ーーー料理人を志したきっかけは?
小学校三年生の頃に連れて行ってもらった回らないお寿司屋さんで、カウンター越しの寿司職人に憧れたことがきっかけで寿司職人になろうと思いました。パティシエに惹かれた時期もありましたが、クオリティの高いスイーツを追求してコンビニのスイーツに癒されなくなってしまうかもしれないと思い(笑)。ですが素人目から見ると、お寿司屋さんは一年を通して寿司が提供されることから、当時はあまり変化がないようなイメージを抱いていたんです。今ならば決してそんなことは思わないのですが。自分が飽きっぽい性格というのもあり、まずは「日本料理」という大きなジャンルを学び、それから細かいカテゴリーを選択した方がスムーズかと思い、日本料理の道に進みました。
ーーー料理学校を卒業後、どのような経験を積みましたか?
赤坂の日本料理店【もりかわ】で八年半ほど働きました。修業は厳しく、忍耐力が必要とされる場面も多かったのと、自分の意見を伝えるような双方向のコミュニケーションが少なかったため、自分が居る意義のようなものを見失いそうになりました。それでも続けられたのは「自分の将来のため」という強い気持ちがあったからだと思います。
そんな中、26歳の頃にお客様からいただいたワインをきっかけに、もっとワインを知りたいと思うようになりワインスクールに通いました。ワインスクールではフラットな関係でワインの味について感想を述べることが求められ、気軽にディスカッションできる環境がとても新鮮でした。修業先では、大将と先輩のみ、と人間関係が限られていたのですが、高級ワインを楽しむような社会的にも立場のある方々と交流することで刺激を受け、そこから人脈も広がりましたね。
ーーー異なるジャンルだからこそ、ご自身の幅も広がりそうですね。
自分のできることを増やすことで、人間として対応できる「価値」のようなものが高くなりますよね。例えば板前さんでワインソムリエの資格を持っている割合が10人に1人だとします。そうなると、日本料理店でワインをおすすめできるのは10人に1人しかできないことで、100人に1人の人材になれる可能性がある。さらにもう一つ自分にしかないものを持っていたら、1000人に1人、1万人に1人のレベルまでいけるかもしれない。そうした自分にしかないものをかけ合わせていくことで、料理人としての価値はどんどん上がっていきます。僕は料理人として、これまで勉強して培ってきたものを100%遺憾なく発揮して、自分が一番おいしいと思うものを提供したいと思っています。
ーーー実際に独立する時の心境はいかがでしたか?
お金を借りてやってみないと始まらないし、やってみてダメでもなんとかなるという気持ちでした。修行した店を辞めた時は27歳だったので、失敗してもまた貯金すれば40歳くらい、再チャレンジできるかなとも思いました。人生においてチャレンジする回数が多い方が成功する可能性も高くなります。特に若いうちは体力もあるので、若いことがアドバンテージにもなりますね。
ーーー独立後、まず焼鳥をメインとしてスタートされたそうですね。
ワインが好きだったのと、修業時代の持ち場は焼き物全般を担当する「焼き場」がメインだったこともあり、鳥料理を提供する「霞町かしわ割烹 しろう」を2015年にオープンしました。当初はワインを気軽に飲むことができる金額相場にしようと思い、料理は一万円台のコースを提供していたんです。
ですが、ある日【もりかわ】時代のお客様が僕の和食を食べたいと言ってくださり、和食のコースも提供するようになりました。それが好評だったこともあり、【霞町しろう】という日本料理を提供する店に業態を変更し、2018年に現在の地で【山﨑】としてリニューアルオープンしました。
ーーーリニューアル前には全くジャンルの異なるお店でも働かれたそうですね。
イノベーティブフレンチ【CHIUnE】とスペイン料理【acá】でお仕事を少し体験させていただきました。超予約困難店と言われる二つの店で、本当に沢山のことを学ぶことができました。
中でも印象的だったのは【CHIUnE】では食事が一斉スタートで、お料理を「一番おいしい瞬間」に出すことに古田シェフがこだわっていらしたことです。お米だったら当然炊きたて、アイスクリームも作りたて、出汁も引きたてです。そして、そのスタイルに賛同してくれるお客様が来てくれるだけで店はやっていけるのだ、という大きな気付きがありました。
ーーー日頃、料理のインスピレーションはどのように湧いていますか?
様々な飲食店に食べに行って得ることが多いです。ただ単純に料理のアイディアが沸くというよりも、「こういうタイミングでおしぼりが出てくるとホッとする」とか、「この時期でも温かい料理が出ると嬉しいものだな」など、お客様視点も交えた感覚的なものですね。
お客様にお金をいただいて料理をご提供している以上、味がおいしいのは当然ですが居心地が良いことも大切だと思っています。”Restaurant”という言葉には”rest”(休む)という文字が入っていますよね。人の流れが多い東京で、忙しさやストレスを忘れてホッと心が休まる空間でありたいと思っています。
ーーー料理を作るうえで意識していることはありますか?
