのため、どうしたら食材の邪魔をせずに見た目も味もおいしい料理を提供できるか、ということが特に最初の課題でしたね。現在は炭の香りをつける、熱いうちに召し上がっていただけるようお出しするなど、【鳥しき】が大切にしているものを守りつつ、【鳥焼き 小花】独自のスタイルとして育てていっています。
ーご自身のどのような部分が料理の核となっていますか?
日本料理の技術はもちろん、中でも重要とされる「出汁」が料理の核となっています。僕は鶏ガラの出汁や鰹の出汁などを使いながらコースメニューを作っています。
20品あるコースでは、鶏肉の各部位のほか、煮物や揚げ物、焼き物など様々な料理をご用意しているのですが、自分が焼鳥屋に行ったら、途中で食べたくなるような酢の物やおひたしなども取り入れており、違う観点からちょっと目新しい一品を加えるなど、お客様に飽きを感じさせないような構成を意識しています。また、日本料理のものしか入れないというわけではなく、多様な料理ジャンルで構成されたおまかせコースを作っています。
料理の一つの「おひたし」を例にとると、おひたしは日本料理では八寸の一品にあたり、季節を表現する料理として活躍してくれます。働いていた懐石料理屋では春夏秋冬、季節に応じて豊富なレパートリーで作っていたので、そこでの経験も活かされていますね。鶏肉だけでは季節感を表現することが難しいので、旬の食材を使うことで季節を感じながら様々な味覚を楽しんでいただけたらと思っています。
ーーー食材選びやコースメニューでこだわっていることを教えてください。
同じ鶏肉でも、モモ肉や手羽先は「伊達鶏」、胸肉は「信玄どり」というように使い分けています。鶏肉は飼育環境が味にも影響するので、平飼いされて育成日数が70日程度とちょうど良いものや朝獲れの新鮮なものを使っています。
コースの最後にはデザートでかき氷を通年提供しており、季節によってりんごやいちごなどソースを変えています。もしかすると「冬もかき氷?」と思われるかもしれません(笑)。ですが、焼き菓子など重めのお菓子をコースの最後に提供すると召し上がっていただけないこともあるのですが、脂っぽいものが続いた後にすっきりとした締めくくりとしてかき氷を提供すると、皆さん召し上がってくださるんです。これは発見でしたね。
ーーーどのようなお客様がいらっしゃいますか?
純粋においしい食事を求めていらっしゃる方はもちろん、日本だけでなく中国や台湾、アメリカなど海外からのお客様が多くいらっしゃいます。当店は17時からと20時からの二部制ですが、二回転目は全員インバウンドのお客様の日などもあります。カウンター席なのでお客様とのコミュニケーションも取りやすく、お客様同士が仲良くなられて食後そのまま一緒にお出かけになることもあるんですよ。
お客様に伺ったところ、海外にも焼鳥屋はあるけれど、おいしいお店が少ないそうです。当店にいらっしゃった方は食材としての鶏肉のおいしさはもちろん、様々なスタイルの鳥料理に感動してくださいます。
また、豚肉や牛肉と比べて、鶏肉は宗教上食べられないという制約が少ないこともあると思います。ただ、お客様によっては軟骨など骨は食べづらいという方もいらっしゃるので、ハラミ付きの鶏ヤゲン軟骨を提供するなど、食べやすさにも配慮しています。ベジタリアンの方がいらっしゃった時には、肉の代わりに触感が近い生麩を使うなど様々な食習慣を持つ人に対応しています。
ーーーインバウンド需要で盛り上がる中、海外からのお客様に好評なのは嬉しいですね。
当店を気に入ってくださり「帰国したら友達に薦めるね」といって、実際にその方のご紹介で来店してくださるお客様も多く、本当にありがたいですね。良い意味で海外のお客様はおいしいものを食べることに貪欲だと思います。グルメサイトなどを見て興味を持たれたら、当店が予約を受け付けている予約サイトにきちんと会員登録をしてから、予約してくださっています。綿密に調べて様々なお店と比較検討したうえで選んでくださっているので、お客様の気持ちにしっかり応えていきたいですね。
ーーーご自身は今後海外でチャレンジしたい気持ちはありますか?
