ーーー料理人を志したきっかけを教えてください。
実は料理人になろうとはまったく考えていなかったんです。調理師専門学校にも通っていませんでしたし、大学ではデザインやアパレルの勉強をしていて、そちらの業界に進むつもりでした。ただ、大学時代にアルバイトで飲食店の調理をしていて、それがとても楽しかったんです。料理を作ることが面白くて、働くうちにどんどん料理の世界に惹かれていきました。大学卒業後の進路を考える時期になって、アパレル業界で働くなら専門学校へ進学する必要があることがわかりました。対して料理の世界は、現場に入って仕事をしながら技術を磨いていくことができる。どちらの道に進もうか悩んでいた頃は、ちょうど「料理の鉄人」というテレビ番組が流行していて、料理人という職業がかっこいいと思われる時代でした。テレビ番組を見ていたことや、何より「料理の仕事が楽しかった!」という経験が、料理の道に進むきっかけになったと思います。
ーーー開業までのエピソードを聞かせてください。
大学卒業後はイタリアのトスカーナへ渡り、イタリア料理と語学を学びました。その後、ボローニャの【イル・ソーレ】にて研鑽を積み、本場の調理技術を身につけました。イタリアには約一年ほど滞在し、現地の文化や料理を深く学ぶことで、自身の料理の基礎を固める貴重な経験となりました。
帰国後はいくつかの京都のレストランで働いていましたが、最後に勤務していた店が閉店することになり、次の進路を考えることになりました。もともとイタリアにいる間から、「独立するのなら地元・奈良でやりたい」という想いがあり、このタイミングを機に奈良へ戻る決断をしました。奈良に戻った後は知り合いのレストランを手伝いながら経験を積みましたが、比較的カジュアルな業態であったため、僕が目指していた料理スタイルとは少し異なるものだったんです。僕が目指していた「ガストロノミー」と称されるレストランは当時の奈良にはなかったのですが、僕が奈良へ戻り半年ほど経過した頃、【イ・ルンガ】というレストランがオープンし、「奈良でもこんなレストランができるんだ」と、当時は大きな刺激を受けましたね。そこでお願いして働かせていただき、約四年半クラシックなイタリア料理を中心に技術を磨きました。
退職後は料理の幅をさらに広げるために、モダンな料理やフランス料理の技術も学びたいと考え、一年間京都の【ランベリー ナオトキシモト】でフレンチの経験を積みました。この修業を通じて、イタリア料理だけではなく、より広い視野を持って食材と向き合う方法を学ぶことができました。
その後は、奈良でミシュラン二ツ星の【アコルドゥ】を運営していた川島シェフから「奈良の支店の料理長を探している」という話をいただき、料理長として勤務することになりました。支店の【アバロッツ】では、約二年半にわたり料理長を務めました。この時期を通じて、独立に向けた準備がより具体的になり、レストラン経営に必要な知識や経験を積むことができました。そして【アバロッツ】の店舗を買い取る形で、奈良・東生駒に【communico】をオープンしました。約六年間にわたり【communico】を運営し、奈良の食材を活かしながら自身の料理スタイルを確立していく中で、新たな挑戦の機会として【VILLA COMMUNICO】の話をいただき、現在に至ります。
ーーー新たな挑戦をすることを決めたきっかけは?