日本料理として評価される軸というものを踏まえたうえで「自分なりにはみ出すこと」を意識しています。はみ出しすぎていた頃もありましたが、昔は一歩踏み出していたものを今は半歩くらいにして「お客様の想定されているものの斜め上」くらいを目指して料理をご提供するのが完成度としては高くなるのかなと思っています。
【山﨑】では、産地直送で様々な地方の食材を取り寄せて、その食材の味を活かした料理を作っています。ただ、自分のイメージ通りの味に最終的に落ち着くのは100のうち1つくらい。納得できる形に辿りつくことは簡単ではないです。【山﨑】がご提供する日本料理としてしっくりくるまで試行錯誤を重ねて、それでも現在提供している料理の方がおいしいとなったら、新しく考えた方に変更はしないという選択をすることもしばしばあります。
最終的にお客様のためになれば良いとは思っていますが「お客様のためになるよう頑張ろう」といった、おこがましい考えは持っていません。できる限り「良いものを作りたい」と思って食材を吟味し、料理と向き合っています。結果的にそれがお客様のためになるのであれば、これ以上嬉しいことはないですね。
ーーーカウンター席で料理を提供するこだわりを教えてください。
当店はキッチンを囲むL字型のカウンター席なので、お客様は料理を作る過程から調理器具まで全てが見えます。そのため、立ち振る舞いなどの所作はもちろん、薬味入れ一つに取っても雰囲気があるものを選びたいなと。一つ一つに気を配っています。
調理中は僕が細かい指示を出さなくても、例えば冷蔵庫を開けて何か取り出そうとしたら他のスタッフが察して棚から器を速やかに出して並べるなど、スムーズな流れで10品提供していくことを心がけています。
お客様は目の前で料理が仕上がっていく過程を音や香り、料理人の技と共に楽しめるので、まるで舞台を見ているかのような臨場感を味わっていただけると思います。
ーーースタッフを育てるうえで意識していることはありますか?
働いてくれているスタッフは、自分の将来やキャリアをより輝かしいものにしたいという期待を抱き、ある意味人生をかけてこの店に来てくれていると思っています。
営業時間中は統率の取れた動きを重視していますが、お客様が帰られた後は営業中の僕の指示で疑問に感じたことがあれば共有してもらいます。また、仕込み時間は本人が成長できる大切な時間でもあり、質問をされたら本人が理解できるまできちんと回答するようにしています。もし自分も分からないことを聞かれたら、分からないなりに一緒に考えたりもしていますよ。
ーーーコミュニケーションを取ることを重視されていますね。
例えば、何か失敗した時になぜ失敗したのか、相手に伝える訓練だと思って失敗の原因を僕に説明してもらっています。理由は、お客様に料理をご提供するうえで自分の考えを伝えることが必要とされる場面があるからです。将来、自分の店を持った時に、例えば「この料理は一回焙った方が香りが良くなると思い、焙って作りました」というように、きちんと言語化することでよりおいしさが伝わりやすくなります。
スタッフにはここで働いた経験を自分のものにしてもらい、将来の独立または今よりも良い生活をできるようになり、幸せになってほしいと切に願っています。
ーーー近年、食のボーダーレス化が進む中で山崎様にとって日本料理とは?
近年では食材の流通も良く、日本のおいしい食材を海外のシェフが使うことも増え、どんどん料理のジャンルの境目が薄くなってきています。日本料理でもキャビアやバターを使った料理が提供されることもありますよね。日本料理の解釈は料理人によって異なりますが、僕なりの解釈は「基本的にお箸を使い、フォークとナイフは使わない」というレギュレーションのもとで、おいしい料理をご提供するものだと思っています。
例えばステーキを日本料理店で出す場合、お箸でも食べられるように一口サイズに切ってご提供することになるかと思います。ただ、ステーキはやはり鉄板の上で熱いまま食べるのがおいしく、切ると肉汁が出てきて見た目を美しく保つことが難しいことから自分の料理では出しません。
個人的には、お箸の隣にフォークとナイフとスプーンも置いてある食事だと、食後振り返った時に「さて自分は何を食べにきたんだろう」という感覚になってしまいます。「お箸を使う」ということが、日本料理を日本料理たらしめる一番最後の境界線なのかなと僕自身は思っています。
ーーー現在、予約はどれくらい先まで受け付けていますか?
