ーーー料理人を志したきっかけは?
中学生の頃、地元で少ないお金でも楽しめるグルメといえば「ラーメン」でした。
その頃、本当においしいものを食べると、鳥肌がぶるぶるっと立つような感覚があるんだと気付いたんです。その感覚を探したいと思ったことが、料理の世界に強く惹かれた最初のきっかけだと思います。
自分自身がその感覚を味わいたいというところから、いつしか「それを提供したい」「誰かに与えたい」と思うようになったんです。
祖父母が青森で魚屋をやっていたこともあり、次第に魚にも興味を持つようになりました。高校生の頃には海鮮居酒屋でアルバイトを始め、気付けば「魚」について学びたい、料理をしたいと考えるようになっていました。
料理人になったのは19歳の頃で、魚を扱える和食の世界で働いていました。ただ、さらに深く魚に携わりたいと思うようになり、「それなら、鮨の道に行くしかないな」と門を叩いたのが22歳でした。
魚に重きを置いた料理を極めたいという思いがあり、初めは研究するために鮨を学ぼうと思ったことが、今の鮨職人としての自分につながっています。
ーーーちなみに一番好きな魚はありますか?
難しいですが、良い質問ですね。思い入れのある魚だと、「金目鯛」でしょうか。
目利きが非常に難しくて、顔つきや全体のフォルムなど、産地ごとの特徴を捉えるために、料理人になった19歳の頃から毎回のように写真を撮って研究していました。金目鯛の写真だけがフォルダの中にずらっと並んでいましたよ(笑)。
そんな苦労もあって、思い入れのある魚です。今でも金目鯛の目利きは、誰にも譲れないくらい自信があります。
ーーー修業時代のお話を聞かせてください。
当時の【鮨 りんだ】は、今よりもスタッフがたくさん在籍していました。修業先として選んだ理由は、若手が活躍していたからです。
職人の世界では、鮨職人も10年の修業が必要だと言われていた時代でした。周りの環境を見ても、活躍されているのは40〜50代のベテランの方ばかり。そんな中で、20代でも活躍している姿が見えたのが【鮨 りんだ】や姉妹店の【らんまる】だったんです。
僕もそんな長い修業期間を待てないと思っていましたし、20代ですでに活躍されている方がいる。さらに、僕は同世代の誰よりも一番魚好きだという根拠のない自信があり、すぐに活躍できると思って飛び込みました。
ところが、実際に蓋を開けてみると、想像より厳しい世界でした。
これまで和食を経験してきましたが、鮨屋での魚をおろす技術にはレベルの差を感じて、面食らってしまいました。店の求める技術に及ばず、1年近くも魚の持ち場に入ることができませんでした。ようやく魚の仕込みに入れた時は、嬉しさもありましたが、少しでも早く上達したいと必死でした。
実際に魚をおろし始めてからは、同期と綺麗におろしながらタイムアタックをしたり処理数を競争したり、成長は早かったと思っています。仕込みに入らせていただくまでが長くて大変でしたが、もちろんそこに至るまでにも学ぶことはたくさんありました。
現在はそういった期間は設けておらず、入社から日が浅くても、できそうな見込みがあれば、すぐに仕込みをさせてみています。
ーーー姉妹店【ブルペン】について教えていただけますか。
入社後の下積み期間を経て、魚をおろせるようになれば、今度は握り手として育てるための経験が必要になります。その若手が成長する場として、野球選手が「投げ込み」をする場所になぞらえて【ブルペン】を作ったんです。
当時の【鮨 りんだ】では、夜のみの1日2回転営業で、席数にも限りがあります。9席を2回転して18名様。コースで10貫提供するとしても、1日に180貫しか握る機会がありません。
もちろん毎日の積み重ねの中で必ず成長はありますが、それでも経験を積むには時間がかかってしまいます。
そこで【ブルペン】では立ち食い形式にして、その当時は1日50名様ほどお越しいただいていたので、本店に比べて約3倍の500〜600貫を握る機会がありました。
本店と同じ魚を使い、価格帯も半分ほどに抑えてリーズナブルに楽しんでいただきながら、若い料理人が経験を積む「握り込み」の場として作りました。
その頃はもう、本当に記憶がないほど忙しかったです。でも、充実していたのは確かですね。僕の料理人生の中でも、とにかく本気で取り組んだ期間だったという実感があります。毎日が必死で、ほぼ仕事場にいる日が当たり前でしたね(笑)。
現在、僕自身は【ブルペン】には全く入っていません。8代目の握り手が今は活躍しています。椅子席となり、立ち食いではなくなりましたが、理念は変わらず、若手が勉強させていただく場として続いています。
ーーー大規模なリニューアルを機に、【鮨 りんだ】の大将を任されることになったとお聞きしました。
【ブルペン】の隣には、卒業後に挑戦する場として【DUGOUT(ダグアウト)】という店舗がありました。僕が挑戦する場として、SNS・ネット非公開の1日6席限定で営業していました。
【鮨 りんだ】の改装が決まった時に、また【鮨 りんだ】に立ちたいという気持ちもありましたし、自分が適任なんじゃないかと思っていたところを、社長に背中を押していただきました。自分の中でも「これは次の勝負の時だな」と決意しました。
【鮨 りんだ】は昔からわいわいした雰囲気で、若手も活躍できる、賑やかなお店でした。
その頃に比べて客単価も上がり、設えも変わりましたから、今まで通りでいいはずがない。良さは引き継ぎつつも、新しい自分の色を出す必要があると考えました。襟を正す気持ちでメリハリも大切にしながら、素材や所作にも重きを置いて、品格を出せるように今もやっています。
ーーー変化を生み出していく中で、意識されているポイントはありますか?