以前の店舗は大阪に近い場所にあり、都会的な料理を求められることが多く、地域の食材を活かすよりも、都市部で好まれるスタイルの料理を提供することが中心でした。お客様のニーズに合わせて料理を提供する中で、自分の中に生まれる違和感を感じながらも、当時は求められる料理を作ることに意識を向けていました。しかし、本当にやりたい料理は土地の食文化に根ざしたものであり、それが奈良という場所にぴったり合うものなら、より自分の目指す料理を表現できるのではないかと考えていました。
現在の店舗の立地は、まさに「奈良らしさ」が強く感じられる場所です。地元の方だけでなく、観光で訪れる方々が食事に来てくださる機会も増えました。奈良の文化を感じながら食事を楽しんでいただけるという点で、僕が目指す料理をしっかりと表現できる場所なのではないかとに思ったんです。
ーーー料理に対する向き合い方や考え方について教えてください。
僕はお客様に料理を提供するだけでなく、食材の持つストーリーを感じてもらうことや、どのような空間で料理を味わってもらうかといった 「ガストロノミー」という概念を大切にしています。
ガストロノミーとは料理の技術や味だけではなく、器や空間、ロケーションまで含めた総合的な体験のことを指します。皿の上だけでなく、どのような環境で食べるかが料理の価値を決める重要な要素になってくるのです。また、料理とはその土地の文化や歴史とも密接に結びついています。奈良で生まれ育った僕自身が、料理人としてこの土地でレストランを営むうえでは、奈良という都市文化や歴史を料理に落とし込み、プレゼンテーションしていくことも大切だと考えています。そして、「僕たちがどういう人間か」を料理を通じて表現することは、料理人としてのアイデンティティの確立にも直結していると考えています。
当店では薪火を駆使して料理を提供していますが、奈良には「山焼き」や「お水取り」など火を使った伝統的な神事が根付いており、薪火料理はこの土地の文化や歴史と密接に関係していると感じています。【VILLA COMMUNICO】が位置するエリアは目の前に若草山が広がり、すぐ近くには東大寺の二月堂があるため、伝統的な神事が様々行われています。この風景を初めて見たときに、自分の中で「ここで薪火を使う料理を作ることは、この土地のストーリーとしてすごく合うのではないか」と直感しました。奈良の歴史や文化を調和させた料理スタイルを追求しながら、シンプルな調理法で食材の本来の味を最大限に活かすことを心がけています。
ーーー薪火料理の魅力とは何でしょうか。
薪火料理は最も原始的な調理法でありながら、食材本来の魅力を最大限に引き出し、よりストレートに食材の味わいをお客様に届けることができるという魅力があります。シンプルで力強い調理法は、僕が目指す料理の根幹を支えています。また、スペインのバスク地方で学んだことも、現在の料理に影響を与えています。現地の料理人から薪火の使い方や料理への考え方を学び、自分の料理に取り入れることで、奈良の食材の魅力をさらに引き出せるようになりました。
ーーー食材選びのこだわりを教えてください。
奈良で料理をするうえで、地元の食材を活用することは自然な選択ですが、単に「奈良の食材だから/希少だから」という理由で選ぶわけではありません。同じ土地で生まれた食材でも、生産者によって考え方やこだわりが異なります。「この生産者が作ったものだから使いたい」と思える食材を選ぶようにしています。奈良県外の食材でも、共感できる生産者の食材であれば積極的に採用し、料理として表現しています。
ーーー料理の特徴を教えてください。
僕が料理を考案する際に最初に思い浮かぶのは食材です。「この食材をどうすれば最もおいしく食べてもらえるか?」という発想が料理の出発点になります。料理のアイディアは知識や経験の積み重ねによるものであり、特定の料理を作るために食材を集めるのではなく、目の前にある食材を見て、組み合わせを考えながら完成させていきます。例えば、春の旬の筍を使う場合、「どのように調理すれば最もおいしくなるか」を試行錯誤しながら考えます。食材のポテンシャルを引き出し、その魅力を最大限に活かす調理法を模索する過程こそが、料理を作るうえで最も重要な要素となります。
僕は料理のおいしさを追求するだけでなく、食べる人に「楽しい/新しい発見がある」と感じてもらうことが大切だと思っています。食材の組み合わせが面白いと評価されることもありますが、奇抜な料理を作るのではなく、「程よい違和感」を意識しています。
食べたときに「知っている味だけど、どこか違う」と感じるような料理は記憶に残り、食の体験をより豊かにしてくれます。料理のおいしさを引き出すだけでなく、食べる人に新鮮な驚きを与え、印象に残る料理を作ることを意識しています。
ーーー料理を作るうえで大切にしていることは何でしょうか。
僕は食べることが単なる消費ではなく、一つの体験として印象に残るような料理を目指しています。技術や味わいだけでなく、食材が持つストーリーや、料理人のアイデンティティが皿の上から感じられるものこそ、本当に価値のある料理なのではないかと思うんです。