以前は半年先、一年先まで予約を受け付けていましたが今は三ヶ月先までしか予約を受け付けていません。ありがたいことに最近は海外でのお仕事のお話を色々といただくため、フレキシブルに動けるようにしておきたいのと、お客様にその時のタイミングで予約していただきたいからです。
例えば松茸を食べたお客様が「次は蟹の時期にしようかな、もしくは筍の時期かな」と選べるくらいのタイミングが良いのかなと思っています。次の予約は決まっているけれど、さらにその次の予約までは受けていないというのは、自分自身へのプレッシャーにもなります。もちろん予約が入っている方が嬉しいのですが、だいぶ先まで予約していただくと甘えが出てしまうのではないかと思っています。
その都度ご提供したものでお客様に判断していただき、次を決めていただいた方が緊張感を保ちながら良いものを作ることができますし、チームの成長にも繋がると思っています。
ーーー海外でのイベントにも参加されているそうですね。
ニューヨークをはじめ、オーストラリアのシドニーやトルコなど、現地のシェフと料理を作ったりして海外に行く機会が増えています。ニューヨークには以前から行ってみたいと思っていて、知り合いにニューヨークのお寿司屋さんを紹介してもらったことがきっかけで、コラボイベントが実現しました。日本とはルールや調理器具などが異なり、大変なこともありましたが、ニューヨークでは日本の食材が手に入りやすいこともあって比較的料理が作りやすかったんです。海外のお客様も皆さん普通にお箸を使われていて、イベントの感触も悪くなかったですね。
また、日本料理を提供するうえで特に大切なのが「水」で、出汁を取る際には軟水が適しているのですが、現地は硬水なので出汁の味がうまく出るか懸念していました。しかし、現地には硬度を落とすことができる装置があることを知り、水の問題も解決して当店のクオリティを保った出汁がご提供できると知れたことは大きな収穫でした。
ーーー今後の展望や挑戦したいことはありますか?
日本では長年「同じ場所・同じ店で味を追求する」といったことが美徳ともされますが、僕としては他に何かできないだろうかという考えがあります。
僕は27、28歳で独立したので、一般的に独立する年代のシェフよりも5歳程若いです。そのアドバンテージを何に活かしていくかは真剣に考えなければならないと思っていて、その一つが海外進出です。日本料理のジャンルで積極的に外へ発信する人が未だ多くはない中で「あいつだったらやってくれるんじゃないか」と声をかけてもらっている感覚もありますし、お客様が【山﨑】の味を求めてくださっている以上、国内であれ海外であれ挑戦しない理由はないですね。
ーーーご自身が思う【山﨑】のアドバンテージを教えてください。
スタッフを募集する時も「ここは他とは違うことをやっているので、この環境に身を置きたい」と言って応募してくれる人がいます。
設定されている一つの枠組みの中でレベルを高めていく、それは非常に大切なことだと思います。ですが、そこにのみ全力を尽くす人生はもったいないと感じています。レベルを高めていく過程で、最初は誰しもが持っていた「わくわく」が無くなってしまうのはつまらないですからね。僕自身も己に対して「まだまだできるでしょ」と期待しています。
フラットな関係で切磋琢磨できる環境に魅力を感じて集まってくれているスタッフたち。その仲間と一緒に料理を作り上げていくのが【山﨑】というフィールドであり、アドバンテージなのだと思っています。
ーーー山崎様に夢があったら教えてください。
大きなチームを作ることですね。打たれ強く一枚岩のようなチームに育てること。例えば卒業したスタッフが「【山﨑】の出身だったら大丈夫」と信頼してもらえるくらい強固なものにしたいですね。そして、海外にもチームで進出していきたいと思っています。
ーーー最後に、山崎様にとって「おいしい」とは?
その4文字のために毎日頑張っています。その言葉が、自分が今までやってきたことにマルをつけてくれるような感じで、その「おいしい」を目指して頑張ることができます。
自分が作った料理に対して、なかなか気軽に「おいしい」と思うことはできないけれど、誰かが言ってくれる「おいしい」があることで救われる日々があると思っています。
西麻布の交差点そば【山﨑】の文字が印字された紅色の暖簾をくぐり、落ち着いた和の設えの先で迎えてくれるのは、山崎大将をはじめ若く活気あるスタッフたち。穏やかな照明のもと、山崎氏が料理やお客様、そして仲間について語る姿勢は、謙虚でありながらも日本料理の真髄をより広い世界で試すことへの覚悟が感じられた。
「チーム山﨑」として、これから世界を舞台に日本料理の可能性を存分に広げてくれそうだ。
取材・文 / 佐田 優佳
撮影 / 中岡 あずさ
Un restaurant de cuisine kaiseki qui séduit les visiteurs par son opération fluide depuis la cuisine ouverte et l'atmosphère chaleureuse entre le personnel. Respectant les ingrédients, les plats allient habilement technique et sensibilité, offrant une expérience exceptionnelle tant par leur apparence que par leur parfum et leur goût, suscitant à chaque visite de nouvelles émotions. Les plats préparés par le chef, qui a obtenu une étoile Michelin, laissent une empreinte dans le cœur avec chaque assiette qui révèle la saveur authentique des ingrédients.