お客様には、楽しんで笑顔で食事をしていただきたいんです。
プロとして厳しさも大切な要素ですが、若いスタッフが萎縮してしまうほどだと、個性を消してしまいますし、お客様も楽しめない空気感が漂ってしまいますよね。
まだ技術も経験もない中、武器になるのは若さです。生き生きとフレッシュに、そのスタッフの魅力を出せるようにしたいんです。
もっと積極的に前に出て、一緒にやっていこうと背中を押してあげられるようなチーム作りを意識していますね。
ーーーコースについて意識されていることはありますか?
「酢締め」に関しては、魚の味を消しすぎないようにしています。
「江戸前鮨」は酢の酸味が強いことが多いのですが、魚本来の個性を味わっていただきたいので、脂だったら脂を感じてほしいですし、雑味のない身質であれば上品な味わいを感じていただきたい。なので全体的に浅めに、優しく酢締めしています。
「漬け」もしょっぱくならない程度に軽く仕上げて、なるべくその魚本来の味わいを損なわないように意識しています。
ネタとシャリのバランスについても、お客様の好みに合わせて提供したいと思っています。鮨屋さんによっては、シャリを小さくしてくださいとお願いするのが難しいお店もありますが、僕はそのお客様の好みに合わせたい。
ネタの大きさも含めて、一貫一貫、そのお客様のことをイメージしながら握っています。
一番重きを置いているのは、このコースの流れです。
もちろん、一貫一貫に対する深掘りやこだわりがあったうえで、全体の流れが一番大切だと思っています。総じて満足できるかどうかを考えて、心電図のように流れに強弱をつけるイメージで、同じ魚でも飽きないようなコース作りを意識しています。
炙り、脂を楽しむもの、酢締め、光り物など、同じものが続かないようにする。薬味も、生姜、にんにく、調味料が被らないよう、食べ疲れしないコースを目指しています。
そして、驚きの反応をお客様から引き出せたら理想ですね。
コース後半に差し掛かって、結構ボリューミーなものでお腹が膨れてきた後に、大好きなネタが出てきても、一番おいしく食べられるタイミングを過ぎてしまっていることがあります。
そうならないように、野球の打順のイメージで、そこに至る一つ一つに役割を持たせて構成を考えています。
ーーー食材選びについて大切にされているポイントがあれば教えてください。
これはもう、状態の良い食材を用意することですね。
自ら市場に行くこともありますし、産地直送で送っていただくこともあります。
料理人を続ける中で、この時期はこの魚が良い、この産地が好きだという経験値も溜まってきましたから、それを毎年答え合わせしていくような感じです。
「今年はちょっと時期がずれたな」「2週間早かったな」など、毎年違ったところを調整していくんです。
新しい挑戦をすることもありますし、仕入れ先とのコミュニケーションも大切ですね。生産者の方や漁師の方から大卸を通り、仲卸に来て、そして僕ら店舗が買わせてもらって、それがお客様の口に届く。配送をしてくださる方も含め、人から人へつながってきているものを、最終的に僕らが責任を持ってお客様に提供するわけなんです。
だから、気持ちのいい人から買いたいなと思っています。
いい挨拶ができるとか、「あ、この人から買いたい」というところから仕入れたい。関係性を日々作っていけるように、たまには差し入れを持っていったりもしますよ。
料理人はリレーのアンカーとして最後のたすきを預かり、お客様へ届けて、笑顔で帰していただくのが僕らの仕事だと思っているんです。
何かあればしっかり伝えたうえで、お互いが成長し合えるような関係を築いています。お互い本気でやっているので。
ーーー空間やおもてなしについて意識されていることはありますか?