奈良の地で料理をするようになってからは、食材そのものの素材感を大切にすることをより強く意識するようになりました。料理を食べるお客様が、「今自分が何を食べているのか」がはっきりと分かる料理であることが重要です。それぞれの食材が主役となり、その魅力がお客様にダイレクトに伝わるような料理を作りたいと考えています。手を加えすぎたり、食材を掛け合わせすぎないことで、「何がおいしいのか」が明確な料理に仕上げることが理想です。牡蠣を使うのなら牡蠣のおいしさを、アスパラならアスパラのおいしさをきちんと引き出し、その食材が持つ本来の味を最大限に活かすことを意識しています。
ーーー今後の展望や挑戦したいことを教えてください。
料理人として、自分が積み上げてきた技術や知識を次世代へと繋げていくことに強い関心があります。若い料理人たちが業界で活躍できる環境を作ることが大切ではないかと。
現代の飲食業界は、人手不足が問題視されることも多く、技術の継承が難しくなってきている面もあります。しかし、ありがたいことに、僕の店には若い料理人たちが働きたいと希望してくれることがあり、彼らとともに次の世代へと繋げていく場所を作りたいという想いが強くなっています。
料理の世界は、技術の向上はもちろんですが、どんな環境で仕事をするかも重要です。僕自身も若い頃に様々な経験を積んできましたが、良い環境があれば、料理人としての成長も加速するはずです。当店で働く若い料理人たちにとって、「次のステップへ進める高い踏み台」として機能する店づくりをしていきたいと思っています。
若い料理人たちが当店で働くことに意味を見出せるような環境を整えるためには、飲食業界における評価を得ることも重要です。より高い踏み台を築くためにも、ミシュランや各種レストラン評価などにも、積極的に挑戦していきたいと考えています。評価を受けることは知名度向上に繋がり、店のブランドとしての価値も高まります。もちろん、料理人として日々の仕事をしっかりとこなすことが最も大切ですが、それが結果として評価に繋がるように、意識的に挑戦していく姿勢を持ち続けたいと思っています。
ーーー最後に、堀田様にとって「おいしい」とは。
人それぞれの記憶や経験に深く根ざしているものだと思います。食べた瞬間に懐かしさとともに驚きを感じることで、より深い「おいしい」が生まれるのではないでしょうか。例えば、幼少期に食べた料理の記憶を元に、人はより「おいしい」と感じやすくなります。それはその料理にまつわるストーリーや経験が作用しているからです。
料理のアイディアを考えるときも、どれだけお客様の「おいしい」の記憶に触れられるかを意識しています。奇抜な料理ではなく、知っている味に少しの驚きや変化を加えることで、「何か違う、でもおいしい」と感じてもらえるのではないでしょうか。
もちろん万人が「おいしい」と感じる基準は、ある程度共通しています。食感や味のバランス、温度や香りの組み合わせなど、普遍的に心地よい要素が存在します。しかし、それだけでなく、料理の中にほんの少しの違和感や予想外の要素を加えることで、印象深いものにすることができます。
僕は、お客様の記憶の琴線に触れながら、「どこか違う」という感覚を生み出すことを目指しています。少しの「違和感=ノイズ」が心地良い驚きとなることで、料理はお客様の記憶に残り、より特別な体験として深く刻まれるはずです。
堀田大樹氏が手がける【VILLA COMMUNICO】では、古来より奈良に根付く歴史や文化背景まで料理に映し出すことを目指しているという。薪火を駆使して食材が持つ魅力を最大限に引き出しながら、卓越したバランス感覚で食べる人に新鮮な驚きを与える堀田氏の料理は、店内を包み込む柔らかな薪の香りとともにシンプルでありながら奥深く、力強さとどこか儚さが共存する。「知っているようで新しい」、そんな一皿は、口に運んだ瞬間、食材そのものが語りかけてくるように感じられた。ここでの食体験は単なる食事を超え、土地の恵みと向き合う時間となるはずだ。
取材・文/フードアナリストあい(棚橋 麻衣子)
撮影/鈴木 雅人
Dans un espace rénové d'une maison traditionnelle de Nara, nous proposons des plats créatifs utilisant le feu de bois. En mettant en valeur les ingrédients locaux, nous offrons une expérience culinaire unique avec des accords de vins et de thés. Profitez d'une gastronomie fascinante où chaque visite réserve de nouvelles découvertes.