今はスタッフを海外に送り出す立場ですが、今後は海外にも行きたいですね。「鳥しきICHIMON」は、現在ニューヨークと上海に店舗があり、海外から出店オファーも多く、これから台湾での出店予定もあります。僕としては、例えば「チーム鳥焼き 小花」として、海外でコラボイベントなどができたら面白いなと思っています。
上海の店舗で働いているスタッフの一人は、元々当店で研修を受けていて、今も料理で悩んだ時に連絡をくれて相談に乗ったりしています。上海から当店にいらっしゃったお客様のご様子をもとにアドバイスをすることもあり、自分の経験が役に立てば嬉しいですね。
ーーースタッフと接するうえで心がけていることはありますか?
僕は自分がやられて嫌なことは絶対に人にはしないようにしています。今は「背中で覚えろ!」という時代でもないと思うので、教えるべきことはしっかり教えています。また、料理は触ったことのある食材が多いほど、その経験が財産になると思っています。
例えば、店として魚料理は提供していませんが、まかないで魚をおろしたり、そうした経験もしてほしいですし、今は通年通して出回る野菜も増えていて、季節感を感じ取りづらくなっているので、季節を意識した食材の使い方も学んでもらえたらと思います。
実際に料理を作る際には、自分が「こういう料理を考えている」と伝えて、各自が色々と調べたり考えたりして、アイディアを提案してもらうこともあります。若い人たちは僕にはない発想を持っているので、【鳥焼き 小花】の料理を作るうえでとても貴重な財産となっています。
例えばお菓子作りが得意な女性スタッフからの提案は、女性目線で参考になりますし、僕自身スタッフから日々様々なことを学ばせてもらっていますよ。
ーーー今後若い世代を育てていくために、意識していることはありますか?
「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、和食を食べることを楽しみに訪日する外国人の方も増え、日本料理に対する期待がどんどん高まっていると感じています。一方で、働き方改革によって労働環境や時間を見直す流れが進んでおり、働きやすい環境が整うのはもちろん良いことですが、定められた労働時間内だけでは若い人たちが技術を習得するのには、今までの倍くらい時間がかかるのではないかと危惧しています。技術を知らないからといって単純な手法に走るのではなく、きちんとした料理を表現できるよう技術と伝統を伝えていきたいですね。
ーーー最後に、佐藤様にとって「おいしい」とは?
「幸せ」でしょうか。お客様から「食べて元気が出た」「あともうちょっと頑張れば小花だ、と思って楽しみにしてました」と仰っていただけると、本当に嬉しいんです。料理がおいしいというのは当たり前で、+αの何かがあるとお客様は来てくださるのかなと思います。それは例えば店主に会いたいから行くなど、人に会いに来る場所でもあるのかもしれません。お客様それぞれの理由、楽しみ方があると思いますので、お客様に行きたいと思ってもらえるような店になれるよう、これからも頑張っていきます。
細い通路を抜けた先のカウンター10席のみの隠れ家空間で、佐藤氏のゆったりと大らかにもてなすスタイルが心地良く、時の流れを忘れてしまいそうになる。魯山人写しや織部焼、新進気鋭の若手作家の器の数々と、その器に盛られた料理との調和は絶妙で、一品一品が格調高く美しい。北大路魯山人本人の作品とされる器が飾られた一枚板を前に、伝統を重んじながら自由闊達な表現を重ねた魯山人の作風と、佐藤氏の料理に向き合う心意気とが重なり、それぞれの表現に想いを馳せる。様々な人の心が交わるこの空間で、「ここでしか味わえないもの」を体験できることこそが【鳥焼き 小花】の真価だと感じた。
取材・文 / 佐田 優佳
撮影 / 中岡 あずさ
C'est un restaurant où vous pouvez déguster des plats créatifs principalement à base de yakitori sans brochette. La technique de cuisson au charbon de bois des différentes parties du poulet est véritablement basée sur la tradition de l'école Torishiki. L'intérieur du restaurant déborde d'une ambiance japonaise, vous permettant de passer un moment agréable.