改装当初から僕が思っているテーマは、「お客様と一緒に、みんなで空間を作り上げる」ということです。
スタッフそれぞれが自分の魅力を出せて、みんなが生き生きと力を発揮しようということもそうですし、古き良き、昔の【鮨 りんだ】のちょっとわいわいがやがやとした感じも、残せるところは残したいと思っています。
あとは、お客様同士も顔が見える形のカウンターなので、一体感のある作りになっています。これは苦手な人や、デートシーンによっては向かない場合もあるかもしれないですけれど。
その場で一期一会の「食卓を共にする」というと大げさな感じがしますが、この並び、この空間、このお客様との掛け合いをみんなで作るというのが、僕にとって一番大切にしているテーマです。
なので、席順によって、同じお客さんでも席が違うだけで、全く雰囲気というか、空気感が違うものになってくるのも面白いところです。
それに、一人でお越しになるお客様もいらっしゃいますから、「一人にしない」というのも大切にしていて、初対面の人たちが全員で話をするような雰囲気になることもあります。
そうなると、みなさん笑顔で過ごして、楽しそうに鮨を食べてくださるので、「みんなで作り上げる」というところを、すごく意識しています。
ーーーカウンターの9席というのもこだわりが?
席数について野球は全く関係ありません(笑)。間隔を詰めて10席とする時もありますし、8席の時もあります。
チームで営業を続ける中で、僕らがお客様に成長させていただく部分がたくさんあります。
若いチームなので、一回り二回りと目上のお客様がいらっしゃり、経営者の方も多いです。
そんな方たちを相手にしているので、お金をいただく立場ではありながらも、学べるところは吸収しなさいとスタッフには伝えています。
ーーー今後の展望はありますか?
若いスタッフがたくさん入り、【鮨 りんだ】自体でいえば、ありがたいことに予約は基本的に埋まっています。今後は、昼間の営業をバトンタッチしたいと考えています。
これは僕自身にとっても挑戦です。僕が昼夜店に立ち続ければ僕自身は満足する一方、やはり【ブルペン】【ダグアウト】と経験を積み、もっと上を目指したいというスタッフが多い。
だから、そのスタッフたちが成長して、この【鮨 りんだ】の昼営業を任せられるようにしていきたいんです。そうすることで僕も夜に注力できますし、お店のスタッフのレベルも一緒に上がっていけると考えています。
基本的に握るのは一人なので、僕がいなくてもお店が回るようにしていきたいですね。個々のスタッフも伸びますし、昼と夜の差別化もより図れるかなと思っています。
若いスタッフがどんどん成長すれば、逆に夜の営業を任せたり、そうできるようになれば理想的ですね。
現状を変えていくことは勇気がいることなので、今はありがたいことに予約も埋まっていて、ご満足いただける状態は維持できています。
体制を変えていくことによって、もしかしたらお客様がいなくなったりするかもしれないと考えると、やっぱり怖い気持ちはあります。
ですが、いずれは挑戦しなければならないところだと思っています。
ーーー最後に、佐々木様にとっておいしいとは?
「楽しい」という要素も大切だと思うので、「笑顔」でしょうか。
おいしいと感じた時、表情が和らいだり、楽しいと笑みもこぼれますよね。社訓でも、口角があがるようにというのは大切にしている部分で、「楽しい」も「おいしい」も、やはり自分の心が豊かになる瞬間には、笑顔があるのかなと思います。
心豊かな人って、むすっとしていたり、口がへの字の状態ではなくて、常に笑みがある気がします。モテる人もそうですよね(笑)。
「旨味」や「余韻」も考えられますが、味覚を含めて、おいしさの判断基準は人それぞれ違いますし、全員同じではないので。
味覚が違ったとしても、共通するのは、おいしいと思った時の反応、表情に出る「おいしい笑顔」かなと思います。
本当においしいものを食べた時の感動を原点に、魚への探究心を深め、鮨職人として歩んできた佐々木氏。魚本来の味わいを引き出す仕事から、コース全体の流れ、そして若手が成長できる環境づくりまで、その視線は一貫して「より良いものを届ける」ことに向けられている。自身が成長するだけでなく、次の世代へ技術を渡しながら店を変えていくことも、これからの挑戦のひとつだ。最後に語られた「おいしいは笑顔」という言葉には、料理を味覚だけでなく、人の表情や心の豊かさまで含めて捉える佐々木氏の考え方が表れていた。
取材・文/AutoReserve Magazine編集部
撮影/馬場 昇一
Basandosi su una profonda curiosità per il pesce, offriamo sushi che valorizza il sapore degli ingredienti. Oltre al gusto di ogni singolo pezzo, curiamo il flusso dell'intero percorso, creando una composizione che cambia e si apprezza man mano che si mangia. Valorizziamo un'atmosfera informale in cui poter gustare il pasto con un sorriso.